高市首相の「台湾有事」発言が中国を刺激してしまったのだ。少なくとも歴代内閣が抑制していた部分の一線を超えたのが高市発言だった。さまざまな政策で内実の伴わない「力強さ」だけを強調した一面が露呈したのだ。中国の大阪の総領事の暴言や日本の金井アジア大洋州局長との会談後の劉アジア局長の振る舞いはいくら自国民向けのパフォーマンスとしても、ポケットに手を突っ込んだり、手を後ろに組んだりする映像が流れているが、外交上いかがなものか。
それにしても、「政治家」、「専門家」たち、マス・メディア、ソーシャル・メディアは、中身のない常套句や常套手段が駆使して、目をくらませる。受け手の私たちは、用心に用心を重ねて実態や事実を知る努力をしなければならない。
「戦略」が大好き?「司令塔」になりたい‽
状況が打開できないのを察知すると、すぐさま新しい会議や本部を立ち上げたり、新設したりする。直近で言えば、高市首相の所信表明で「日本成長戦略会議を立ち上げ」(10月24日)、いつできたのか知らないが、内閣官房の「人口戦略本部」は初会合を開いたという(11月18日)。こんな会議や本部は、「司令塔」になるという発言もよく聞かれる。そんなに「戦い」たいのか、軍隊用語まがいのことばが横行しているが、ただの「看板の立て替え」、「表紙の付け替え」のことが多い。従来の失策や不具合を覆い隠したいだけなのかもしれない。
「政府効率化局」って何する?
また、こんな報道もある。内閣官房に「政府効率化局」を新設するという。これは自民と維新の合意書にも明記され、企業への特別減税措置や高額な助成金などの点検を行い、「仕分け」によって財源を捻出するという。会計検査院があるではないか、それより以前に各省庁に点検・自浄作用が働かないのかと、納税者としては、いまさらと情けない限りではある。もっとも森友・加計問題は、いまだに誰もが責任を問われないまま、再調査の必要がないと突っぱねる政府の「政府効率化局」に何ほどのことができるのか。
「見直し」という改悪!?
政府は、総合経済対策の一環として「OTC類似薬(市販薬と成分や効果が類似する薬剤)の自己負担見直し」、つまり保険適用から除外するという(によって現役世代の保険料抑制をはかる方針が明らかになった。また、社会保障制度改革の中で、高齢者の医療費の窓口負担割合に金融資産を反映させる法制上の措置を講ずるという(「朝日新聞」2025年11月18日)。実は、OTC類似薬の件については、すでに、今年の6月に、自民・公明・維新の三党合意がなされていたが、日本医師会などからは懸念が表明されていた(「社会保険料の削減を目的としたOTC類似薬の保険適用除外やOTC医薬品化に強い懸念を表明」『日医ニュース(日医online)』2025年3月5日。「2026年度から実施?「OTC類似薬」保険適用除外の目的・論点を徹底解説」『ドクタービジョン』2025年9月4日)。日本医師会が懸念するのは、主として(1)医療機関の受診控えによる健康被害、(2)経済的負担の増加、(3)薬の適正使用が難しくなること、であって、これは素人でもわかる。(1)(2)はもちろんだが、素人判断での服薬は、その中止や重複による被害が問題となる。
また、再審制度の見直しの議論が進んでいる。再審の請求から43年を経ての無罪判決、23年を経ての無罪判決が続き、再審制度の不備が明らかになった。手続きの長期化と捜査機関が持つ証拠を開示するルールをめぐって、法制審議会での議論が続いている。無実の人の最後の救済手段だけに、その救済の道を狭めてはならず、早急な法改正が必要なはずである。ところが、検察・法務省は、検察が持っている証拠開示の範囲を「弁護士が提出する新証拠とそれに基づく主張に関するもの」に限るとする意向だという。その範囲も曖昧だし、かえって開示の範囲を狭め、拡大には消極的だとされ、批判を浴びている。「見直し」という「改悪」になりかねない。
残念ながら「見直し」と聞くと、まずは疑ってみる必要がある。(つづく)
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先日、近くの佐倉市立美術館「佐倉・房総ゆかりの作家たち」に出かけた折、買わないことにしている美術展のカタログをその絵に魅せられて買ってしまった。『小堀進水彩画展』(佐倉市立美術館 2013年)より。
初出:「内野光子のブログ」2025.11.19より許可を得て転載
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2025/11/post-d4de3c.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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