情弱選挙ーアメリカと日本

著者: 藤澤豊 : (ふじさわゆたか):ビジネス傭兵
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アメリカの大統領選が気になって毎日ニュースを読み漁っていた。あと一月もすれば投票日という日になって、なんか見えてきてしまったような気がしてきて読むのを止めた。ゴロツキの口から吐き出されるゴタクを報道し続けているマスコミが滑稽に見えただした。そして自分たちの社会観に固まったまま学習しない民主党には愛想がつきた。
ゴタクはまともな小学生なら信じやしない作り話と、特定の社会層の票を引っ張るためのリップサービスに根拠のない無稽な話以外のなにものでもない。そんなものを毎日かなりの紙面をさいて記事にしているマスコミに憐憫の情さえ湧いてきた。

ハリケーンは民主党が人工的に作ったもので、共和党支持の州にむけて誘導しているというゴタクには驚きを通りこしたものがある。二〇二一年の一月六日の議会襲撃事件は民主党の指揮のもとFBIが仕組んだでっち上げだという強弁。普通にアメリカの普通の新聞を読んでいるかぎり、あまりに幼稚な知的レベルに何をバカなことを言ってるんだとかしかいいようがない。
自らのバカさ加減を証明するだけのゴタクだが、どれもが特定の社会層やグループの、それぞれの人たちの日常生活の最大関心事に直接訴えるものであることも確かで、票の積み上げには有効な手段だろう。その日その日の生活に追われている人たちは、自分たちに直接関係しない(と思っている)ことには関心がない。妊娠中絶はしなければならないことになるかもしれないという可能性の問題でしかないが、今日のメシの算段や、今週払わなければならない家賃の捻出は身にせまった問題で可能性ではない。レイオフになってホームレスになるかもと心配している人にしてみれば、移民労働者の増加から受ける圧力は生活の根柢を脅かすものにうつる。単純労働に従事している黒人社会に向けた、中南米からの移民を排除するというトランプの発言は、民主党支持者だった黒人票をトランプに引き付ける強力な武器になった。
トランプは富裕層にはXXX、伝統的な製造業の従業員にはYYY、トラック輸送の人たちにはZZZと、しばし一方を立てれば他方が立たない政策をためらうこともなく主張し続けている。あっちで言っていることとこっちで言っていることの整合性を考える習慣がないというか、知的能力に欠けるとしか思えない。

アメリカの影響が強すぎて、日常生活でそれを感じないまでになってしまったような気がする。もうカタカナ英語が氾濫して、それなしでは日本語が成り立たないところまできている。あまりに身近になってしまって、改めてアメリカはと気にすることもなくなってしまった。ところが、じゃあアメリカはと説明を求められたら、直接間接に知り得たアメリカの一端までしか知らないできたことに気がつく人がどれほどいるのかと思いだす。みんな自分が知っているアメリカまででしかない。広い国土に何世代にも渡って自他ともにアメリカ人だとしかいいのようのない人たちでも、これがアメリカだと言いきる人がいたら、その人は知識や情報が足りない人だと思ったほうがいいだろう。あまりに多くの人種や文化がそれぞれの歴史を引きずりながら絡まり合って時には対立しながら、人種と文化のサラダボールのなかで押し合い圧し合い、自分を主張しながら相手を認めながらごちゃごちゃやっている社会集団の塊りがアメリカという国だと思う。この多様性がアメリカの特殊性を生み出す元となっている。アメリカ人の同僚や知り合いと何度も話し合った末に、これがアメリカだと合意した結論だった。
文化や人の数だけある常識が毎日ぶつかり合うなかで、いいも悪いも含めてとんでもない種類と量の情報が飛び交っている。人智では処理しきれない限りない情報が行き交う競争社会で、何を目的として、何をしようとして必要とする情報を選択する能力を培う基礎をつくり上げるには基礎教育が欠かせない。高校まで義務教育としていていることからも、社会や行政にその考えが徹底していることがうかがえる。

知識の基礎、そして知識を習得するためには共通語(母国語)をしっかり学ばなければならない。自明の理だろう。高校までいって母国語(英語)を普通に使えるまでの能力があれば、根拠がまったくない、整合性に欠けるトランプのゴタクを真に受ける人がそんなにいるはずがないのに、どうして口から出まかせのゴタクに乗せられる人があれほどいるのか不思議でならなかった。どういうことかと考えていて、二十代の後半にニューヨーク支社に駐在したときに知り合った、中の下から下の人たちとの交友から感じた基礎知識の欠如を思い出した。みんなれっきとしたアメリカ生まれのアメリカ市民で英語が母国語だったし、アメリカ人として普通に生活して話している。でもまともな文章を書ける人はほとんどいなかった。そのときはバカ話が先で、どうしてと問い詰めるわけにもいかなかった。帰国して翻訳仲間のアメリカ人ともよくメシにいったが、大学までいっているはずなのに、英語の怪しいのもいた。あらためてググってみて驚いた。そしてこういうことなのかと納得してしまった。

Lieracy Statistics 2024- 2025 (Where we are now)
https://www.thenationalliteracyinstitute.com/post/literacy-statistics-2024-2025-where-we-are-now
レポートの要点は下記の通り。原文の下に機械翻訳したものを付けておく。
On average, 79% of U.S. adults nationwide are literate in 2024.
21% of adults in the US are illiterate in 2024.
54% of adults have a literacy below a 6th-grade level (20% are below 5th-grade level).
Low levels of literacy costs the US up to 2.2 trillion per year.
34% of adults lacking literacy proficiency were born outside the US.
平均すると、2024年には米国成人の79%が読み書きができる。
2024年には、米国の成人の21% が非識字者となる。
成人の54%は6年生レベル以下の読み書き能力を持つ(20%は5年生レベル以下)。
識字能力の低さは、米国に年間最大2.2兆ドルの損失をもたらす。
読み書き能力に欠ける成人の34%は米国外で生まれた。

「成人の二十一パーセントが非識字」
「五十四パーセントが小学校卒以下、二十パーセントが小学校五年生以下」
「読み書きに不自由がある人の三十四パーセントは外国生まれ」
移民社会がゆえの問題でもあるが、アメリカでは半数以上の有権者の英語の能力が小学校卒業のレベルに達していない。識字は即情報弱者に結びつく。小学校卒業以下となると、目を通すにしてもせいぜい地元のタブロイド紙までで、実のある本やクオリティペーパーを手にすることはないだろう。トランプのゴタクには乗せられても、民主党のこうだからこうでこうでという理詰めの話しに耳を傾けることはないだろう。
民意と民度が政府のありようを決めることからすれば、アメリカ政府は小学校卒業レベル以下の人たちによる「民主主義」国家までしか作り得ないということにほかならない。
リンカーンの有名な教科書にまで登場するゲティスバーグ演説「government of the people, by the people, for the people」をそのまま現状に当てはめれば、「情報弱者の情報弱者による情報弱者のための政治」ということになる。 トランプが大統領選挙で圧勝するのも当然の結果としか思えない。

科学技術で世界を牽引しているアメリカで、高校まで義務教育とされている社会で、なぜ情報弱者が社会の過半を占めるようなことが起きるのか?アメリカは世界で最も自由で民主的な国家だと自認しているが、その実態は社会的経済的な不平等をもととしてつくり上げられて来たんじゃないかという疑問を叩きつけられたとき、トランプを代表とする政治、経済のエリート連中が納得のいく答えをだせるとは思えない。民主党は強固な論理を展開するだろうが、それを施行していくだけの力があるとは思えない。アメリカ合衆国の民主主義は本質的なところに解決しえない問題を抱えている。

日本はアメリカのように識字率の問題を抱えているわけじゃない。読み書きに不自由な人はいるだろうが、大勢に影響の出るレベルではない。にも拘わらず投票率にみる有権者の政治意識の低さはどこからくるのか?素人考えでしかないが、それは情報公開がなされていなさすぎること――マスコミの体たらくが招いていることだとしか思えない。
難しい漢字も読めるし、英語ですらなんとかなる人たちが増えているが、日本では肝心の情報が開示されていない。政治体制が自分たちの都合で流してくる情報に限られていれば、市井の人々は社会問題を自分のこととして関心などもちえようもない。
日本には、「為政者は人民を施政に従わせればよいのであり、その道理を人民にわからせる必要はない」という「由らしむべし知らしむべからず」の文化が根強く残っている。
2014/11/11 初稿
2025/1/5 改版
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
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