小沢一郎を見直した・・・ 菅直人よりまし -面白くなってきた民主党代表選-

 民主党代表選挙が眼の前で展開している。ブロードバンドのおかげで、記者会見や立会演説会のライブが見られるオンライン時代である。ナマで見る小沢一郎、菅直人の表情や挙措動作は、新聞、テレビなど編集されたマスメディアの報道よりはるかに面白いし、伝える内容が濃い。筆者はこれまでどちらも応援する気になれなかったが、最近のライブ実演を見ながら小沢のほうがましかなと思うようになった。どうも菅にはパワーが感じられないのである。両者とも民主党政権による「官僚政治脱却」を唱えている訳だが、小沢発言の方にリアリティーが感じられるのだ。

 これは昨年来の大手新聞の小沢バッシングがあまりに強烈だったことへの裏返しでもある。朝日新聞が小沢立候補を伝えた8月27日の社説は「あいた口がふさがらない」との見出しで、政治とカネの問題を抱えた小沢の立候補は民意とかけはなれた行いと断罪した。昨年来、小沢の秘書たちが政治資金報告書の虚偽記載の容疑で東京地検特捜部の捜査を受けて起訴された。小沢本人も特捜部から事情聴取を受けたが不起訴となった。しかし、この事件に関する大手メディアの報道は一貫して、推定無罪の司法原則を無視した「小沢断罪」風だった。

 9月2日に行われた日本記者クラブ主催討論会で質問した大手4紙のベテラン記者は、まるで小沢“被告”を訴追する“検事”のように見えた。しかし小沢は悪びれた風もなく、秘書が逮捕されて以来辛く厳しい1年あまりを過ごし、自分も検察の捜査に協力した結果犯罪事実はなかったと認定されたのだから結果としては良かったと思うと、余裕綽綽で淡々と答えていた。このやりとりを見ていて、ベテラン記者諸氏は思い込みが強すぎるのではという感じがした。

 このように感じたのは筆者だけではない。以下に筆者の愛読するブログ「阿智胡地亭の非日乗」(http://blog.zaq.ne.jp/achikochitei/article/1779/#BlogEntryExtend)の一部を引用する。

 「ライブ放送を見た結果として小沢さんを見る目がかなり変わった。CMが入らず、放送局が切り貼りで、意図的な編集が出来ない生放送は、従来の自分が持ってきた(従来の記者クラブ系メディア経由で)印象をかなり変えた。」
 
 「感じたことは、記者クラブ系メディアの反小沢の姿勢の露骨さと、小沢一郎と言う政治家が、反官僚、脱官僚の思いをますます強固にしている、ということだ。」

 「今日の公開討論会で、大手マスコミの4人の記者の代表質問を聞いて確信したが、4人は民主党内部の内輪もめを煽り、使い古しのカネの問題を持ちだし揺さぶりをかけるだけで、彼ら記者たちに国民(くにたみ)の視点、立ち位置で、二人の候補者に、この国をどう持っていこうとしているのかの核心的、本質的質問は一切なかった。」-引用終わり-

 政治ジャーナリスト瀬戸栄一氏のブログ(https://chikyuza.net/archives/2791)が、同じ討論会について触れているので、一部を引用しよう。

 「会場の記者たちを含め全国中継のテレビ画面を見つめる有権者にとって、圧倒的な興味と関心の対象になったのが小沢一郎氏である。その結果、根っからの『小沢嫌い』の人々は別として、長い間政治の中心にいながら『政治とカネ』とか政局裏工作専門の剛腕政治家というイメージに覆われて、その『正体』がいつまでもはっきりしなかった小沢氏が、意外や意外、カリスマ性と貫禄十分の政治家であることが多くの視聴者に鮮明になった。」

 「剛腕、ヤミ将軍、恫喝する強面政治家、東北人独特のシャイで口下手、二人だけの場での説得工作の天才、猛獣、独裁者、公共事業の配分を牛耳るカネまみれの古い政治家-。他方では90年代にベストセラーとなった著書『日本改造計画』では日本人の自立性の弱さを指摘し、官僚批判と政治主導を説き、国連中心主義の安保政策を何度も訴えた。平等・対等の日米同盟関係と中国重視も自説の中心だった。」

 「この個性的な人物が最高指導者になれば、あるいは日本の政治家の不評が覆り、国際的にも再評価を受けるかもしれない、というのが筆者の率直な感想である。参院選で大敗を喫した菅首相では、受けたダメージがあまりに大きく、ひたすら難局を乗り切るのが精一杯、野党に追い詰められると政権の持続は不能ではなかろうか。」―引用終わり-

 公示日以来大手メディアは連日のように、一般国民を対象に小沢、菅のどちらを支持するかの世論調査結果を発表している。一例を挙げると、9月3日に日本テレビ系列(NNN)が発表した世論調査(1~3日電話調査)では、菅直人72%、小沢一郎16%という数字が出ている。メディアの調査ではこの傾向は共通で、どの調査も菅が一方的にリードしている。

 ところがインターネットを通じてウェブサイトが独自に行っている投票では、全く逆の傾向が出ている。これも一例を挙げる。当代随一の人気を誇る「きっこのブログ」が8月31日に行った緊急アンケートでは、菅直人276票、小沢一郎15465票という結果が出た。ネット読者だけとはいえ、1日に1万5千人以上の人がこのサイトを訪れて“投票”したというのだから凄い。その他のサイトが独自に行った人気投票でも、結果は小沢が圧倒的にリードしている。伝統的な大手メディアと新興ネット・メディアではこれほど反応が異なるというのは驚く。現代日本のコミュニケーションを解くカギとして、伝統メディアとネット・メディアの乖離を研究する必要がありそうだ。

 それはさておき、つい先日までは「ダーティー小沢」を嫌っていた筆者自身が、なぜ小沢擁護に傾いてきたのだろうか。一つには菅直人に失望したからだ。鳩山・小沢のダブル退陣を受けて政権に就いたこの3カ月間の菅のお粗末さ。曰く「ギリシャの轍を踏まないためには消費税上げも」と、昨年の総選挙マニフェスト「消費税は4年間上げない」を事実上反古にしてしまった。さらに菅は政権発足時、普天間基地問題でも辺野古移設を明記した5月の日米合意踏襲を宣言した。「官僚政治の打破」は口にするが、これでは財務官僚、外務・防衛官僚の言いなりではないか。

 目下日本経済の最大の問題はデフレだ。消費税を上げたら内需はさらに冷え込み、デフレ脱却はさらに遠のく。未だに外需頼みの日本経済は、この急激な円高に青息吐息だ。如何にして内需を拡大するかが当面最大の課題だというのに、菅は(多分)財務官僚の振り付け通り、財政改善を優先しようとする。日本の大企業は総額何百兆もの内部留保を持っているのだから、円高の下でこそ海外への資源投資や、内需拡大に役立つカネの使い方をするべきだという小沢の言い分の方がまっとうだ。

 問題の普天間基地について小沢の立場はこうだ。日米合意を白紙に戻せとは言っていないが、沖縄県民が辺野古移設に強く反対している現状では、現実問題として辺野古移設を強行できないのだから、日・米・沖縄の三者でもう一度話し合う以外にない。至極当然のことだ。辺野古移設を大前提に、できるかどうか分からない沖縄の負担軽減を言っている菅より、ずっと筋が通っているではないか。

 米国は、沖縄の海兵隊の主力をグアムに移転するという大方針を立てている。その上で、数年後に実用化されるはずの新型垂直離着陸機「オスプレイ」用の海兵隊基地を辺野古に新設したいという、言って見れば贅沢な要求にこだわっている。これまでの日米交渉の歴史から、アメリカ側は何事でも強く出れば日本は譲歩すると思い込んでいる。しかし、もし小沢が首相になれば、アメリカにとって手ごわい相手になるだろう。例の日米ハンドラー、マイケル・グリーン(前米国安全保障会議日本部長)が早速小沢立候補にケチをつける発言をしたが、こんな発言を聞くにつけ、菅でなく小沢にオバマときちんと話し合ってもらいたいと思う。

 とまあ事の次第で小沢擁護論を綴ってきたが、筆者自身小沢の本質を理解して弁護している訳ではない。「官僚に日本の行く末を任す訳にはいかない、国民に選ばれた政治家が日本の将来を考えて決断しなければならない」という小沢の主張は尤もだと思う。しかし小沢は本質的には保守政治家で、憲法9条を含めた改憲論に賛成だし、国連安保理決議さえあれば自衛隊はどしどし戦闘任務でも海外出動すべきだという論者だ。経済政策としては新自由主義路線に近いことをかつては主張していた。しかしこの人の真骨頂は、イデオロギー性が薄いところにあるような気がする。     

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