憲法破壊にまっしぐらの菅政権 5月3日は75回目の憲法記念日

 5月3日は75回目の憲法記念日。安倍晋三内閣の時代は、毎年、この日が近づくと必ず、安倍首相が改憲への強い決意を表明したものだが、安倍政権を引き継いだ菅義偉首相はこれまでのところ、そのような決意表明はしていない。が、その一方で、菅政権は日本国憲法の肝ともいうべき重要な規定を骨抜きにする、いわば実質的な改憲とも言える施策を次々と進めている。

 まず、国民の生存権への挑戦である。
日本国憲法第25条には「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」とある。つまり、国民は国によって生存権を保障されており、それゆえに国は国民の生活条件の向上に努めなければならない、というのだ。

 ところが、私たちの多くが生命の危機を感じている新型コロナウイルスの広がりに対する菅政権の無策ぶりは目に余る。昨年来、多くの専門家によって「もっと増やすべきだ」と強調されてきたPCR検査は今に至るも不十分なままだ。緊急事態宣言を発令しても、その中身は飲食店への営業時間短縮・酒類販売自粛要請が中心で、感染拡大を抑え込む決定打を欠く。
 頼みの綱のワクチンの確保も大幅に遅れている。首相官邸によると、4月21日時点で少なくとも1回接種した人は約152万人で、全人口に対する接種率は1・2%と先進国では極端に低い水準である。日本のワクチン接種率は、先進国の集まりである経済協力開発機構(OECD)加盟37カ国の中で最下位、世界182カ国中131位という報道もある。
 菅首相は昨年9月の就任時に、2021年6月までには全国民にワクチンを接種すると約束した。ところが、最近は「今年9月までに供給されるめどがついた」と言い出している。いったいどうなっているのか。
 とにかく、菅政権の新型コロナウイルス対策への国民の不満は強い。4月25日に行われた衆院北海道2区、参院長野選挙区の両補欠選挙と参院広島選挙区再選挙で自民党が全敗したが、これも菅政権の新型コロナウイルス対策への不満の表れとみる向きが強い。

 第2は、憲法で保障されている「学問の自由」への侵害である。
憲法第23条には「学問の自由は、これを保障する」とある。戦前は、政府から一方的に「危険思想の持ち主」と決めつけられた学者や研究者が政府から弾圧された。そうしたことは決して繰り返してはならないとの願いから設けられたのがこの条項だ。
 なのに、菅首相は就任するやいなや、日本学術会議が第25期会員として推薦した新会員105人の会員候補のうち6人について任命を拒否。学術会議からの度重なる要請にもかかわらず、いまもって任命拒否の具体的理由を明らかにしていない。
 過去の国会答弁では、学術会議が推薦した会員候補を政府が自動的に任命することが約策されている。首相には拒否権限がないにもかかわらず、菅氏はこうした慣例を破って6人の任命拒否をおこなった。そこには、学問・研究の方向を政府の意のままにしたいという意図がすけてみえる。

 政府にとってどんなに耳の痛い意見であっても、それに耳を傾けるのが民主主義を標ぼうする国家というものである。気に入らないから排除するなんてことはあってはならない。

 第3は、国会の軽視である。
憲法41条には「国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である」とある。すなわち、国会は、行政府より上の機関と位置付けられているのだ。それは、憲法第67条に「内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する」と規定されていることからも明らかだろう。
 なのに、菅政権は、政権の目玉政策と位置付ける、デジタル庁創設などを盛り込んだデジタル関連法案を、衆院ではたったの27時間審議しただけ。63本もの関連法案を束ねて採決に持ち込むというやり方は、事実上の審議封じと言ってもいいだろう。15カ国による地域な包括的経済連携協定(RCEP)についても、数時間の審議で衆院を通過させてしまった。まさに国会軽視だ。

 国会軽視といえば、安倍政権の方が上手だったと言えるかもしれない。「モリ・カケ・サクラ」の疑惑に関する国会審議で、安倍首相は野党の質問に、真正面から答えようとせず、はぐらかしや虚偽の答弁を続けた。菅政権もこうした前首相の国会軽視の姿勢を受け継いだかのようにみえる。

 第4は、憲法第9条の事実上の改変への着手である。
よく知られるように、第9条は「戦争の放棄」「陸海空軍などの戦力不保持」「交戦権の否認」をうたっている。アジア太平洋戦争でおびただしい犠牲者を出したことへの深い反省から生まれた誓いだ。
 ただし、戦後の歴代政府はこうした規定があっても必要最小限の自衛力保持は憲法上可能として、「自衛隊」を合憲としてきた。つまり、「専守防衛」を堅持してきたわけである。

 ところが、菅政権は2021年度政府予算に長距離巡航ミサイルや同ミサイルを搭載する戦闘機の開発・取得費を盛り込んだ。東京新聞は「2021年度政府予算の防衛費には敵基地攻撃能力の将来的な保有につながる項目が多く盛り込まれた」と書いた。
 こうした措置は、明らかに「専守防衛からの逸脱」とみて差し支えない。9条は新たな危機を迎えていると言ってよい。

 もう一つ、菅政権の憲法改定に向けた動きを伝えておきたい。自民党が、衆院憲法審査会で国民投票法改正案を一刻も早く採決したいと、しゃかりきになっていることである。同党としては、この法案を成立させることが憲法改定への第一歩と位置付けているので、なんとしても早急に成立させたいのだ。立憲民主党と共産党がこれに反対しているが、公明党、日本維新の会、国民民主党は採決に賛成しているので、予断をゆるさない情勢である。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/

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