拉致問題解決のための独自制裁解除

著者: 綛田芳憲 かせだよしのり : 立命館アジア太平洋大学教授
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北朝鮮による日本人拉致の問題(拉致問題)は、日本にとって非常に重要な問題であることは、今更、言うまでもない。

2002年9月の第1回日朝首脳会談後、5名の被害者が帰国し、2004年5月の第2回日朝首脳会談後、5名の被害者の家族が来日した。しかしその後、拉致問題は実質的な進展を見せていない。被害者のご家族も高齢になり、お亡くなりになった方もいる。一刻も早い問題解決が望まれる。

問題は、どうやって解決するかである。

その点に関して、「北朝鮮による拉致被害者家族会」(家族会)、被害者家族を支援する「救う会」は、2017年4月23日に開催した「拉致問題を最優先として今年中に全被害者を救え!国民大集会」において、決議案を採択し(以下に引用)、日本政府に対して、以下の要求を行った。

1)核・ミサイル問題と切り離して全被害者救出のための実質的協議を最優先で実現すること

2)協議では、全被害者帰国の見返り条件として独自制裁解除などを使うこと

家族会、救う会のこのような立場は、朝日新聞などでも報じられた。

独自制裁の解除については、決議案の別の箇所で、「核・ミサイルに関して国際社会と共に圧力を強めることと、わが国独自の制裁解除などを見返り条件とし全被害者救出のための実質的協議を行うことは矛盾しない。わが国の独自制裁は拉致を理由にしているので、金正恩政権が拉致被害者全員帰国を決断すればその解除を見返りとして与えることができるからだ。わが国の独自制裁は拉致を理由にしているので、金正恩政権が拉致被害者全員帰国を決断すればその解除を見返りとして与えることができる」との説明がされている。

実際、日本政府は、拉致問題での進展を図るため、2014年5月に日朝合意を結び、同年7月に独自制裁を部分的に解除したことがある。従って、同様の措置を再度取ることは可能である。しかし、2014年に部分的に解除した制裁は、その後、北朝鮮の核・ミサイル開発の進展に伴い日朝関係が悪化する中で、拉致問題での進展も見られなかったため、復活することとなった。

また、2014年の部分的制裁解除は、かなり限定的であった。それは、日本の独自制裁が、日本人拉致だけを理由としているのではなく、核・ミサイル開発も理由としていたからである。実際、北朝鮮の核・ミサイル開発の進展に伴い、日本は独自制裁を強化してきた。それを考慮すれば、核・ミサイル問題と切り離して、拉致問題で北朝鮮の譲歩を引き出すためだけに、独自制裁を全面的に解除する、或いは、輸出入禁止措置を解除するなどの大幅な解除をすることは容易ではないだろう。

このように、拉致問題の解決のために独自制裁を解除する場合、どの程度解除するのか、また、制裁の解除がどの程度の成果を生むのかは、核・ミサイル問題の状況に影響される。日本政府としては、拉致問題を巡り北朝鮮と二国間協議を行うことは出来るが、残念ながら、独自制裁を解除することも、それにより拉致問題で成果を挙げることも、核・ミサイル問題の悪化により、難しくなっている。

このような困難な状況において、拉致問題で成果を挙げるには、日本政府はこれまで以上の努力を注ぐ必要がある。

<以下、「救う会」HPからの引用>

 

◆決議案採決

笠浩史(拉致議連事務局長代理)

みなさん長時間お疲れ様です。最後に決議案を朗読させていただきます。

本日、私たちは「拉致問題を最優先として今年中に全被害者を救え!国民大集会」を開催した。北朝鮮が昨年2回の核実験を強行し、繰り返しミサイル発射の暴挙を続ける中、米国を初めとする国際社会は軍事行動をも含む全ての手段をテーブルに載せて圧力をかけている。それに対して金正恩政権は核先制攻撃も辞さないなどという脅迫の言辞で緊張を高めている。私たちはこのような情勢の中で、拉致被害者救出の旗が吹き飛ばされてしまうのではないかという強い危機感を持ち、本集会に集まった。

危機をチャンスに変えるため、私たちは昨年より拉致被害者救出を核・ミサイル問題と切り離して最優先で取り組むよう政府に要求してきた。核・ミサイルに関して国際社会と共に圧力を強めることと、わが国独自の制裁解除などを見返り条件とし全被害者救出のための実質的協議を行うことは矛盾しない。わが国の独自制裁は拉致を理由にしているので、金正恩政権が拉致被害者全員帰国を決断すればその解除を見返りとして与えることができるからだ。

北朝鮮人権法に明記されているとおり、拉致は「北朝鮮当局による国家的犯罪行為」だ。犯罪被害者救出は政府が最優先で取り組むべき責務だ。だからこそ、核・ミサイル問題での国際連携強化を進めつつも、北朝鮮からの被害者帰国を早期に実現せねばならない。拉致問題がいかに重大な人権侵害事案であるかを国際社会に訴えてきたのもこの時のためだった。あらためて政府に、核・ミサイル問題と切り離して、独自制裁解除などを見返り条件として使い全拉致被害者救出のための実質的協議を行うよう求める。

被害者が彼の地で祖国の助けを待っている以上、私たちは負けるわけにはいかない。今年中に必ず救い出すという決意を込めて以下の決議を行う。

一、北朝鮮は、今すぐ、拉致被害者全員を返せ。全被害者を返すための実質的協議に応ぜよ。

二、政府は、核・ミサイル問題と切り離して全被害者救出のための実質的協議を最優先で実現せよ。協議では、全被害者帰国の見返り条件として独自制裁解除などを使え。

三、北朝鮮が全被害者を返す決断を渋る場合に備えて、政府と国会は、新法制定なども含むより強い独自制裁をかける準備をせよ。地方自治体は、朝鮮学校への補助金廃止、朝鮮大学校などの各種学校認可の再検討を行え。

平成29年4月23日

「拉致問題を最優先として今年中に全被害者を救え!国民大集会」参加者一同

(出典:『救う会 全国協議会』http://www.sukuukai.jp/mailnews/item_5902.html )

初出:2017年5月7日。「綛田芳憲 ある政治学者のブログ」より許可を得て転載

http://blog.livedoor.jp/kasedayoshinori/archives/1815011.html

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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