韓国通信NO723
「通信」が休眠状態になってしまった。年齢のせいにはしたくない。
何となく体力に不安を感じて心臓と肺の精密検査を受けた。すぐ死ぬことはあるまいという医師の診断だったが、心臓の血管の手術をうけた。検査入院と手術入院にそれぞれ2泊3日ずつ。手術でステントを2か所に埋め込んだ。はじめての入院経験だったが、とにかく退屈だった。
おかげで過去をじっくり振り返る機会になった。遺言を書くにはまだ早すぎる。これまで経験したなかで、記憶に残る大切なことを書きとめた。
『誇り高き女性たち』を読む
『誇り高き女性たち』。ページ数128 B5判。発行は日本信託銀行労働組合婦人部。約半世紀前の1976年の発行である。定価350円だが、書店では販売されなかった。
私が所属した労働組合の女性組合員たちの男女差別と闘った記録である。<表紙は組合員の加藤さんが描いた。本文とともに心に残る素敵な絵だ>
最新のジェンダー国際比較では日本は146か国中125位と先進国で最低。「経済」「教育」「健康」「政治」の4分野の比較である。 経済分野は賃金体系が差別的なうえに非正規雇用に女性が多いのが影響した。
久しぶりに読んだ。50年前の運動が昨日のようにありありと蘇ってきた。粘り強い運動で賃金、ボーナス、昇格、退職金、社内融資に至るまで男性と同一の処遇を勝ち取った。職場には女性の係長、課長代理、課長が続々と誕生した。半世紀たっても色あせることのない彼女たちの運動の足跡を振り返る。
組合員100人ほどの小さな組合、女性組合員は50人足らず。1960年に正副委員長が解雇され、第二組合結成で組合は風前の灯火だった。男性は一生ヒラ社員と言われるなか、女性の差別問題に取り組むゆとりはなかった。労働委員会で解雇が撤回されると、組合は反撃に転じた。だが組合員たちは職務資格給の導入による差別と闘わざるを得ない現実に直面した。底辺に置かれたのは女性たちだった。「女性は期待しない」「能力が劣る」と会社は言いたい放題を続けた。
露骨な男女差別に転機が訪れる。男性社員に支給される「手当」の不当性を訴えて地裁に提訴。国会でも取り上げられ、共産党、公明党の議員の応援もあって銀行の女性差別政策に綻びが生じた。女性組合員の転勤実現※で力を得た女性組合員は街頭ビラマキの先頭に立った。派手な制服を強要する会社の意図も「着用拒否」によって破綻した。女性たちのストライキで過去に例のない人事部交渉がたびたび行われた。女性らしい優しさと鋭い追及に人事部長、担当役員はたじたじと額の汗を拭く激しい交渉だった。
<※高崎の教員と結婚した都内の組合員が高崎支店転勤を希望したが、「虫のいい希望」と一蹴された。別居生活を続ける夫婦を組合は支援し要求を実現させた>
女性差別は組合差別と同じ根っこから生まれていると誰も考えるようになっていった。団体交渉、職場交渉、100日を越す本店前の座り込みにはいつのまにか第二組合から加入した若い女性組合員の姿が目立つようになっていた。
労働組合を「潰す」と豪語していた経営者は組合分裂以来40名にのぼる女性たちの組合加入に自信を喪失した。金融の組合、地域の組合、世論も味方した。思い出しても絵に描いたような団結と共闘の勝利だった。
<闘って得たもの>
男女の賃金・昇格差別は大きな成果を収めたが、女性たちの人生観、生き方まで変えた。生理休暇と深夜労働禁止を理由に差別を正当化する発言は職場から消えた。女性たちは生き生きと権利を主張し始めた。組合加入が相次いだ京都支店では若い女性組合員に向かって支店長が「年をとった君たちが窓口にいると想像しただけでゾッとする」と暴言を吐き、猛反撃をうけて謝罪した。ボーナスの支給額が標準支給額より100円少ないと支店長に袋ごと突き返す「事件」が上馬支店で発生。支店の組合員は彼女ひとり。それでも頑張った。困り果てた支店長がポケットマネーで弁償する提案を断り、次回の支給時に上乗せを約束させた。差別は金額の多寡ではない。彼女は誇りを傷つけられ真剣に怒った。
<闘わなければ>
子育てをしながら働き続ける大変さは冊子からも伝わるが、その苦労話もどこか楽しげで自信にあふれている。女性たちの運動を男性たちが共に闘ったこと、職場の多数組合の女性たちの共感を呼ぶ運動だったこと、果敢に街頭で世論に訴え、労基署、地裁、国会まで味方につけた。結果論だが「あっばれ」というほかない。
冊子の冒頭、衆議院議員の田中美智子さん※のメッセージ「若い人たちへの送りもの」は女性組合員への敬意に溢れていて感動的だ。
※田中美智子/日本共産党・革新共同推薦 衆議院議員当選5回 公害・医療問題 女性労働問題で活躍 2019年没 96才
闘わずに得られるものはない。彼女たちはそれを証明して見せた。歴史の真実である。政府や財界、それに連合までが口を挟む「働き方改革」などは女性を一層安く便利にこき使う方便にすぎない。働く女性の地位向上はまず現場から声を上げ、闘って実現させるしかない。50年前の女性たちのレポートは如実にそれを物語っている。女性労働が不当に貶められている今日、誇り高き女性たちの闘いを皆さんにお伝えできてうれしい。
初出 :「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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