年頭のごあいさつ

                               2026年1月3日 土田修

 あけましておめでとうございます。でもあまりおめでたくはありません。世界は確実に戦争に向かっているからです。

 EUは総額8000億ユーロ(約130兆円)を動員する「欧州再軍備計画」を提案しました。背景には、ウクライナに侵攻したロシアが近い将来、欧州に攻め入る可能性が高いという「ロシア脅威論」があるからです。仮想敵国をでっちあげ、戦争を準備することは、相手国にとって戦争を開始したことと変わりがありません。バルト3国やポーランドはロシアとの戦争準備に明け暮れ、ドイツとフランスは志願制による「兵役制度」の導入を決定しました。数年後には兵力を倍増させるそうですが、志願者が少ない場合や有事に際しては「徴兵制」に切り替える可能性が高いそうです。

 戦争や戦争の準備を口実に、国家が大規模な財政支出を行い、産業維持、雇用創出を図る「戦争ケインズ主義」が進んでいます。その結果、福祉や公共サービス、教育、医療などの予算が縮減されることでしょう。フランスのマクロン大統領は「国家への奉仕」と、戦争の犠牲を受け入れる「精神力(force d’âme)」を国民に求めました。それに応じて、フランス国内では「フランス人は戦争に入る準備ができているのか?」「自国の子どもたちを失うこと受け入れる覚悟はできているのか?」という議論がメディアを賑わせています。

 一方、アメリカは国益優先と西半球への対応を重視する新たな「国家安全保障戦略」を発表しました。既に、トランプ政権はベネズエラのマドゥロ政権を打倒するため武力による海上封鎖を始めていますが、ベネズエラで「第2のイラク戦争」が起きる可能性を否定することはできません。

 欧米に限らず、日本でも高市「極右」政権が「台湾有事」を理由に、安保3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)を見直し、防衛費を2%に引き上げようとしています。高市首相は、「非核3原則」第3項「持ち込ませず」の見直しに言及していますが、自らの側近である首相補佐官(安全保障担当)は12月19日のオフレコ記者会見で「日本が独自に核武装すべきだ」と持論を展開しました。防衛費拡大に核武装論と、高市政権もまた「戦争ケインズ主義」へと傾斜しています。自衛隊員の欠員が2万人に上っていることから、近い将来、「兵役制度」についても言及することでしょう。

 このように世界中で戦争屋と極右政治が跋扈する中、希望はあるのでしょうか? ニューヨーク市でゾーラン・マムダニ氏が、ワシントン州シアトル市でケイティ・ウィルソン氏が市長選で勝利しました。2人は「民主的社会主義」を掲げ、貧困層への住宅支援や富裕層への課税など新自由主義への対抗措置を開始しようとしています。アメリカでは、キリスト教福音派や「MAGA派」を基盤に、富裕層優遇政策に余念がないトランプ政権に対抗する「社会主義」勢力の台頭が始まっているのです。暗い時代にあって、これは数少ない希望ではないでしょうか? 一方、フランスでも経済学者ガブリエル・ズックマン氏が提唱する「ズックマン税」が国民議会で審議の対象になりました。欧州左派や環境保護運動家らが支持するズックマン税は超富裕層への課税を強化するだけでなく、保有資産に対する課税を求めています。超富裕層が跋扈する世界にあって、これも希望のタネかもしれません。

 では日本は? 安倍政権に続き、高市政権によって「極右」化する自民党が「黄昏」を迎えているというのが筆者の個人的な意見ですが、多党化とポピュリスト政党の躍進が続く政界で、対抗勢力となるオルタナティヴ勢力の姿が見えてこないのは残念です。

 地方では、杉並区の岸本聡子区長ら非自民系首長が集まり、「地方自治を基盤にした新たな政治潮流」をつくろうと、2022年に「Local Initiative Network(通称Lin-Net)」が発足しました。日本でも市民活動に支えられたミュニシパリズムの取り組みが始まっているのです。12月21日に都内で開催されたLin-Net発足3周年の記念集会では、東大准教授の斎藤幸平氏が講演で、ニューヨーク市とシアトル市での「社会主義者」の台頭を評価し、トランプ現象とは違ったアメリカの新しい潮流が始まっていると強調しました。さらに斎藤氏は「10年か20年後にはアメリカで社会主義者の大統領が誕生する」と予言しました。市民活動をバックに自治体が社会主義的な改革実践するミュニシパリズムの今後の展開に注目したいと思います。

 2025年10月にフランスのボルドー市で、「社会的・連帯経済(SSE)」を掲げた「社会的・連帯経済グローバルフォーラム(GSEF)」が開催されました。日本からも協同組合関係者らが参加し、それぞれの取り組みを発表しました。ポスト資本主義の政治経済システムとして期待されているSSEは、19世紀のフランスでマルクス以前の「社会主義」として誕生しました。主要なアクターは協同組合、共済組合、アソシエーション(非営利組織)などです。欧州連合(EU)では加盟国にSSEのGDP比20%を求めています。

 スペインやイタリアなど南欧とアフリカ・中南米などでSSEの取り組みが拡大していますが、それは新自由主義的資本主義に対抗し、ポスト資本主義を模索する改革への意欲が高まっていることの証左です。欧米や日本でもポピュリスト的な「極右」勢力が台頭していますが、その一方で、SSEやミュニシパリズムのようなオルタナティヴな実践が拡大しているのも確かです。

 今後、地域活動と自治体の連携によるSSEやミュニシパリズムの展開に注目する一方、ポスト資本主義を模索するオルタナティヴな対抗軸の一翼を担っていきたいものです。今年もよろしくお願いいたします。

 ル・モンド・ディプロマティーク日本語版編集委員 ジャーナリスト(元東京新聞記者)

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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