さきに本ブログで、前中国外交部長(外相)秦剛氏の動向について触れたが、そのおり中国共産党中央には対米外交路線をめぐって対立があったらしいと推測を書いた。
ところが、このほど、人民日報傘下の国際紙「環球時報」(2024・09・05)は、中共中央に米中関係改善の意志があることを明らかに示す、「アメリカ国会議員との交流を増進し、米中関係を安定したものにしよう」という論評を掲載した。筆者は外交学院国際関係研究所教授李海東氏である。その主張は概略以下のようなものである。
アメリカ国民なかんずく国会議員は中国を誤解しており、そのために対中国強硬論に陥りがちである。
第一、アメリカの国会議員の主張と政策は、選挙区の利害得失を強く反映している。中国とほとんど関係がない地域では、有権者は中国に対する関心はあまりない。そこでは議員は、自由主義的価値観によって、台湾、香港、国家統治など中国と対立する政策を支持する傾向がある。
第二、近年国会議員は中国を訪問しようとしない。いきおい、中国に対して偏見を持つベテラン議員がより大きな影響力を行使している。たとえば、上院情報委員会のマーク・ルビオ議員のような人物の言動は、議会における中国に関する議論の雰囲気をさらに悪化させている。
注)マーク・ルビオ共和党上院議員は対中国批判の急先鋒。このたびの大統領選挙の不正の結果は受け入れないと発言している人物である。
第三、過去10年間、アメリカの「ラストベルト」(鉄錆地帯)の有権者は、不景気の現状に不満を抱いているが、これらの州の議員や連邦政府の官僚たちは、有権者に「中国責任論」をまき散らし、生活や経済の悲劇を中国に転嫁しようとしている。
中国に対する負の印象は偏見であり、協力を通じて米中パートナーシップの構築を目指すという中国の政策を根本的に誤解している。だから、より直接的な米中交流は、彼らに中国の社会が健全で活発に発展しており、中国国内が団結していることをわからせる有効な手段であり、中国に関する多くの「嘘」を打ち砕く強力な武器でもある。
現在アメリカ議会の議員との広範な交流と協力は、米中関係の実質的安定という目標を達成するために不可欠である。 アメリカ議会がアメリカの台湾政策を支配しようとしている今、アメリカ議会との交流は台湾問題に対する、よりバランスの取れた見解を形成するのに役立つだろう。
米中双方は現在、多方面多レベルで実りある交流メカニズムを有しており、米議会議員についても同様の変化が生じ、双方の協力関係の改善と拡大につながることが期待されている。
以上、上記、李海東氏の意図するところは、とりわけ国会議員との直接交流を通して、アメリカ議会の強硬な対中国政策を軟化させようとするものである。これに次いで李海東氏の論評を裏付けるような報道が現れた。
今年も9月12日から14日、中国軍事科学学会主催の北京香山論壇が開かれた。香山論壇は中国が毎年開催する「世界安全研究のための会議」だが、今年はアメリカ・ロシア・ウクライナ・イスラエルなど100数十の国の国防相・軍総参謀長・軍事専門家など1000人余りが参加した盛会となった。
中国メディアはこれをかなり詳しく報道したが、北京での記者生活10年・現在台湾在住のジャーナリスト矢板明夫氏は、そこでの中国高官の言動を分析して、大略次のように語っている(YouTube)。
この度の香山論壇への習近平主席のメッセージ、主催者の中国国防部長(国防相)董軍氏の挨拶、外交部副部長(外務次官)などの発言には、台湾に触れたものは一切なかった。参加者の中に台湾問題を取り上げたものもあったが、中国の公式筋は控えめであった。 これは、中国関係機関が台湾総統に頼清徳氏が就任して以来、激しい「台独」非難を繰り広げ、台湾海峡の緊張を危険なレベルにまで高めたことからすれば、じつに意外のことだった。
なかでも、意味深長なのは、中国メディアが伝えた科学院元副院長の何雷中将とアメリカ国防次官補の蔡斯(Michael Chase)氏との会話だった。何雷中将はChase氏に軍事科学院の徽章を贈り、「貴方が我々中国の防衛政策を理解されるよう希望する」として、「徽章に描かれている長城は防禦の意味であり、さらにオリーブの枝は平和の意味だ。我々の国防政策は防衛と平和なのだ」などといった。Chase氏は、あなたの話は非常に興味あるものだと返した。
中国がいま特にアメリカに控えめの態度をとっているのは、アメリカ大統領選挙と関係がある。対立する2人の候補者は、互いに対中国政策が甘すぎると非難し合っている。こういう時中国軍がちょっとでも(積極的な)言動をとれば、アメリカを刺激することになり、中国に対してより強硬な態度が表に出る恐れがあるからだ。
香山論壇に限らない。最近中国南部戦区司令官はアメリカインド太平洋軍司令官と話を通じている。中国は、過去の戦狼外交によって一方的に停止したアメリカ各方面とのホットラインを、いま回復しようとしている。中共中央は(少なくとも中国軍部は)明らかに対米関係緩和を望んでいるのである。
以上の矢板氏の判断は、上述の李海東氏の論評とは矛盾しない。わたしたちも、中国は対米路線を変更したと考えて間違いはないと思う。では、習近平政権は、戦狼外交で悪化した他の西側諸国とも関係修復を図るだろうか。それはわたしにはわからない。
だが、日本に関しては、中国は対米外交を優先し、アメリカとの関係をうまくやれば日本はついてくると考えている。現に軍事費の激増には文句を言っているが、外交上はほとんど相手にしていない。
文化大革命の昔から、中国政府は日本をアメリカの従属国と見なしてきた。たとえば、中国にとってだれがアメリカの次期大統領になるかは重大問題だが、日本の次期首相にだれがなるかには、研究者以外だれも関心を持たないのである。最近では8月27日から29日、自民党から共産党までの日中友好議員連盟の国会議員団が北京を訪問しても、習近平主席に会えないだけでなく、軽くあしらわれ手ぶらで帰ってきた。これは従来通りの中国の日本への対応の仕方である。日本はこれからもこうし待遇を受けるだろう。
(2024・09・18)
初出:「リベラル21」2024.09.26より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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