当協同組合の発展に祝意を、そして協同組合運動の発展に期待を。

著者: 澤藤統一郎 さわふじとういちろう : 弁護士
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開業医共済協同組合の第8回通常総代会に顧問弁護士としてご挨拶申しあげます。

当組合の業務も財務も、たいへん順調とのご報告で結構なことと存じます。自信あふれる理事長の開会の辞の中に、協同組合の理念に触れたところがあって、興味深く拝聴いたしました。

協同組合は相互扶助を目的とする自治的な組織です。その組織は平等な権利をもつ組合員による民主的な運営を原則とします。徹底した平等や民主的運営は、協同組合の本質だと思います。

私は、弁護士として長年消費者問題の分野に携わり、消費者運動にも関わってきました。その中で、消費者問題とは何か、消費者運動とは何を目指しているのかを考え続けてきました。

消費者問題とは、資本主義経済の矛盾の一側面にほかなりません。そこでは、事業者と消費者の利害が衝突しています。圧倒的な強者である事業者の横暴から弱者である消費者の利益を擁護することが消費者問題の普遍的テーマです。

事業者と消費者の対峙とは、実は、〈利潤追求の原理〉と〈生身の人間がよりよく生きたいという要求〉との対峙なのだと思います。事業者すなわち企業の利潤追求至上主義が生活者としての消費者の利益を損ねているところに、消費者問題の根源があります。

この世は資本主義社会です。市場原理によって人々は動いています。いや、市場原理が人々を支配していると言って差し支えないでしょう。市場における企業の利潤追求は、必ずしも消費者の利益を顧みません。利潤追求に適う限りでは消費者の利益を尊重しますが、それ以上のものではあり得ません。過度な消費者利益要求への妥協は企業間競争の敗北を招きかねないことにもなります。

社会の隅々にまで、市場原理が浸透している社会とは、人の欲望の全てが利潤のために商品化された社会です。形あるものだけでなく、全てのサービスも、労働力も…。もちろん保険業務も、資本が利潤追求の対象としています。

資本による利潤追求は合理的であり、その方法は洗練されています。しかしこの社会は、全てを資本による利潤追求に任せ、市場原理に席巻させてよいはずはありません。市場原理になじまない分野もあり、市場原理を排除すべき分野もあり、市場原理の修正を求めなければならない分野もあるのだと思うのです。

協同組合とは、資本主義社会の中での弱者が相互扶助原理をもって、利潤追求主義から自分たちの利益を防衛しようという試みにほかならないと思うのです。

消費者運動では、利潤追求主義が行き着くアンフェアな取引による商品や、ブラック企業の商品を意識的に排除することで、賢い消費行動を通じて、環境保護やコンプライアンス推進を実現する試みがなされています。その運動が大きくなって、企業の行動に影響を与えることが期待されます。

協同組合運動も、資本に対抗する拡がりをもってくれば、平等や民主的運営は、社会の普遍的価値として重みをもってくることになるでしょう。さらに、国際協同組合同盟(ICA)は、「協同組合は、自助、自己責任、民主主義、平等、公正、そして連帯の価値を基礎とする。」「協同組合の組合員は、誠実、公開、社会的責任、そして他人への配慮という倫理的価値を信条とする。」と定めているそうです。

利潤追求と市場原理万能の社会にあっても、生身の人間を尊重し経済的弱者の相互扶助の精神をより大切なものとしたいと思いますし、さらには経済合理性よりは、人々が快適に共同生活を送っていくための基本理念の実現を優先する社会を作りたいと思うのです。

当協同組合の運営が順調であることは、そのような意義をももっているものとして、祝意を表します。そしてこの順調がさらに継続しますよう、祈念申し上げます。
(2017年10月23日)

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2017.10.23より許可を得て転載

http://article9.jp/wordpress/?p=9370

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/

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