少子高齢化時代の日本の老人

原発事故や憲法改正等の政治課題や、消費税増税や金融緩和等の財政・経済課題の陰に隠れて見過ごされがちですが、これから本格的に迎える超高齢化社会における老齢期介護について、ちきゅう座で談論風発の皆様方に置かれては如何お考えになっておられるのでしょうか。

現下は、反権力の戦いに意気軒昂とされておられても、老齢の波は、ご自身にも押し寄せることは必定ですが、その備えは充分なのでしょうか。 これは嫌味では無く、自身で肌身に感じていることなのです。 私は、正直に言いまして云いしれない「恐怖」を感じているのです。

その端緒になったのが、昨年に私が住む自治体で主催された介護予防のための体操教室に参加したことです。 その教室では、日常生活にあって家庭で出来る高齢者向けの体操を諸種に渡って教授して頂いたのですが、如何に介護予防と云っても完全に予防可能なものでは無く、例え脳梗塞等の疾病を免れたと仮定しても、何時かは他人に依る介護が必要な老齢期に至るのが生物である人間の宿命でしょう。

当然ですが、教室参加者は、老齢の者ばかりでしたので、共通の関心は、医療や保険、それに介護等で、特に、高齢の両親や自身の介護には、恐怖を感じていた方々が多数でした。

特に、高齢で一人暮らしの男性がその傾向が強く、自身が介護の対象になる事態の訪れには身を震わせる程の恐れを感じておられました。 勿論、私もその内の一人でした。

理由ですか。 決まっています。 経済的なものが基にあるのは当然でしょう。 勿論、安価で介護を備えた公的な老人ホームが完備しているなら誰も恐怖等を感じる訳がありませんし、自己資金が潤沢にあれば、悩む必要もありません。 少しネットで検索すれば判明することですが、正しく地獄の沙汰も金次第であり、金さえあれば介護完備で医療施設も併設の老人ホームへ入居すれば済む話ですから。

ところが、それには、多くの場合、入居時に、一時金として数千万円の金銭と月極数十万円の金銭が入用になります。 とても公的年金を頼りに生活している我々一般民衆が入居できる訳がありません。 そして残念ながら、我々一般人が介護を要する老齢期に入所出来る特養老人ホームは、現在でも待機者が数十万人に上る状況であり、簡単には入れるものでは無いのです。 従って、このまま推移すれば自宅で介護もされず野垂れ死に至る老人が続出する事態になることは間違いがありません。

現在、この国が進めている在宅介護の手法は、暗黙に介護をする家族の存在を前提としています。 ところが、家族の経済的な事由で、或は、離婚等の縁戚解消等の事由等で、単身で老齢期を迎える人が多数に上ります。 私もその内に入りますが、介護して貰うにも縁戚の者が居ない人のことを考慮せず介護制度を構築しても空中楼閣でしか有り得ません。

因みに、私の住む街でも、特養老人ホームを除く有料老人ホーム等の施設が相当数出来て、常時入居者募集をしています。 でも、そう簡単に入居者がある訳はありません。 相当な金融資産をお持ちの方でないと入居出来ないので、我が家の周辺の方々が入居されたことはありません。 入居者の皆さんは、遠隔地から来られた方々のようですので、私に面識のある方々はおられません。

金融資産を潤沢にお持ちの方々は、介護人を従えて電動車椅子で街を散歩され、その脇を、杖を頼りに貧乏長屋の介護を要する老人が歩く光景を眺めながら、世の中の無情を感じるのが常です。 国民年金の月数万円の給付を受けながら生活する多数の老齢者は(勿論、無年金の人も多数居ます)、一旦、介護を受ける身となっても介護に要する金銭を潤沢に保有していないために日常生活に窮するのが現状なのです。

金融資産保有状況の調査では、日本の金融資産はその大半が老人の所有であり、一人当たり数千万円の保有をしている者も多数に上る、とのことですが、例え、二千万、三千万の金融資産を保有していても、一旦、介護を要する状態になると、破綻を迎える事態に陥ることも珍しいことではありません。

実は、私の友人で、両親の介護に疲れ果て死を迎えた者が居ます。 数十年来の友人でしたが、彼は、介護の費用捻出のために自宅まで売却し苦労した末に両親を看取ることも出来ず突然に他界しました。 このように例え、介護出来る縁戚の者が居たとしても老齢期の介護は、本人も介護をする人も消耗するものです。 何処からも、何の援助も得られず奮闘した末の死は無残でした。

この国の我々一般大衆は、国も自治体も頼りにはならず、さりとて我が身には充分な備えがある訳ではないので、後は、神仏を頼る他は無いのでしょうか。 関西では斑鳩の里にある「ぽっくり往生の寺」として名高い吉田寺(きちでんじ)を訪れる人が増えているそうです。 このお寺の御本尊前で御祈祷を受けると、長患いすることなく寿終の後には阿弥陀如来のお迎えがあるそうですから。 私も、この連休の間に訪れる予定です。

 

吉田寺 (斑鳩町) Wikipedia

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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