今年は辛卯(かのとう)の年、2月3日が春節(旧正月)元日だった。中国では春節が一年で最大の祝祭で、今年はこの日を含めて1週間が公休となった。新聞やテレビでは、1月末~2月1、2日、列車で帰省する乗客の長蛇の列が例年とほぼ同じように報道され、2月6、7日は帰りのラッシュとなった。
ところが、大都市で働く若者の間には異変が起きたという。さまざまな理由・事情から、父母などの待つ郷里に帰らない人たちが大量に出現したのである。
若者といっても、年齢には幅があり、20歳台から40歳台前半ぐらいまでの独身者で、多くは大卒のホワイトカラー・自由業。そして、その人たちにはネットで「恐帰族」の名前がつけられた。
その理由・事情として、大きく分けると①経済的負担 ②縁談・見合いの重圧 ③長距離往復の煩わしさなどをあげる人が多いという。3番目の理由は1や2と重ねる人が多いのだが、郷里の遠い人だと列車や飛行機の切符の入手がむずかしく、それだけで独立した理由になる。
その内容だが、①の経済的負担はわかりやすい。何といっても年に1度の帰省であり、父母にはそれ相応のお土産を用意しなければならない。一人っ子政策のお陰で、弟妹のいないのが普通だから、兄弟へのお年玉は要らない。しかし、親戚・知人のところへあいさつに行くのに手ぶらでというわけにはいかないだろう。「紅包」と呼ばれる寸志を準備するのだが、これが50元~100元で、顔を出す先が多いと結構な金額になる。
そうした費用が具体的にどれぐらいか、ネットで調べたところ、北京の 『法制晩報』紙が北京市民の支出予定について民間調査機関と共同でアンケート調査をおこなった(1月25日報道)。
それによると、1世帯当たりの平均予算は8000元(1元=12.5円。約10万円)前後。所得により3層に分かれ、2000~4000元クラスとその上の4000~6000元クラスがそれぞれ全体の24.4%を占めた。この金額幅は北京の勤労者の月収に近いものだという。それに続いたのが1万元以上で、前2者に近い23.7%となった。
このうち、一番多額の支出は、郷里へ帰省した人たちと共通な親戚・友人へのあいさつ回りの費用で35%を占める。そのほかの支出には、家族が大晦日の晩餐をレストランでとる費用や家族旅行などが含まれる。この統計と比べると、帰省した人たちのあいさつ回り費用の割合は35%を上回ることだろう。
さて、経済的負担よりも若者に重くのしかかるっているが、両親が「そろそろ結婚を」と手ぐすね引いて待ち構えていること。都市に住んでいる息子または娘が春節に帰省するとなると、本人の意向そっちのけで縁談や見合いを用意したりする親が多いのだという。しかも親戚から友人まで加わっての“包囲攻撃”になる場合も出てくるから、まだその気になっていない本人たちには大迷惑だ。
春節という祝祭では、一家で集まってにぎやかに過ごすのが中国の伝統とされてきた。だが、そこに未婚の若者が結婚をせかされる問題が加わると、その伝統も「80后」(バーリンホゥ)と呼ばれる80年代以降生まれの若者たちからは必ずしも尊重されていないようだ。
だから、それが煩わしい、イヤだとあって帰省しない人が多数出てきて「恐帰族」なんて新語まで出現した。また、帰省するたびに「結婚」を口にする親の圧力を回避するため、“レンタル恋人”を伴って帰省したというケースまで登場したという。
これにはもうひとつ、都市に住む若者と郷里の両親とでは、結婚についての見方が大きく開いてきた事情もからんでいよう。一人っ子政策で中国の家族状況はこの30年で激変した。
そしていま、その一人っ子たちが大学を卒業し、親元を離れて暮らすようになっている。そうした若者の増加と都市化の急速な進展は、都市と農村を結んでいた伝統的な旧正月の帰省風景に大きな変化をもたらしている。
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