底辺労働者が吐いた怒りの川柳 -句集『がつんと一句!――ワーキングプア川柳』-

 「子づくりの望みも失せる国づくり お橙柑さま」。『がつんと一句!――ワーキングプア川柳』と題する冊子が、レイバーネット日本・川柳班の編著で刊行された。ワーキングプアとは、賃金が安く生活の維持が困難な就労者層のこと(大辞泉)で、「ワーキングプア川柳」は、そうした底辺労働者たちがつくった川柳のことだ。そこには、現代社会に対する怒りや批判が満ちあふれている。

 レイバーネット日本とは、働く人たちをつなぐ情報ネットワーク。2001年2月の発足で、ウェブサイト、動画配信、レイバーフェスタ、レイバーネットTVなどを通じて情報・文化発信を行っている。会員は450人。
 レイバーネット日本の共同代表の松原明さんによると、「ワーキングプア川柳」が生まれたきっかけはレイバーネツト日本が毎年12月に催しているレイバーフェスタだった。これは、働く者の文化祭として映像や音楽を通して、ユニオンの魅力を伝えようとする試みで、その目玉は、だれでも応募できる「3分ビデオ」だった。仕事のこと、生活のこと、社会のことなど、さまざまなテーマと視点から、毎回面白い作品が多数集まった。が、カメラやパソコンなどの機材を使わなければ出来ないので、応募する人は限られていた。
 他に何か参加型の文化表現はないものかと考えていて、思いついたのが川柳だった。日ごろ考えていることや言いたいことを「五・七・五」にして表現する川柳なら、短くて鋭く、かつ面白く、そして、だれでも参加できる。時あたかもリーマンショックで、働いても食べられないワーキングプアが大量に出現し、大きな社会問題となっていた。
 そこで、2008年12月に開催したレイバーフェスタの一つの企画として「ワーキングプア川柳」の公募を思い立ったという。
 
 予想以上の反響があった。101句の応募があり、投票の結果、一番人気があった句は「ふざけるな女は前から非正規だ」だった。非正規問題とは実は女性問題だったんだ、この句に女性たちの怒りが代弁されていたからだろう、と松原さんは思った。ともかく、松原さんさんにとってうれしかったのは、フェスタにビデオ以外に川柳という新しいジャンルができたことで参加者が増えたことだった。

 これを機に、レイバーネット界隈には一気に川柳ブームが押し寄せた。2009年12月のレイバーフェスタには207句、2010年の公募には409句が寄せられた。こうしたブームの中で、「レイバーネット内にもぜひ川柳のグループをつくりたい」という声が上がり、レイバーネット日本・川柳班が生まれた。09年のことだ。

 本書の中で、松原さんは書く。
 「ユーモアでサラリーマン生活を笑いとばす『サラリーマン川柳』は、高度成長の時代に一世を風靡した。一方『ワーキングプア川柳』は、年収200万円以下が急増する『ワープア時代』に生まれることになった。だから、『ワーキングプア川柳』の特徴は、そうした底辺労働者の実態や怒りをベースに、世の中をよくしたいという社会運動の意識を反映したものになっている、と思う」
 「『ワーキングプア川柳』は……プロでなくても誰でも参加できる敷居の低い表現活動である。へたでもいい。問題は一人ひとりが『五・七・五』に託して、世の中にモノをいうこと、発信することである。そうした大衆的表現活動が広がっていくことが、いまの社会をよくしていく上でとても大事なことだと私は思う」

 本書には、2008年のレイバーフェスタでの代表句、2009年のレイバーフェスタでの代表句、2010年の公募での入選句などが収められているが、その中からいくつかを紹介する。

<2008年>
 蟹工船売れて多喜二は苦笑い          わかち愛
 ポストにはピザのチラシと請求書        うさうさ
 天網もぼろぼろになるセーフティー        亜北斎
 すべり台急降下して寝る路上        ユニオニスト
 働けば苦役働かねば食えず            乱鬼龍
 「ボーナス」と言ってみたいな夏と冬      Qちゃん
 貯金なし家なし趣味なし嫁こない       陶酔
 レイバーネット小さなしみでも大きな地図  ぺんぺんぐさ

<2009年>
 人も捨て技術も捨てて何つくる          亜北斎
 エコカーを買える人には補助を出し           笑い茸
 ほんとうの歴史はいつも後で知り         わかち愛
 変えたいな労組マスコミ裁判所            一志
 連立は闇鍋の具のお楽しみ           お橙柑さま
 感情をなくせば楽に生きられる     非常勤O
 寒空へ追い立てる彼らも非正規さ           KY生
 核持たず作らず内緒で持ち込ます          貞坊

<2010年>
 韓流で何度も泣ける記憶力          とっちゃん
 百年のハンしなやかに木槿(むくげ)咲く     笑い茸
 酷薄な世を映し出す「うつ」の群          なずな
 鬱という漢字かくうちうつになり    やせ蛙
 また選挙イチジクの葉の付け替え期        やせ蛙
 この国の不幸は選挙から生まれ          乱鬼龍
 平和維持九条にあるドアチェーン        木口孝子
 アンケート職業欄でけつまずき      窓の福助

 『がつんと一句!――ワーキングプア川柳』は新書版で102ページ。発行所は正木デザイン工房(MDB)。℡・FAX042-776-7161。定価700円+税

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/

 〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0348:110221〕