安倍晋三政権誕生から間もなく1年、自民党政府はますます保守色を強めている。「特定秘密保護法案」をめぐって世論は紛糾しているが、今度は小中高「教科書基準改正」を企図している。〝戦前回帰〟を思わせる政府案の内容に不安が募っている。
下村博文・文部科学相は11月15日の記者会見で、教科書の記述に政府見解を反映させるよう、検定基準を見直すことを含む「教科書改革実行プラン」を発表した。2014年度検定の中学校用教科書から適用する。
従軍慰安婦、南京事件、領土問題の記述などを念頭に
社検定基準に新たに盛り込むのは①政府見解や確定判決がある場合は踏まえた記述にする②諸説ある事柄については多数説や少数説をバランスよく取り上げる――との内容だ。南京事件の被害者数や「慰安婦」への日本軍関与の実態、尖閣諸島や竹島など領土に関する問題が念頭にあるとみられる。教科書を使って政府見解を学ばせよう、というのであれば、事実上の「国定教科書」に他ならない。愛国心教育を重視した復古主義的な教育改革を推し進め、歴史の軌道修正を図りたいという思惑が透けて見える。
「村山富市談話」修正の懸念も
朝日新聞11月16日付朝刊は、「教科書検定制度の見直しは保守系色を強める自民党にとって象徴的なテーマだ。高嶋伸欣・琉球大名誉教授は『自民党タカ派の歴史観を性急に反映させようとする動きで、政治権力を使って私的願望を果たそうとしている』と指摘。政府見解といえば1995年に村山富市首相がアジア諸国への植民地支配を公式に認め、心からのお詫びを表明した『村山談話』もそうだ。これらも記述されるのか」との警告を発している。安倍氏は首相就任後、『村山談話見直し』にも言及していた。1995年後の歴代政権が踏襲してきた(安倍第1次内閣も)政府方針にも手をつけるとは、由々しき問題である。「近隣諸国条項」の改定は今回見送られたと伝えられているが、一歩間違えば対中、対韓外交はさらに冷え込み、米国も調整に苦慮するに違いない。
沖縄戦での「住民集団自決」も…
琉球新報11月15日付社説も、「今年3月に公表された高校の日本史教科書検定でも、南京事件について『少なくとも十数万人が殺害された』との記述に対し、『犠牲者数について諸説あることが理解できない』との検定意見がつき、『犠牲者については、約20万人や十数万人、またそれ以下など諸説ある』と修正された経緯がある。教科書検定基準が改定されれば、沖縄戦で軍の強制・誘導などによって引き起こされた住民の死(教科書は「集団自決」と表記)の記述も対象になる可能性が高い。軍の強制は沖縄戦研究の定説であり、最高裁判決で確定している。にもかかわらず強制を示す記述の削除や、関与を否定する見解を併記するよう圧力をかけるなら、国家による史実の歪曲になる」と批判していたが、まさに同感である。
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