放射能汚染と子供たちの被爆の現状からー福島にて

連帯・共同ニュース第134号・135号・136号  2011年7月19日・20日・21日

■ 何かと話題にされる菅首相である。この菅首相は福島県の郡山市で福島第一原発の原子炉の安定的な冷却を目指す工程表の「ステップ1」が期限の7月19日までに達成できると見込みであると語った。そして来年1月を目標とする「ステップ2」の前倒し実現を表明した。福島第一原発の冷却安定への道は進行しているという表明である。しかし、原子炉冷却・汚染水処理はトラブルが伝えられており、現実には多くの難問に直面している。政府の表明を危ぶむ声は強いい。燃料プールの冷却、放射物質の放出規制などは目標を達成しているとされるが、発表を鵜のみにするわけにはいかない。福島第一原発の安定的な冷却は超党派(脱原発か原発推進かの立場を超えて)的に実現しなければならないことであり、僕らは山田提言に沿って「福島原発行動隊」への賛同としてそれに関わろうとしてきた。この現状については別の報告もあるだろうが、依然として福島第一原発は予断の許さない状況にあり、政府筋の発表には疑念を持って見ていた方がいいし、独自の調査活動と対応を準備して行くべきだ。僕らのできることも含めてである。 

■ 「放射能汚染から人々を守る」ことは原子炉の安定的な冷却化とともに超党派でやらなければならないことである。放射能汚染がどのように進行し、それからの防御がどのようになされようとしているかは明瞭ではない。もともと原発震災のようなことは起こらないということを前提にし、そのような事態が生じた場合の対応策を検討することがタブーにされてきたことに起因するのだろうが対策は遅れている。高濃度の放射性セシウムの付着した稲わらを餌として与えていた肉牛の汚染が問題となっているように、放射能汚染の実態が後追い的に知らされ,どたばたの劇のような対応が見えるだけである。政府や東電、あるいは自治体は遅れながらの対策を講じはじめてはいるが、市民や地域住民が独自の手でそれをやらなければならないことが存在する。それが現状の重要な点である。放射能の測定や放射能汚染の調査からはじまって、避難行動にいたるまで多様であるが、政府などへの要求や交渉も含めて独自の行動が重要である。「放射能汚染から見を守る」こと、とくに乳幼児や子供たち、また若い人たちの汚染からの防御策に意をそそがなければならない。食で体を強くする試み、内部被爆に対する広島や長崎での経験の取り入れなど、具体的な対応がなされているし、子供たちを安全な場所に避難させる取り組みもある。これらの動きの支援を念頭にして第10次救援行動(7月16~18日)は展開された。

■ 桜の花がちらほらと咲き始めたころに「トラック」で救援物資を届ける活動ははじまった。首都高の上から隅田川の花を見おろしながら車は漸く開通した常磐道に向かっていた。3月の下旬である。まだ、放出される放射能は多量でありその実態も不明で福島原発の周辺に出掛けるだけで緊張があった。今回の7月16~18日の支援行動は10回目になる。トラックとワゴン車との2台で5人の行動となった。トラックには東伊豆や御殿場で頂いた甘夏や水や野菜が積まれていた。この野菜や水,甘夏は福島市の無認可保育園に届けられた。そして、同時に情報センターにPCやプリンターも届けられた。僕らのトラック隊による物資の届けが依然として中心的活動であるが、それは変化もしてきている。食料や日常の生活用品の提供から情報機器のなどの提供が加わり、避難などの手助けが加わってきている。そしてさしあたっての支援対象は子供たちを放射能汚染から守る活動に絞り込まれてきている。                                                                

■ 6月26日(日)に福島市で行われたハンカチパレードに参加したときに生活村に出掛けた。今回も7月17日(日)の午前中に開かれていた生活村に顔を出した。生活村は市民のみなさんが放射能汚染から身を守るための知恵や工夫を出し合い助け合う場である。例えば、食で体を強くするための提言があり、具体的な食物の試食もなされていた。放射能物質を排泄させ、影響を最小限にして発病を防ぐための工夫と提案がなされているのである。ここには広島や長崎で被爆者たちが実践してきたものも伝達されている。日常生活の基本にある食の現場での「放射能汚染との闘い」がなされているが、こうしたことは乳幼児を抱える母親にとっては切実である。また、子供たちの疎開や避難のための相談所も設けられていた。放射能汚染の地域から子供たちを疎開や避難させることは母親たちにとっては大事なことである。子供を放射能汚染から守ることについての政府(文科省)の対応は20㍉シーベルト問題で明らかである。基本的な方針はないのだ。子供たちの疎開や避難の提起は政府や行政から積極的に援助される状況にはない。市民たちは「避難の権利の確立」として裁判を起こし、政府との交渉を始めている。この問題では政府や行政の壁だけではなく、家族内部での一致に困難もあると推察できる。親の生活問題、子供の世界のことなど困難な壁があるように思える。僕らは彼らの闘いを支援するだけだが、容易なことでないのを自覚している。放射能の市民による測定コーナーは人の山だった。

■ 新聞には福島の子供たちの「夏休み疎開」のことが伝えられる。放射能汚染の浸透する中で不安も増す親の願いは一刻でも空気のきれいなところで夏を過ごさせたいということだろう。放射能汚染は見えないし、すぐに影響が出てくるわけではない。それだけその影響を今は想像するしかないところがある。専門家も放射線と人体の関係についてはことなった認識や見解が披歴されているのが現状である。ただ、明瞭なことがある。それは僕らが現在という時代において放射線と向かいあって生きざるを得なくされているという事実であり、これは疑いもなく歴史的事実であるということだ。この中で放射線との関係を明瞭にする専門的知識の確立もなく、人々とりわけ乳幼児や子供を持つ人々が不安を持つのは当然のことである。現在ではまだ、放射線との関係を認識し、その判断は諸個人に委ねられており、自分で判断し行動するしかない。福島という地域はその最前線にあり、子供を放射能汚染から守ろうとして行動している人たちはまたその中の最先端にあると言える。そこでの経験は初めてのことが多く、想像を超えて困難がいろいろ出てくるのだと思える。放射線が日常の生活場面に下りてくる人々の闘いは人類の放射線との闘いの最前線であり、人類の明日の経験である。これは他人事ではないのである。

■  僕らは今回、「子供たちを放射能汚染から守るネットワーク」のみなさんたちが立ちあげた「情報センター」にPCなどの情報機材を提供し、無認可保育園の子供たちに水や果物などを届けた。無認可保育園では水道水は使わず、ペットボトルを使用しそれを特別に購入しているとのことで一助となればと願ってのことだ。30人の子供たちのいる保育園で水の使用量は1日40㍑に達するようで、約580人(15保育園)からその供給の要請がある。これは膨大な量で現在の僕らの支援行動そのままでは困難である。僕らが子供たちを放射能汚染から守ろうとしている人々を支援する行動はこの範囲でも大変である。僕らは計画を練り、段階的にその要請を満たすことを準備したいと思う。第12次以降の支援行動は何処まで続けられるか分からないが、水や野菜や果物を無認可保育園に届けることを中心に展開する予定である。これに情報機器の提供なども続けられる。子供たちの疎開や避難についても情報の提供や受け入れ先の紹介などを行いたい。僕らは自力で出来ることに限界があるが、他のボランティア組織に協力を求めることも含めてこのことを実現していきたい。皆さんにも要請が行くかも知れない。 (文責 三上治)

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