尖閣紛争に火を着けた都知事に大きな責任 -日中政府は事態鎮静化と友好関係の深化を-

著者: 早房長治 はやぶさ ながはる : 地球市民ジャーナリスト工房代表
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尖閣諸島の領有権を巡る中国国内の反日デモは、小規模のものを含めると、100都市以上にのぼっている。スーパーが破壊、略奪され、工場が放火されるなど、少なくない日系企業が被害を受けている。日中両政府は事態の鎮静化に努めるとともに、友好関係を多層化し、話し合いのパイプを太くすることに力を注ぐべきである。

今回の騒動は石原慎太郎・東京都知事の、都が尖閣諸島の購入を企てるという[妄動」から始まった。地権者から土地を買い取った上、港と付属施設などを建設するという計画を発表した。都の動きが中国を刺激することを恐れた政府は、国が買収し、国有化した。

石原氏の意図は明解ではないが、これまでの言動から推測すると、日中関係を疎遠化、ないし悪化させることである。対中関係が悪化したら、日本経済を再生させるための成長戦略に致命傷に近い打撃を与えるのは必至であるが、石原氏に経済問題を配慮する気配はない。このため、成長戦略を進める政府としては中国側の反発を気にしながらも、国有化に踏み切らざるをえなかった。

尖閣諸島国有化に対する中国側の反発は予想以上に強かった。しかし、それは当然である。もし、韓国政府が突然、竹島(韓国名は独島)の国有化を閣議決定したら、外交問題に冷静な日本国民もデモなどで怒りの声をあげるのではないか。江沢民・主席時代の愛国教育によって、日本の侵略に対する恨みが国民の間に浸透している中国で今日のような大規模なデモが展開されることは不思議ではない。

だが、日本批判の表現は度を越している。日本企業に対する破壊・略奪や放火は、何をかいわんやである。そのような行動をとった中国人の常識と品性を疑う。今のところ、在留日本人に死者やけが人がでていないから幸いだが、中国政府は不幸な事件が起きないうちに大衆の行動にブレーキをかけるべきである。日本政府も国内の在留中国人と中国外交施設の安全確保に全力をあげる必要がある。

尖閣諸島周辺海域での両国艦船の衝突は絶対に避けるべきである。いったん衝突が起きたら、歯止めがかからなくなり、最後には軍事衝突に発展する可能性を排除できないからだ。この点に関しては、とりわけ中国側の自制を求めたい。

問題の解決は両国の外交当局が根気強い交渉を重ねるしかないが、それでも解決に至らない場合は国際司法裁判所に共同提訴するのも一つの方法であろう。

外交交渉を成功させる前提は、内政の安定である。日本は最近5年続きで首相が1年毎に交代している。中国は共産党幹部の汚職が続出し、共産党への国民の信頼が揺らいでいる。このため、胡錦濤政権は政治に対する国民の反応に過度に敏感になっている。このような内政の状況では、両国政府が領土問題を解決するのは極めて難しい。

外交交渉を成功させるためには、外交ルートの接触だけでなく、経済リーダー、文化人、地方自治体、草の根などの交流が必要である。とりわけ重要なのは政治リーダー間のパイプである。かつて日本には松村謙三、田中角栄、大平正芳、古井喜実氏ら中国要人といつでも話せる政治家が存在した。しかし、今日はほとんど不在である。国会議員をすでに引退した野中広務氏(元官房長官、自民党)が細いパイプを持っているくらいである。与野党のリーダーは政治家ルートの開拓に懸命に努力しなければいけない。

領土問題は、とりわけ中国国民の意識の中で、かつて中国大陸が日本を含む強国に侵略されたという歴史問題と深く絡んでいる。したがって、日本人がそのことを理解しない限り、絡んだ領土問題の糸を解くことはできない。歴史問題に対する両国民の理解が、日韓間と同様に、いまだに食い違っていることを、日本人は認識すべきである。

翻って考えると、日中関係を第2次大戦後最大の危機に陥れた石原・東京都知事の罪は重い。石原氏は国民と被害を受けた企業に謝罪し、責任を取るべきである。一方、両国民は一刻も早く「対立の渦」から抜け出し、領土問題について冷却期間を置いた後、将来に向けたウィン・ウィン関係を築くために歩み出そうではないか。暴力を含む力の行使は、両国民に何の得もない。
                            (9月19日記す)    

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