幻の原稿 ― 「西暦使用の勧め」

親しいYM弁護士は、飄々、悠々という言葉の似合う人。口角に泡というタイプとはおよそ正反対。ところが、嫌煙権と元号反対では決して譲らない。もっとも、その主張は常にマイルドである。

私は「天皇制を国民意識に刷り込む元号に反対」というが、彼は「元号は不便。便利な西暦を使おう」という。

その彼が、とある団体の機関誌に「西暦使用の勧め」を寄稿したところ、ボツになったという。その話しを聞いて、その原稿を当ブログに掲載したいと依頼し、快諾を得た。

昨日お話した幻の原稿です。多少修正しています。
おとなしい原稿ですが、ボツになることはある程度予想していたので、驚きはしませんでした。

先年、出身大学の在籍証明書を取ったところ、すべて西暦表示になっていました。外国人学生も増えていることですし、今や当然のことなのでしょうね。

金融機関も西暦に統一すれば楽なのに、なぜか「和暦」。

ちなみに手許にある預金通帳は、
みずほ「年月日」
三菱「年月日」
三井住友「年月日(和暦)」
ゆうちょ「年月日」とあって、
年月日欄だけでなく、通帳に「平成」の文字をを印刷している銀行はありませんでした。これなら、改元により、無駄になることもないのですね。

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             「西暦使用の勧め」

東京オリンピックの開催が2年後、2020年7月に迫って来ました。その前、2020年4月1日には改正民法が施行されます。そして、2019年5月1日から新元号となります。
ご存知のとおり、元号は「元号法」により規定されており、その法律は、「元号は、政令で定める」、「元号は皇位の継承があった場合に限り改める」との2項しかありません。日本国民は(あるいは、日本の中では)元号を使用しなければならない、との規定はどこにもありません。

裁判所は「元号」使用です。
しばらく前までは、分割金を「平成33年6月まで支払う」といったありえない年号を書いた和解条項が見受けられました。今でも、見られるのかもしれません。おそらく、こうした条項に違和感を覚えた人は少なくないでしょう。一義的、明確に、分かりやすく書くというのが和解条項だから、明らかに存在しないと分かっている年号をあえて書いていることに、そう感じたのでしょう。
日本を訪れる外国人も増えています。観光客だけでなく、長期間住み続けている人もいます。外国人が裁判の当事者になることも珍しくありません。

そうした外国人に対して、日本にいる以上は元号を使用せよ、元号だけで不便はないはずだ、というのは乱暴でしょう。
官公庁は、元号を積極的に使っているようですが、さすがに、わが国の旅券(パスポート)は、生年月日、発行年月日、有効期限ともに西暦表示であって、元号はどこにも見当たりません。世界で通用させるためには当然のことです。

新元号は2019年4月には決定されるようですが、今後どうしても元号を使用するというのなら、少なくとも西暦併記にしてもらいたいものです。時代を語るのなら元号は便利なものかもしれませんが、実用性を考えるのなら、西暦が便利です。変わらない、世界で通用する、日本にいる外国人にも分かる、期間計算をするのに便利、等等です。

期間計算で、元号が二つ、三つ、それ以上にまたがることも稀ではありません。年齢計算ですら面倒なものになります。結局は、始期、終期の元号年をいったん西暦年に直して計算することになるのでしょう。それなら、西暦表示を基本とすべきです。
2018年10月から毎月1回、36回の分割払い、そのような和解条項をこれから作成するとき、皆様はどのように書きますか? 「2018年10月から2021年9月まで(36回)」と書けば分かりやすいし、明快です。
ちなみに、西暦表示の場合、わざわざ「西暦2018年」と書かなくても、単に「2018年」と書けば通用します。
裁判所の和解条項、調停条項でも、今回の元号改正を機に、元号表示から西暦表示とすることを勧める次第です。西暦は世界暦です。

                                以   上

う~む。これがボツか。

(2018年6月6日)

 

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2018.6.6より許可を得て転載

http://article9.jp/wordpress/?p=10482

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/

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