愛猫・とらに胸キュン(298字)

我が家の愛猫・とらは、二十年程前に買ってリビングに設えた二台の猫タワーがお気に入りでした。

 

それは、その世界では有名なメイカーさんの猫タワーで、太いロープがキリキリに巻かれた柱に小屋や棚板が付属した頑丈なもので、何頭もの猫達が爪とぎをし、遊び場に使った後の今でもびくともせずに健在で日常的に猫達が使っています。

 

設置は、リビングの床と天井に突っ張り式で止め要所をボルトで締める方式で、部分的には交換が可能になっています。

 

愛猫・とらは、この猫タワーが本当にお気に入りでした。 特に最上階の天井近くの棚板上から戸外を見るのが好きなようでした。 その折の姿を捉えた何枚もの写真が残っています。

 

しかし、戸外を見るのは分かるのですが、一体、何を見ているのか、と何時も気になりました。 隣家の屋根なのか、と脚立に乗って同じ目線で見てみますと隣家の屋根よりも更に上空のようでした。 空を飛んでいる鳥等を見ていたのか、とも思いましたが、そうそう何時も鳥が空を飛んでいるのを見る訳でも無く、それならば、何を見ているのか、と堂々巡りをしました。

 

今では、とらが見ていたのは、空だったのだろう、と考えています。

 

そして二年前からは、自分がその空に居て、私が居るこの家を見ているのだろう、と。

 

ともあれ、下記は、愛猫・とらに胸キュン(298字)の小話です。

 

「さ、今日はこれぐらいにして置こうか、ね、とら。」とフロアに置いたデスク上のPCをサイン・アウトした由里。 傍らの愛猫・とらを探す。 「あら~。 今まで居たのに~。」

 

寝室からリビングに向かう途中でフランス窓の近辺に設えた猫タワーの最上階にとらを見つける。 「お気に入りの場所だよね~。 買って良かった~。」

 

猫タワーのキリキリ巻いたロープが表になった太い柱に片手をかけて最上階の棚板上のとらを見上げる。 「ね~。 何処、見てんの?」

 

頭を下げて由里を見たとらが短く応える。 「にゃお~。」

 

窓の外には夕陽が映え、由里ととらの陰が室内に。 「これが幸せ、って言うものね。 ね~、とら。」

 

デイ・トレで大負けの由里が慰められる夕方。