懸念は「コロナ」から「戦争」へ 2023年の年賀状にみる市民意識

 今年も友人、知人から、たくさんの年賀状をもらった。それらの一枚一枚を手にして強く印象に残ったのは、市民の間で「戦争」に対する懸念や危機感が深まりつつあることだ。

 私はこれまで毎年、多くの友人、知人と年賀状の交換をしてきたが、これまでの年賀状の文面といえば、「明けましておめでとうございます」とか「初春のお慶びを申し上げます」とか、あるいは「謹賀新年」とか「迎春」、「賀正」といった、いわば新年を言寿ぐ決まり文言や、新年を迎えての抱負や決意のほか、自分や家族の近況・消息を伝える文面が大半であった。
 しかし、ここ数年、世界や日本の政治・社会状況への感想、それに自らの政治的主張を表明した年賀状が増えてきたように思う。以前は、年賀状では政治的、宗教的なことへの発言は控えるというのが一般的な慣習だったが、年賀状でも政治的なことについて自分の意見をはっきり述べる人が増えてきた、というのが私の受け取り方だ。

 私の記憶では、一昨年、昨年の年賀状は、「コロナ禍」一色だった。つまり、新型コロナウイルスに感染することへの恐怖とコロナ禍が社会生活に与える影響を心配する声が文面に溢れていた。が、今年はコロナ禍が終熄せず、むしろ感染者が増えているにもかかわらず、新型コロナウイルスへの恐怖を吐露したものはわずかだった。「コロナにかかったが回復した」という報告が2通あったが。

 コロナに代わって、今年際立って多かったのは、「戦争」に言及した年賀状だった。私が1月8日まで受け取った年賀状は220通だが、そのうちさまざまな表現で「戦争」に言及していたのは51通(23%)にのぼった。

 「戦争」への言及には、大まかに言って二通りあった。一つは、昨年2月24日のロシアのウクライナへの侵攻によって始まった戦争について言及したものだ。もう一つは、昨年12月16日に岸田政権が閣議決定した「安保3文書」、すなわち防衛費の大幅増額と敵基地攻撃能力の保有について言及したものだ。もちろん、ウクライナ戦争と安保3文書とは密接にからんでいるだけに、この2点を合わせて論じたものもあった。
以下、いくつかを紹介しよう。

まず、ウクライナ戦争に関して――
 大軍拡競争への広がりを恐れる

 「気がかりは、ロシアのウクライナへの戦争が今も続き、互いに相手を敵国と見なして武力の優位にのみに『安心』を求める大軍拡競争が、広がりつつあることです」(東京都杉並区・元労組役員)
「長崎で少年・少女時代を過ごした私たちにとって、ウクライナの情勢はとても他人事とは思えません。世界中にある戦争・紛争の地に1日も早く平安が訪れ、子どもたちに笑顔が戻ることを願っています」(茨城県つくば市・被爆者)
 「戦火の中でもウクライナの人たちは、生きる希望を失わずに、寒さを我慢しながら懸命に世界に呼びかけています。私たちは何が出来るのでしょうか? 残念なことに、私が出来ることが思い浮かびません。それでも、小さな寄付をしたり、なぜこんな事になるのか歴史書をひもとき、考え、今の状況を記録に残す……そして、大切な事は決して諦めないないこと事!」(東京都世田谷区・出版社役員)
 「昨年2月にウクライナ侵攻が始まり、私はやりきれない思いの日々を過ごしておりました。おそらく皆様も同様と思います。課外授業のゼミでは生徒達と共に第2次世界大戦中のヒトラーについて、まるで昔話のように学習していましたが、同じような戦争がこの地球上に再び起こってしまうとは本当に残念なことです。1日も早い終結を祈りたいと思います」(兵庫県三田市・中学校教員)
 「今年こそ、戦争は止めたいものです」(さいたま市・写真家)
 「ロシアによる非合法なウクライナ侵攻は、世界を震撼させました。この侵略に国連が機能しないことに歯がゆさを感じます。リーダーである政治家の使命を切望します。各国が、他国を軍事力で威嚇する手法に同意できません。アジアから、世界の人々と平和で安全・安心する、知力勇気を育みたいものです」(横浜市・ファゴット奏者)

 一方、こんな賀状もあった。 
 「ウクライナの侵略戦争ですが、全世界がロシア制裁を行ってはおらず、アフリカや中南米などの対応や歴史的背景も注視したいところです」(公益財団法人職員)

では、岸田内閣による大軍拡路線に対する反応は――
 増税による防衛費増額は許さない

 「ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、この国が軍事大国を目指して危険な戦争への道を突き進むか、それとも外交を重視してアジアの平和を希求していくか、重大な岐路に立っています」(東京都国分寺市・写真家)
 「岸田内閣の悪政は目に余るものがあります。『国防』の名のもとに、一気に『戦争国家』へと歩を進め、また原発事故の後処理もできないままで、『再稼働』『原発新設』へと舵を切り、国内の格差増大、貧困の蔓延をよそに、増税を打ち出しています。しかも、不満分子を抑え込むための監視体制(マイナンバー制度)の強行、マスコミへの露骨な介入による言論統制など、まさに戦前回帰という以外にありません」(東京都小金井市・ブログ編集長)
 「租税負担と社会保障負担に財政赤字を加えた国民負担率は国民所得の約60%になり、政府の調査でも『生活苦しい』の回答が55%に増加。岸田政権はさらに国民1人当たり約4万円の軍拡増税施策。日本国憲法で決められた平和のうちに生存する権利の破壊が進み、心痛める日常です」(埼玉県熊谷市・元会社員)
 「ウクライナの戦争は終わらず、憲法9条を持っているはずの日本は、あろうことか防衛費をどんどん膨らませてます。教育や子どもに使うべき税金が軍事に使われるのなら、断固拒否したい気持ちです」(東京都世田谷区・女性)
 「ウクライナの戦禍や防衛費を倍にしようとする日本を見て、亡くなっていった多くの戦争体験者や被爆者や先輩たちは、私たちに何を言うだろうかと思います」(さいたま市・財団法人常務理事)
 「平和どころか武装化・増税に汲々の岸田内閣の1日も早い退陣を願う年の初めです」(東京都中野区・元生協役員)

敵基地攻撃能力の保持にも反対
 「ウクライナ侵攻に便乗して『敵基地反撃能力保持論』や『核兵器共有論』が台頭。かつて故佐藤栄作元首相が国是とした『非核3原則』はどこへ消えたのでしょう」(京都府長岡京市・元新聞記者)
 「日本は、敵基地を攻撃できる国になってしまいました。アメリカの戦争に加担させられ、国民が被害を受けるないよう、それぞれの立場で頑張りましょう」(長崎市・元放送記者)
 「ウクライナの硝煙に乗じて他国攻撃論が声高です。平和・専守の戦後が退いていきます。遅まきながら、抗する論の再構築が急務です」(東京都新宿区・元新聞記者)

日本の戦争国家化を拒否し、平和国家を取り戻そう
 「米国の戦争は日本の戦争。台湾有事は日本の有事。恐ろしい時代になりました」(東京都豊島区・画廊主)
 「安全保障関連3文書を読む。中国・北朝鮮に対するまるで宣戦布告。日中平和宣言、日朝平壌宣言はどこへ。ヤクザの殴り込みではあるまい」(東京都中野区・元区議会議員)
 「日本国憲法で、この国の主人公として生きる事を学びました。ところが今、おかしな考えをする人が多いことが気になります。『戦争が起こるといけないから準備する』??? みんかなでよく考えましょう」(さいたま市・無職の女性)
 「大軍拡はやめ、9条を活かした平和を!」(長野県下諏訪町・医師)
 「私も高齢ですが、ボケと老いに打ち勝ち、最後の力をふりしぼって戦争の足音を止めたい」(埼玉県川越市・元会社員)
 「過去の社会運動が軍国主義に敗北を喫した教訓を深く胸に刻み、誤りを繰り返さない闘いを続ける決意です」(さいたま市・団体役員)
 「ウクライナ戦争はグローバル危機へと広がり、日本も戦争ができる国へと突き進んでいます。今年は戦争国家を拒否し、平和国家・民主主義を取り戻す年にしなければなりません」(東京都千代田区・雑誌編集長)

平和運動は今度の事態に対処できるだろうか
 ともあれ、私の年賀状上に展開されている、こうした市民の声は国民の多数派のそれではない。これが国民の多数派となるためには、平和運動に関わる陣営による大運動が必要となるだろう。平和運動の陣営は過去、60年安保闘争、70年安保闘争でそれなりの盛り上がりを示すことができたが、戦後最大とされる今度の転換期で、果たしていかなる運動をつくりだすことができるかどうか。そのことに、日本の将来がかかっているような気がする。

初出 :「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/

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