公開質問状に対する回答に接して
2020年9月11 日
関東弁護士会連合会
理事長 伊藤茂昭殿
本年8月17日付公開質問状別紙に記載の弁護士計65名
〒113-0033 東京都文京区本郷5丁目22番12号
代 表 澤 藤 統一郎
「関弁連だより」(№272)に掲載されたアパホテル専務インタビュー記事(以下、「アパホテル記事」と言います)に関して本年8月17日付「公開質問状」を発送いたしましたところ、同月28日付の「回答」に接しました。期限内に誠実なご回答をいただいたことに感謝申し上げます。
また、当該回答書中に、「執行部としては,弁護士法に基づく公的法人である構成弁護士会の連合会として,この記事の掲載を継続することは適切ではないと判断し」「今後は,会員からの疑義が述べられるような事態が発生しないよう,慎重に取り組む所存」との記載があり、あらためて関弁連の基本姿勢を確認して安堵いたしました。
とは言え、「回答」書中にはやや納得しかねる点も散見されます。とりわけ、個別の質問についての回答はいただけなかったため、この度のアパホテル記事掲載という不適切な事態がどうして生じたのかについてのご説明はなく、またアパホテル記事が何故に不適切なのかについての理由の開示も不十分と感じざるを得ません。
今後の適切な会務運営と、さらに充実した会報を期待して、ご参考にしていただきたく、以下の意見を申し上げます。
(1) 回答書中には、アパホテル記事掲載を不適切とする理由として、「私企業の経営者のインタビュー記事は、その人の思想信条を支持するかのような誤解を与える可能性があり」とあります。しかし、私たちは、決して私企業性悪説に与するものではありません。その経営者の思想信条が、憲法の理念や関弁連の基本方針に合致するものであれば、記事掲載になんの支障もないことは明らかと考えます。また、必ずしも合致するとは言えない場合でも、大きく背反することのない常識的な範囲のものであれば、敢えて問題とするには及ばないとも考えます。
私たちは、「極端に反憲法的な思想や行動と緊密に結びついた企業、あるいは社会正義や人権の擁護に悖る企業を弁護士会連合会の会報に無批判にとりあげること」が問題であり、弁護士会の姿勢について社会に誤解を与える点で不適切だと考えます。
今回の公開質問状は、私企業一般の問題ではなく、歴史修正主義・憲法改正・非核三原則撤廃・核武装などという極端な反憲法的イデオロギーと緊密に結びついたアパホテルグループの特殊な姿勢を問題とし、これを無批判に広報紙に掲載することが関弁連として不適切と主張していることをご理解いただきたいと存じます。
(2) 回答書中に「『(アパホテル)経営者一族の思想信条には触れておらず、記事そのものについては問題がない』という意見もあった」とあります。この意見こそ、弁護士会内において克服されねばならないものと考えます。
アパホテルグループが、その反憲法的言動において突出していることは、社会的に顕著な事実となっています。アパホテルやその経営者を会報記事に取りあげるとすれば、とりあげる側の歴史観や憲法についての姿勢が問われることになります。そのような客観的な状況が存在しているのです。読み手は、よく知られたアパホテルグループの反憲法的な見解や姿勢と連動して、掲載者側の姿勢を推し量ることにならざるを得ません。関弁連だよりが、アパホテル記事を掲載すれば、関弁連のみならず、日弁連や単位会の憲法についての姿勢までが社会から問われることになります。「『経営者一族の思想信条には触れておらず、記事そのものについては問題がない』という意見」は、その意味で余りに軽率で不見識と言わねばなりません。
(3) 「アパホテル記事は、『経営者一族の思想信条には触れておらず、記事そのものについては問題がない』という意見」は、別な角度からも、批判されねばなりません。
例えば、人権弾圧をおこなっていると広く認識されているある外国の指導者が来日した場合、有力なメディアがその指導者のインタビュー記事で、その人権弾圧の点に何も触れない記事は、当該人権弾圧を不問に付しているとみなされることになります。そのことは、「何も触れていない」ことで、世論における批判を希釈しあるいは免責するという効果を生むことになると言わねばなりません。
同様に、アパホテル記事も、弁護士会が「経営者一族の思想信条に触れないこと」で、関弁連がアパホテルグループの反憲法姿勢を不問に付すべきものと判断したと受け取られ、憲法を大切に思う世論に負の影響をもたらすことを考えていただくよう、要望いたします。
(4) 弁護士会は、日本国憲法の理念にもとづいて社会正義と基本的人権とを顕現すべき立場から、一定の企業には批判的立場をとらざるを得ず、そのため過度な親密化は好ましくないと考えます。
そのような企業としては、憲法や法律をないがしろにすることを広言する企業、労働者に対するハラスメントで指弾されている企業、公害や消費者被害を頻発している企業、不当労働行為や労働基準法違反の常習企業、反社会的勢力と結託している企業、デマやヘイトを事としている企業等々が考えられます。このような企業を、無批判に他の企業と同列に遇してはならないと考えます。今回のアパホテル記事問題は、そのような典型事例と考えて然るべきではないでしょうか。
今後、会務の運営に以上の点をご参考にしていただけたら幸甚に存じます。
そして、会報広報委員会の皆様には、ますます魅力的な「たより」をお届けいただくよう、お願い申し上げます。
**************************************************************************
関東弁護士会連合会(関弁連)の会報「関弁連だより」(№272・2020年6月30日発行)に、アパホテル専務インタビュー記事が掲載された問題。当ブログは、まずこれを批判し、65名の弁護士連名での公開質問状を提出して、これに回答を得た。その一連の経過は、下記URLをご覧いただきたい。
不見識きわまれり、弁護士会広報紙にアパホテルの提灯記事。
http://article9.jp/wordpress/?p=15193
アパホテル記事について、関弁連に対する公開質問状。
http://article9.jp/wordpress/?p=15444
関弁連から、アパホテル問題についての「公開質問状に対する回答」
http://article9.jp/wordpress/?p=15553
この経過における問題提起とその回答は、それなりに考えるべき興味深いテーマを浮かびあがらせている。冒頭の「公開質問状に対する回答に接して」は、そのまとめとなっている。
上記のとおり、意見は4項目である。要約すれば、以下のとおり。
(1) なぜアパホテル記事掲載は不適切なのか。「極端に反憲法的な思想や行動と緊密に結びついた企業」だからである。私企業一般を問題としているのではない。歴史修正主義・憲法改正・非核三原則撤廃・核武装という極端な反憲法的イデオロギーと緊密に結びついたアパホテルグループの特殊な姿勢を問題としているのだ。
(2) インタビュー記事は「経営者一族の思想信条には触れていない」、だから問題ないとしてはならない。この経営者一族が、その反憲法的言動において突出していることは、社会的に顕著な事実であって、アパホテル記事を掲載した弁護士会が憲法についての姿勢を問われることになるのだ。これに目をつぶるのは、余りに軽率で不見識。
(3) 弁護士会が、アパホテルを記事にして、「経営者一族の思想信条に触れないこと」は、弁護士会がアパホテルグループの反憲法姿勢を不問に付すべきものとのメッセージを社会に発信したということになる。憲法を大切に思う世論に負の影響をもたらすことを考えなければならない。
(4) 弁護士会は、その任務から、一定の企業には批判的立場をとらざるを得ず、そのため過度な親密化は好ましくない。たとえば、「憲法や法律をないがしろにすることを広言する企業」「ハラスメント企業」「公害や消費者被害の垂れ流し企業」「不当労働行為や労働基準法違反の常習企業」「反社会的勢力と結託している企業」「デマやヘイトを事としている企業」等々。このような企業を、無批判に他の企業と同列に遇してはならない。アパホテルは、その典型ではないか。
一応の成果はあったと考えて、上記意見書を再度送付することで、今回のアクションは終了することとなった。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2020.9.11より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=15630
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion10105:200912〕