戦争と地震

韓国通信NO716
 
 東日本大震災から12年目を迎えた。
 私にとってこの12年間は過去のどの時期に比べても印象深い歳月だった。高度経済成長期にサラリーマン生活を過ごした者として、原発事故は悔いある人生の記憶として残る。さらにウクライナの戦争とトルコ・シリアの地震が辛い記憶として上書きされる。
 暗澹たる思いと、沸き上がる怒り。

 最近、日本がかつて破滅の道を歩んだ戦争について考えることが多くなった。戦争で苦労した多くの人たちが「無謀な戦争」を語ってくれたのを思いだす。無謀な戦争なら、「何故反対しなかったか」と大人たちを困らせたこともある。
 戦争が終わって77年たった。政府が突如として「安保三文書」を閣議決定した。驚くべき国防の大転換。だが、「敵基地攻撃能力の保有」と「国防予算の倍増」で日本の安全が確保されると思う人は結構多い。時代の流れかもしれない。政府にお任せの姿勢は、かつての大人たちとあまり変わりはない、そんな時代に私たちは生きている。
 「台湾有事」を前提に臨戦態勢が着々と作られている。「台湾有事」は米中対立から生まれた。その対立に私たちは何のかかわりがあるのか。台湾問題はいわば中国の内政問題だ。再び沖縄が捨て石になるだけではすまない。日本全体の壊滅が予想される戦争にかかわる必要はない。アメリカに追随したがる人にはその愚かさを説き、戦争を回避すること。外交努力は先ずアメリカに向けられなければならない。

 ウクライナへのロシアの侵攻から学んだこと。世界的潮流となった脱原発の時代にかつてチェルノヴィリ事故を起こしたウクライナに原子炉が15基もあることに驚くが、欧州最大規模のザポリージャ原発が戦火に曝されれば核戦争に匹敵する大惨事が予想される。ウクライナを「他山の石」としてわが国の原発政策を根本から考え直す必要がある。原発がある国は戦争をする資格がないということだ。

 トルコ・シリアの地震からもあらためて地震の恐ろしさを学んだ。戦争に加えて原発は地震と共存できない。ウクライナの戦争を理由に原発依存を深めようとする政府の方針は「風が吹けば桶屋が儲かる」式の破綻した論理である。
 父親から若いころ「この横着者」と叱られたことを思い出す。考えが浅はかで悪いことをするという意味だが、岸田首相は並みの「横着者」ではない。「ていねいに説明させていただく」が口癖だが口先だけ。平和のための敵基地攻撃能力と、電力不足と脱炭素を理由とした原発回帰は横着そのものではないか。福島原発事故から12年。右手にトマホーク400発、左手に原発をかざせば、国民は不安に陥り、貧するばかりだ。

<韓国完敗 突然の日韓正常化>
 10日に行われたWBC日韓戦の話ではない。2018年の韓国大法院の判決に日本政府が「解決済み」と解決を拒んできた問題。個人の請求権問題については数回にわたって論じてきたので今更ここでは述べない。植民地支配に対する日本側の認識が厳しく問われた。日本政府は判決を歯牙にも掛けず、報復として対韓輸出規制、韓国は日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄を通告して両国関係は泥沼化した。わが国のマスメディアが政府と同一歩調をとったため、日本国内では「不当な要求」をする韓国に対する「反韓」「嫌韓」の感情が蔓延した。

 日本が主張を変えない限り解決は不可能に見えたが、韓国側が従来の主張を変えたため「正常化」が一気に進むことになった。
 昨年5月に発足した新政権は前政権を反米・反日、容共政権と断じ、政権交代直後から大規模な米韓軍事演習を実施するなど北には厳しい対決姿勢をとってきた。反発した北朝鮮が相次ぐミサイル発射をして朝鮮半島は冷戦状態に逆戻りした。一触即発の状態に尹錫悦大統領は熱い戦争さえ辞さない姿勢だ。
 強気の姿勢を支える背景に1965年の日韓条約締結、2015年の慰安婦合意時と同じく北朝鮮・中国をにらんだバイデン米政権の強い意志が感じられる。日本に対して安保三文書による戦争参加への地ならしと戦闘機、トマホークなどの購入を求める一方、韓国には従来から主張してきた対日要求の変更を求めた。アメリカは韓国に譲歩を求めることによって米韓国政府が望む日韓の「和解」にこぎつける道を開いた。

<未来志向というウソ>
 「未来志向」を言い出すのはいつも日本側だった。過去を曖昧にするための常套句である。<写真/プノンペン会談にて 聯合ニュース>
 

 
 今回は韓国側が言い出した。信じがたい韓国の変化である。「尹大統領はいつから日本の首相になったのか」。韓国社会は大統領の変節ぶりに驚きを隠さない。
 過去は問わない、損害賠償まで韓国持ちという至りつくせりの内容。従来からの主張に沿った日本側の完全勝利だ。
 だが、正常化にはこれまで以上の困難が待ち受ける。市民団体と野党は一斉に「大韓民国憲政史にこのように本末転倒な白旗投降、亡国的外交惨事があったろうか」と猛反発。歴史的・屈辱的事件とみなす保守勢力を含む多数の市民たちの反発は大きいからだ。
 姑息な国交正常化は日本人に韓国に対する侮蔑、優越感を助長することになりかねない。さらに懸念されるのは日米韓の軍事同盟の強化によって東アジアの緊張が一挙に高まることだ。
 マスメディアは「正常化」歓迎一色だが、どこまでも見当違いを続けるつもりか。1998年に当時の金大中大統領と小渕恵三首相が発表した「21世紀に向けた新たな韓日パートナーシップ」に盛り込まれた「植民地支配への痛切な反省と心からのおわび」の確認で解決する姑息さ。またもや当事者を抜きにして問題が先送りされることになる。
 
初出 :「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/

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〔opinion12898:230315〕