来週の日曜日が総選挙の投票日。残る選挙運動期間は1週間のみ。この時点での感想を幾つか。
メディアは、今回の選挙の構図を三極の闘いとしている。その三極のうちの、「自公」対「希望」対峙の局面に主要な関心を向け、副次的に立憲民進にもライトを当てている。
しかし、今回の選挙は安倍一強の歪みを糺す選挙ではなかったか。安倍政権の傲り、政治や行政の私物化、極端な経済的強者優遇の姿勢、行政の不透明性、そして平和・原発・改憲問題…。これをどれだけ厳しく批判できるかが、主たる争点であったはずではないか。
その意味では、今次総選挙の闘いの構図は、明らかに2極構造だ。比例区選挙は各政党の争いだが、その一つの極が安倍自民であり、もう一つの極が最も厳しく最も原理的に安倍一強政治を批判してきた共産党。この2極の間に、中間諸政党がそれぞれの位置を定めて並ぶ構図。
そして、現行の小選挙区制を前提とする限り、現実的に議席を得るためには諸政党は近似の政党と連携してグループを作らざるを得ない。そのグループ対立の構図も、9条改憲と戦争法廃止をメインテーマに、「改憲自公」対「護憲共社憲」の2極対抗。その中間に、「希望・維新」が位置している。3極構造ではなく、飽くまで2極の構造に、ヌエのごとき夾雑物が位置しているとみるべきだろう。
基本は、安倍批判による自公離れ票が対極の共産あるいは護憲政党共闘にまで行き着くか、それとも中間での途中下車を許すか、の問題である。
「もり・かけ隠しの冒頭解散」が決まった頃、総選挙の主要な争点が安倍自民に対する国民のの審判であることは衆目の一致するところだった。ところが今、かなりちがった空気が漂っている。言うまでもなく、希望の党がしゃしゃり出て、失敗したことによるもの。
希望は、安倍政権批判の世の風向きを見てこれに乗ろうと出てきた「安倍自民に代わろうとする保守」である。ムジナをタヌキに代えたところで大した変化はない。実質的にアベ政権の基本政策を継承しようという受け皿にほかならない。一時は、安倍支持層を掘り崩し、安倍離れ票を獲得するかと思われたが、その反国民的な政治姿勢が早くも露呈して、馬脚を露わす事態となった。するとどうだ。「こんな希望の党ごときに比べれば、自公与党がよりマシ」に見えてくる現象が生じた。それが、序盤の選挙情勢分析が示しているところなのだと思う。
結局のところ「希望」とは、安倍離れ票を受けとめそれ以上にリベラル側に行かせぬという意味でのストッパーの役割だったはずだが、今のところ現実には安倍離れとなるはずの票を安倍に留めるという意味でのストッパーになっているのではないか。野党を大きく割って、「希望」という塊を作った、小池・前原・連合3者の政治責任は極めて大きい。
あと一週間の積極的論戦の深まりに期待したい。その主役は、有権者自身だ。そもそも選挙運動の主体は候補者でも政党でもなく、有権者すなわち主権者なのだ。主権者は、けっして候補者からの働きかけの客体にとどまるものではない。
「投票箱が閉まるまでの主権者」という言葉があるが、自由な選挙運動のあれもこれも規制しようという公選法は、選挙期間中の主権者の手も口も縛ろうとしてきた。それでも、できることはたくさんある。日々の会話で大いに選挙を語ることはまったく自由だ。投票依頼のための「戸別訪問」は禁止されているが、たまたま行き会った有権者に対する投票依頼は場所がどこであろうとも、「個々面接」として自由だ。電話による投票依頼にもなんの制約もない。
なにより、ウェブサイト利用の選挙運動は自由だ。ホームページ掲載も、ブログも、ツイッターも、フェイスブックも、ラインも発信元アドレスが明記されている限り自由なのだから、これを活用しない手はない。
選挙運動とは言論戦である。本来、戸別訪問も文書の頒布も、典型的な言論による選挙運動として自由が保障されなければならない。これを禁じる表向きの理由は、戸別訪問が密室での贈収賄の温床となりかねないということであり、文書頒布は金がかかり経済的な格差が票に影響を及ぼしかねないからということにある。
ブログも、ツイッターも、フェイスブックも、ラインも、貧者の武器たりうる。匿名に隠れた卑劣な発信は保護されないが、発信者のアドレスを明記したものである限り、候補者や政党の名を挙げて堂々と推薦し投票依頼しあるいは批判してよいのだ。
もっとも、電子メールの発信による選挙運動は一般有権者にはまだ解禁されていない。解禁されれば、選挙期間中莫大な量のメールが行き交い、メール利用による正常な業務を妨害することになりかねないからだという。メールにだけは注意して、あと一週間。有権者としての権利を大いに行使しようではないか。
(2017年10月15日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2017.10.15より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=9329
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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