竹田君のモノローグ-「前途には、越すに越せない障害物が山積」
私、竹田恒和です。恥ずかしながら、皇族の出です。オリンピックを取り巻いているのは、金持ちだけでなく王族や貴族が織りなす世界。クーベルタン自身が男爵でしたし、歴代9名のIOC会長のうち、5人は爵位の持ち主です。キラニンは男爵、サマランチは侯爵、ロゲは伯爵。世が世であれば、私だって爵位くらいはあったはず。
もっとも、出自の良さと能力には何の関係もありません。出自と廉潔さともなれば、なおさらのこと。もっとも、育ちの良さは、一般に逆境を切り抜ける強さに欠けることにはなるでしょう。私も、この点自信がありません。東京オリンピック招致不正疑惑についての厳しいご指摘、一々ごもっともと、私自身が思ってしまうのですから。安倍さんや、籾井さん、そして今もうひとり疑惑の渦中にいる舛添さんなどの強心臓を学ばねばならないと思いながらも、ままなりませんね。
一昨日(6月16日)と本日(18日)、国会で疑惑追及の矢面に立たされました。部下が作った原稿を読むのが私の役目なのですが、当の私自身が出来のよい弁明とは思えないくらいですから、あれを聞いておられた多くの人びとが、疑惑を深めたであろうことはよく分かります。私は馬術の障害飛越競技選手でしたが、果たして眼前の障害を乗り越えることができるのだろうか。心細く不安でなりません。
私の弁明は、招致委員会が「ブラックタイディングス社」に2億3000万円を送金したことを認めるところから出発しています。送金の事実は証拠を押さえられていますから、否定することができません。2回に分けての送金の時期が、2013年9月の東京オリンピック招致を決めたIOC総会をはさんで、7月と10月。当然疑惑の対象となるわけです。
送金先の会社とどのように接触したのか。その素性をどう確認したのか、送ったカネの趣旨は何だったのか、そのカネはどのように使われたのか、送金先からカネの使途についてどのように報告を受けているか、ほかにもカネをばらまいていないのか…。想定される疑問に、スタッフが知恵を絞ってあの原稿を書いたのです。
具体的なことを書けばボロが出るわけですから、できるだけ抽象的に、あとからどうでも言い訳できるような文章を拵えてありますから、リアリティに欠けます。後ろめたい印象となったのは当然のこと。
しかしこう思ってくださる心温かい方もすくなくないと思うのです。
「オリンピック招致にワイロが動くのは常識じゃないの」「2016年大会招致の敗北は結局実弾が不足していたからでしょう」「招致に成功すれば見返りは十分なのだから思い切った『投資』が必要なことは理解できる」「コンサルなんて、ワイロあっせんに決まっているでしょうが」「ロビー活動って、結局はどうやって裏金を渡すかの密談以外の何ものでもありませんよね」「要は、ワイロを待ち構えているIOC委員に、どれだけの金額で、オ・モ・テ・ナ・シをするかだよ」
こういうものわかりのよい人びとを心の支えに、「カネはコンサル業務の対価としての支払いだ」とまずは構成しました。で、電通の名を出してこれに一部責任を転嫁し、「電通から、実績あるコンサル業者であることを確認した」と言ったのです。
ブラックタイディングスは、自分の方から売り込んできたのです。自分の実績も、IOC委員とのつながりについても、いろいろ話しただろうと思うのが常識的な判断。でも、そこを認めてしまっては、障害を飛越できません。飽くまでも、無理と知りつつ、「何も聞いていません」「委員との人的関係は知る由もありませんでした」とがんばるしかありません。
もっとも、何もかも知らぬ存ぜぬでは、「そんなことを調べもせずに2億ものカネを出したのか」「杜撰きわまる」と批判されますから、どこまで知らぬと押し通すかは微妙なところ。本当のことを語っては、「お・し・ま・い」なのですから、いかに本当らしく語るかが、苦心のしどころなのです。
招致決定以前の7月の支払いは、国際ロビー活動や情報収集業務として、招致後の10月の支払い分は、「勝因分析」業務として支払ったことにしました。「勝因分析に1億」って、そりゃ何だ? と突っ込まれるのは当然といえば当然。このコンサル会社は実はただのペーパーカンパニーで、裏で国際陸連前会長ラミン・ディアク氏の息子であるパパ・ディアク氏と繋がっていることを知っていただろうという追求を受けることになります。「知っていた」と言ってしまえば、一巻の終わりです。
どうしても逃げられないのが、コンサルタント料の約2億3000万円について、事前にも事後にも使途を確認していない、ということ。本日も、参考人として出席した衆院文部科学委員会で説明、このことを明言しました。だってね、まさか「事前に、ワイロとしての使途を確認」したり、「事後に、確実にワイロとしてターゲットに渡ったことの確認」などできるわけはないでしょう。だから、「使途の確認はしていない」と言わざるをえないのです。
すると、「使途の確認もすることなく2億を超えるカネを支払ったのか」「まことに不自然ではないか」「不見識」とお叱りを受けることになります。これは辛いが、じっと我慢する以外ありません。辻褄合わせは楽ではないのです。
結局、今はやりの第三者委員会方式による調査をすることにしました。弁護士など第三者の調査チームをつくるという、あのやり方です。ここにお任せして、招致関係者から聞き取り調査をしてもらおうというのです。これが一番楽で利口なやり方。うるさい記者には「第三者委員会で調査中で、その結論を待っています」と時間稼ぎができます。その内に、いろんな事件が起きて世論の逆風もおさまるに違いない、と思うのです。
うるさくない弁護士だけを集めて、調査チームを作って答申させるのです。あんまり、露骨な甘い調査ではいけない。さりとて本気になって厳格な調査など始められたら、なおいけない。その辺のアウンの呼吸を身につけた、大人の弁護士を見つけるのが、この種危機管理の要諦というもの。しかるべき人脈で、しかるべき弁護士を見つけることができるはずです。いざという時は、また、電通に頼みこめばよしなにはからってくれるでしょう。
私の後ろには、政権も東京都もついていたはずだったのです。ところが、東京都の方は当時の知事が不祥事で辞任し、その次の知事もおかしくなってしまっています。残るは、安倍政権なのですが、今度の参院選でどうなりますか。こちらも、心もとないありさまです。
そして心配は、日本での追求は飛越できたとしても、フランスの捜査当局がいったい何を見つけてしまうのか。心配で夜もオチオチ眠れません。いっそのこと、東京オリンピック返上覚悟で、洗いざらいぶちまけてしまったら、気持も軽くなろうかと思うのですが、そんな思い切ったことができないのは、やはり私の育ちの良さが邪魔しているのでしょうかね。
(2016年5月18日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2016.05.18より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=6894
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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