所得格差など懸案解決にどれだけの効果あげるか -中国で固定資産税と家屋購入の制限措置を導入-

  定例国会に当たる全国人民代表大会の開催(3月5日)を前に、中国の4直轄市のうちの上海と重慶で1月末から「房産税」(固定資産税)が試験的に導入された。また、それと歩調を合わせ、北京・長春・成都など11都市で家屋購入制限令が施行された。どちらも初めての試みである

  経済の高度成長とともに所得格差がどんどん拡大してきたこと、北京・上海など大都市で不動産価格の上昇が著しく、それが主として投機によるものであることから、消費者物価指数を押し上げ、「老百姓」(大衆)の当局への不満と不信のもとになっている。
今回の措置は、中国共産党と政府がその緩和・解消を図るためとった緊急措置である。固定資産税についは、国務院常務会議が一部の都市に個人住宅への課税を認め、不動産価格の高騰が目立つ上海と独自の政策を展開する重慶両市が導入に踏み切った。この税金は地方税である。

  まず、二つの措置の要点を紹介しよう。固定資産税は、上海・重慶両市の一定地域で課税対象となる家屋に、評価額を基に一定の税率で課税する内容。課税対象と税率は両市の固定資産税を導入した目的の違いを反映して少し異なる。また、家屋購入制限令は、居住する住宅以外に、一定の市域で家屋を購入することを禁止するもの。これも具体的な条件は市により異なっている。

  周知のように、中国では土地は国有(集団所有)である。だから、不動産取引といっても、土地の場合、市場で売買されるのは所有権ではなく期限つきの使用権(地上権)である。今回両市で導入された「房産税」は、その上に建てられた家屋への税金だから、訳語として固定資産税を充てた。

 さて、上海市の内容をみると、市民の現在住む住宅は原則的に非課税扱いである。ただし、2軒目の住宅を買った場合、新旧住宅の面積を合算して1人当たりの居住面積が60平方メートルを超える部分に課税される。また、上海市民でない他の省市住民が上海で新規に住宅を購入したとき同様に課税される。

  重慶市は、内陸部の中心都市で、西部開発の拠点都市として北京・上海・天津に次いで4つめの直轄市になった。人口が約3200万人と上海の2倍以上あり、行政区域が郊外区を含め広大だ。このため、課税対象地域は旧市街の9区に絞られた。
  重慶の場合、行政のトップに立つ薄熙来・中共重慶市委書記が来年の党中央人事を意識した施政も関係しているようで(後記)、不動産価格の上昇と投機の抑制を明確に課税目的に含めており、非市民が新規に購入した住宅は課税の対象になる。また、同市の市民であっても、一戸建ての家屋や1平方メ―トル当たりの成約単価が前年、前々年の成約額平均の2倍以上になる高級マンションを購入すると、その成約額に応じて0.5%―1.2%が課税される。

  上記のように、この税金は地方税であり、税収は低家賃の公営住宅建設などに充てられる。いわば地方自治体の貴重な自主財源になるわけだ。このため、上海、重慶の実施状況によっては両市に追随する都市が出てきそうだ。

 重慶の場合、薄熙来・党委書記(党中央政治局員)が、農村戸籍から都市戸籍への切り換えを積極的に進め、「『紅歌』(革命歌)を歌おう」キャンペーンを張るなど市民の不満解消に向けて積極的な采配を振るっていることを併せて見る必要がある。
薄一波・元副首相の息子である同書記は、習近平・国家副主席(中央政治局常務委員)と同じような“太子党”(高級幹部の子女)グループだ。重慶市書記に転じてすぐ大々的な「黒社会」(ヤクザ)一掃にとりかかり、ヤクザと結託していた公安局幹部もやり玉にあげて注目された。

  習近平・国家副主席は来年の第18回党大会で胡錦涛・党総書記のバトンを受け継ぐと見られており、習近平体制の中央指導部では大幅な人事異動がありそうだ。薄熙来・重慶市書記の積極的な施政は、その異動期に党の最高指導部である政治局常務委員会に入ることを目指して展開しているアピールと目されている。

  さて、もうひとつの家屋購入制限令は、不動産投機を正面から押さえ込もうという条例だ。北京市の場合、固定資産税は差しあたり見送り、他の都市にくらべると厳しいといわれる内容の家屋購入制限令を打ち出した。2月中旬、経済のマクロ調節問題を取り上げた会議で15条におよぶ細則が発表された。

『国際金融報』によると、この制限令は≪禁三禁二≫が前提とされた。この≪禁三≫とは、北京市に戸籍のある市民は、居住する住宅の他にもう1軒住宅を購入してもいいが、3軒目は購入できないというもの。≪禁二≫は、北京市に戸籍のない非市民は居住する住宅意外に住宅を購入できないという内容である。しかも居住用住宅を買えるといっても、暫定居住証があり、連続5年以上、社会保険料と所得税を納入している人という条件つきだ。
  
  家屋購入制限令を施行した都市は、北はハルビンから南は南寧まで全国に広がっている。その内容にはかなり違いがある。たとえば、①施行期間=3月1日から2年間(南寧)、2011年末まで1年間(長春・青島)、②納税期間は北京の5年が最長、多くの都市は1年、③購入制限の地域=市中心区域(成都)、第一環状道路内(貴陽)など。

  現に住まっている住宅はともかく、市民あるいは非市民の2軒目、3軒目といった住宅所有状況を当局はどのように把握するのか、細則を見てもよく分からない部分がある。不動産売買から追跡する方法は当然とるのだろうが、中国には「上に政策あれば、下には対策あり」という慣用句で表される当局と市民のせめぎあいがあり、当局がどこまで取引を捕捉できるか。

  昨年、中国で離婚件数は1日平均5370組に達した。この中には、前から噂されていたこの「2軒目への課税」を回避するための偽装離婚がかなり含まれるという。ネット情報によると、北京では新政策の影響で家賃が上昇気味で、安い家賃で共同生活する「アリ族」(大卒ワーキングプア)に早くも影響が出ているといわれている。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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