身近なところに被災の爪痕が
一つ前の記事で、私が住む地域で市民主体のささやかな被災者支援運動を始めたことを紹介した。この記事はその続報であり、運動を進める中で出会った体験のメモである。
18日にご近所の数人の知人と声を掛け合って始めた活動――もっと本腰を入れて被災者受け入れの態勢をとるよう行政に求める運動――だが、明日22日に市役所へ賛同署名を添えて要請に出向くというスケジュールが決まったこともあって、有志が手分けして署名を呼びかけたところ、賛同の輪が広がってきた。
私も昨日、手紙を添えて同じ丁目、近隣の丁目の知人15軒に署名欄付きの要望書を届けたところ、昨夜から今までに家族や知人の署名が記入された用紙が次々に戻ってきた。
その中には、私が署名用紙を届けた知人から転送された用紙に記入をして拙宅まで届けに来られた方もあった。玄関先で連れ合いと立ち話しなって事情を聞くと、つい3日前にお母さんが福島から緊急避難して来られたばかりとのこと。しかも、そのお母さんが避難所で食事もままならなかったためか、こちらへこられて急に体調を崩され、一時、救急車で病院に運ばれたとのこと。また、同じく署名用紙を届けてもらった近所の方も実家が仙台で心配し続けておられる最中とのこと。さらに、ご近所の別の方によると、ご両親が福島から避難して来られ、近くのマンションに入られたという。
少し、声かけをしただけでも、このように大震災の爪痕が自分のすぐそばに及んでいることを思い知らされた。さらに、このように頼れる身寄りがない被災者は今なお、暖房も乏しく、食事にも事欠く被災地周辺の避難所で救援物資が届くのを待ち焦がれているのである。
このような現実を知ると、「近隣の自治体に抜け駆け的に受け入れOKを公表したりできない」とか、「松戸市のように受け入れOKを公表すると問い合わせが殺到して混乱してしまう」などと、今なお事無かれ主義に汲々としているわが自治体当局の姿勢を一市民として情けなく思える。
市民も支援に参画を~自治体に支援を促すだけでなく~
しかし、自治体に「もっと本腰を」と叱咤するだけでよいわけではない。市民も自分たちにできる支援の方法を積極的に提案し、行政と協同していく姿勢を、あるいは市民が協同できる開かれた被災者支援の態勢づくりを、行政に要請することが重要である。受け入れ可能な施設の確保の面と財源の面から、この点を具体的に考えてみたい。
どこにどんな施設が~市民からの情報提供~
被災者支援を行政に要請しようとすると、まっさきにぶつかるのは、自分の自治体区域のどこに、どれだけ、一定期間、被災者を受け入れできる施設なり、空き部屋なりがあるのかである。こうした支援のためのハードな部分は行政が主体的に確保するほかないが、市民としても自分たちの居住区域のどこに利用可能な施設(公営はもとより民営も)があるのかという情報を行政に提供することが重要である。これについて私たちの議論の中ではいろんなアイデアが出た。
「近くの某大学のセミナーハウスは年数回(新入生のガイダンス、夏の合宿など)しか使われていないようだから、あそこを借り受けできないか? 駅前のホテルは日頃、夜になっても照明がつかない部屋が多い。そういう空き部屋を市が一定期間借り上げられないのか? 松戸ではお寺に5世帯を受け入れたそうだ。それなら、近くの●●寺だって、頼めないのか?・・・・・」
そこで、私は22日市へ出向いて本腰で支援をと要請する時、「私たちの近くにこんな候補施設がある。是非あたってほしい」とプリント資料を添えて説明をしようと提案した。
財源は?
私たちの要望書では、財源について次のように提案している。
3.空き部屋確保に必要な市の財源については、市の予備費や不要不急の歳出予算を削減するなどして捻出する策をご検討いただき、その上で不足する分は広く市民に義捐金を募って賄う案を検討いただくよう、提案いたします。このような自分たちの身近な場所での目に見える被災者支援であれば、多くの市民の共感と賛同が得られると私たちは確信しています。 これについて知人の中には、公営ならともかく民間施設についてあてにするのは難しいし、第三者である市民がどうこういうのは無理ではないかという意見が返す人もあった。これについて私たちは他の都府県で旅館、民宿、ホテルなどを自治体が一定期間借り上げ、それを被災者に無償で提供する例が少なくないという実例を紹介するのにとどまっていた。
しかし、その後、国は被災地でない都道府県が避難者を積極的に受け入れできるよう財源の面で災害救助法の適用を弾力化する方針を打ち出した。厚労省「東北地方太平洋沖地震の被害状況及び対応について(第22報)」平成23年3月19日、がそれである。その要旨は、被災地でない都道府県が避難所や応急仮設住宅を設置した場合や旅館・ホテルを借り上げた場合でも相当な経費を国庫負担するというものである。
その先例として、新潟県中越地震の時に自治体が避難所として、旅館やホテルを借り上げる場合は1人1日5,000円(食事込み)を国庫が負担した。また、岩手・宮城内陸地震の時に、自治体が応急仮設住宅として民間賃貸住宅を借り上げる場合は、寒冷地仕様を考慮して一戸当たり月額6万円を国庫が負担した。
こうした国庫負担は被災地の自治体が行なう支援策(具体的には被災自治体の財政力に応じて、軽費の5割~9割を国庫負担)であり、被災地でない都道府県が行なう支援策の場合は国庫負担率がこれよりも低くなると考えられる。したがって、地元自治体の負担部分を賄う財源をどうするのかが問題になるが、これについては、私は要望書に下線を付けた部分の考え方が踏襲されるべきだと考えている。
市議会にも全会派の共同で市に本腰を入れた支援を促す動きが
私たちは今回、市長宛の要望運動を始めるにあたって、市議会の全会派に協力を要請し、少なくとも全会派1人ずつの議員に22日の要望の場に同席してもらうよう要請しようということになった。そして、有志が手分けして市議に当たった結果、今現在で4つの会派、5名の市議会議員と1名の県議会議員から同席するという返答をもらっている。
さらに、私たちが接触した市議会議員によると、連休明けにも市議会全会派の共同で市に対し、もっと本腰を入れた被災者支援・受入れの態勢を早急に整えるよう求める申し入れをする協議が進んでいるという。市民と議会が共同歩調でこのような被災者支援の運動を実行できるなら、大変有意義なことと思う。様々な創意をこらしながら、このような運動が全国に広がることを願っている。
初出:「醍醐聡のブログ」より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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