敢えて「皇室タブー」に切り込む心意気ー「靖国・天皇制問題 情報センター通信」

月刊「靖国・天皇制問題 情報センター通信」の通算507号が届いた。
文字どおり、「靖国・天皇制問題」についてのミニコミ誌。得てしてタブー視されるこの種情報の発信源として貴重な存在である。しかも、内容なかなかに充実して、読ませる。

[巻頭言]は、毎号「偏見録」と題したシリーズの横田耕一(憲法学者)論稿。回を重ねて第52回目である。長い論文ではないが、いつもピリッと辛口。今回は「なんか変だよ『安保法制』反対運動」というタイトルで、特別に辛い。

論稿の趣旨は、「本来自衛隊の存在自体が違憲のはず。武力を行使しての個別的自衛権も解釈改憲ではないか。」「にもかかわらず、集団的自衛権行使容認だけを解釈改憲というのが、『なんだか変だよ』」というわけだ。表だってはリベラル派が言わないことをズバリという。天皇・靖國問題ではないが、タブーを作らない、という点ではこの通信の巻頭言にふさわしい。

要約抜粋すれば以下のとおり。
「かつての憲法学者の圧倒的多数の9条解釈は、一切の戦力を持たないが故に自衛隊は違憲であり、したがって個別的自衛権の行使も違憲とするものであった。この立場からすれば、『72年見解』などは政府による典型的な『解釈改憲』であり、『立憲主義の否定』であった。
 ところが、いまや、現在の反対運動のなかでは、共産党や各地の9条の会などに典型的に示されているように反対論の依拠する出発点は『72年内閣法制局見解』にあるようで、それからの逸脱が『立憲主義に反する』として問題視されている。したがって、そこでは自衛隊や日米安保条約は合憲であることが前提とされている。過去の『解釈改憲』は『立憲主義に反しない』ようである。
 自衛隊・安保条約反対が影を潜める一方、国際協力のために自衛隊が出動することまで認める改憲構想がリべラルの側からも提起され、各地の反対運動で小林節教授が『護憲派』であるかのごとく重用されている現在の状態は、果たして私たちが積極的に評価し賛同・容認すべきものだろうか。私の最大の違和感の存するところである。」

このミニコミ誌ならではの情報を二つご紹介しておきたい。
まずは、「新編『平成』右派事情」(佐藤恵実)の「OH! 天皇陛下尊崇医師の会会長」の記事。

東京・六本木の形成外科・皮膚科の開業医が、向精神薬を不正に販売したとして,麻薬及び向精神薬取締法違反で逮捕された。厚生労働省の麻薬取締部は、この医師は中国の富裕層向けに違法販売を繰り返したと考えている模様、というそれだけのニュース。その医師は、「天皇陛下尊崇医師の会」会長なのだそうだ。

そんな団体があることも驚きだが、この医師と医院の〈関連団体一覧〉が掲載されている。「とくとご覧あれ」とされている。。

靖國神社を参拝する医師の会会長・社団法人神社本庁協賛医療機関・日本会議協賛医療機関・宮内庁病院連携医療機関・東京都医師政治連盟会員・自由民主党協賛医療機関・大日本愛国医師連合会長・日本国の領土「竹島」「北方領土」を奪還する愛国医師の会会長・一般財団法人日本遺族会協賛医療機関・毎上自衛隊協賛医療機関・天皇陛下尊崇医師の会会長・アジア太平洋地区米国海軍病院所属米国海兵隊軍医トレイニーOB・麻布警友会協賛医療機関・全日本同和会東京都連合会協賛医療機関・創価学会協賛医療機関・同和問題企業連絡会(同企連)協賛医療機関・警察友の会協賛医療機関・公益財団法人警察協会協賛クリニック・日米安会保障条約賛同医療機関・米国海軍病院連携クリニック・註日アメリカ合衆国大使館連携医療機関・日本の領土を守るため行動する議員連盟協賛クリニック・公益財団法人日本国防協会協賛医療機関・六本木愛国医師関東連合会長・六本木愛国医師ネットワーク事務局日本国体学会。

もう一つは、「今月の天皇報道」(中嶋啓明)。「Xデーも近いのに、何ゆえ天皇夫妻はフィリピンまで行くのか」という内容。
「明仁は、8月15日の全国戦没者追悼式で段取りを間違えた。参加者の『黙祷』を待たずに『お言葉』を読み上げたとされている。富山で行われた『全国豊かな海づくり大会』では、式典の舞台上で列席者を手指きしてスケジュールを確認し、式の進行が一時、ストップする場面があったという。いずれも高齢化が引き起こす一時的な軽度の認知障害なのだろうが、『デリケートな問題』だとして、在京の報道機関は報道を見送ったという。確かに東京でその記事を見ることはなく、地元地方紙の『北日本新聞』と『富山新聞』でほんわずか報じられただけだった。
 Xデーも間近と思わせる中、それでもまだ、支配層にとっての明仁の利用価値は高い。明仁は美智子と共に来年早々、高齢で体調不安を抱えながらフィリピンを訪問することが発表された。最高のパフォーマンスの裏に秘められた『真の狙い』とは。
元朝日新聞記者で軍事ジャーナリストの田岡俊次が月刊誌『マスコミ市民』の15年10月号に『国会審議もなく進むフィリピンとの「同盟関係」の危険性』と題して書いている。ここで田岡は『政府が国会にもかけずにフィリピンとの同盟関係に入りつつあるという重大な異変がほとんど報じられない』と嘆くのだ。田岡の論考などによると、日比間の防衛協力は民主党の野田政権下で始まった。2011年9月、当時の首相野田佳彦がフィリピンのアキノ大統領との会談で『両国の海上保安機関、防衛当局の協力強化』を約束。それを引き継いだ現首相安倍音三は13年7月、マニラでのアキノ大統領との会談で小型航洋巡視船10隻をODAにより無償供与することを表明した。そして今年6月には東京での会談後、中国が南シナ海で進める人工島建設に『深刻な懸念を共有する』共同宣言を発表した。日本が供与する巡視船は、政府自身も『武器に当たる』ことを認めており、共同宣言には『安全保障に開する政策の調整』や『共同演習・訓練の拡充を通じ相互運用能力の向上』を図ることが表明されている。災害時の救援を口実に派遣される自衛隊の法的地位についての検討を開始することも盛り込まれ、田岡は、日比関係が限りなく同盟関係に近づきつつあると指摘する。
日本は、中国包囲網を築く上での重要なパートナーの一国として、フィリピンとの軍事的な関係の強化に勤しんでいるのだ。明仁、美智子の訪問計画の裏には、日比間のこうした関係を権威付けたいとの安倍政権の狙いがあることは明らかだ。」

最後に、もう一つ。「歌に刻まれた歴史の痕跡」(菅孝行)が、毎回面白い。
今回は、「ラマルセイエーズ」について、歌詞の殺伐と、集団を団結させる魔力に溢れた名曲とのアンバランスを論じたあと、こう言っている。

「君が代と違っていい曲に聴こえるのは、他所の国の国歌であるために気楽に歌えるからともいえるが、やはり音楽性の質の高さによるものだろう。革命が生んだ国歌は、革命がその質を失い堕落した後でも、困ったことに歌だけは美しい。アメリカ国歌もその例に洩れない。ラフマニノフがピアノ曲にしたという。ダミー・ヘンドリクスがウッドストックで演奏して評判になった。名曲といえば、旧ソ連の国歌も心に染みる名曲である。ただ、こうした曲の〈美しさ〉は、保守的な感性に受け入れやすいということと結びついていることを忘れてはならない。」
「ダサイ国歌『君が代』は大いに問題だが、同時に美しい国歌が『国民』を動員する『高級な』装置であることに警戒を怠るべきでない。『ラ・マルセイエーズ』はナショナリズムだけでなく、『高級で文明的な』有志連合国家の団結も組織した。高級で文明的なものほど野蛮だというのは、軍事力だけの話ではない。動員力のある音楽もまた同じである。そういえば『世界に冠たるドイツ』なんていう歌もあった。」

なるほど、君が代は、ダサイ国歌であるがゆえに、集団を鼓舞し団結させる魔力に乏しいという美点を持っているというわけだ。このような指摘も含めて、「靖国・天皇制問題 情報センター通信」の記事はまことに有益である。
(2015年12月7日・連続第980回)

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2015.12.07より許可を得て転載

http://article9.jp/wordpress/?p=6021

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye3148:151208〕