世界平和七人委がアピール
世界は、天下大乱の様相を呈しつつある。とりわけ、4年ぶりに再登場した米国のトランプ大統領は、就任早々、露骨な自国本意の政策を次々と打ち出し、世界の人びとに衝撃を与えている。そんな情勢に危機感を深めた世界平和アピール七人委員会は2月17日、「新たな国際秩序の方向性を見定めるべきとき」と題するアピールを発表した。
アピールは「大国が世界の平和と国際協調を掘り崩す動きが進んでいる。それにも拘わらず国連の安全保障理事会は、大国の拒否権によって平和のための決議が妨げられたままで、大国の国際法違反を抑えることができないでいる。これは国連自体の危機であり、人類社会の危機とも呼ぶべき状況である。そのなかで、米国のトランプ大統領の再登場によって、さらに困難を深める事態を招きかねないことを深く憂慮する」と切り出し、「国連を軽視し国際的な協調を乱し、大国のエゴイズムをむき出しにする米国大統領のこうした姿勢は、世界の平和をこれまで以上に危うくするものである。これまで米国との友好関係を重視して来た世界の諸国は、それを維持することに困難を感じ、異なる国際政治の方向性を探り始めている」として、「平和憲法を尊んできた日本も、自らの外交の基軸となる理念が何であるかを明示し、米国を重視することに重きを置いてきた姿勢をあらためて見直すべきことは当然である。国連重視は堅持しつつ多元的な国際関係を重視し、大きな変化が求められていることを認めていくべき時である」と訴えている。
世界平和アピール七人委は、1955年、世界連邦建設同盟理事長・下中弥三郎、物理学者・湯川秀樹らにより、人道主義と平和主義に立つ不偏不党の知識人の集まりとして結成され、国際間の紛争は武力で解決してはならない、を原則に日本国憲法の擁護、核兵器廃絶、世界平和実現などを目指して内外に向けアピールを発してきた。今回のアピールは163回目。
現在の委員は大石芳野(写真家)、小沼通二(物理学者)、池内了(宇宙物理学者)、髙村薫(作家)、島薗進(上智大学教授・宗教学)、酒井啓子(千葉大学教授)の6氏。
アピールの全文は次の通り。
新たな国際秩序の方向性を見定めるべきとき
世界平和アピール七人委員会
大国が世界の平和と国際協調を掘り崩す動きが進んでいる。それにも拘わらず国連の安全保障理事会は、大国の拒否権によって平和のための決議が妨げられたままで、大国の国際法違反を抑えることができないでいる。これは国連自体の危機であり、人類社会の危機とも呼ぶべき状況である。そのなかで、米国のトランプ大統領の再登場によって、さらに困難を深める事態を招きかねないことを深く憂慮する。
トランプ大統領は、早くもその就任演説で「米国第一主義」を旗印に掲げ、いくつもの露骨な米国本意の政策を打ち出した。大国のエゴイズム丸出しである。それらは、諸外国に高い輸入関税をかけることを脅迫材料に使って国内産業を保護し、パリ協定から離脱して化石燃料の利用を促進し、WHO(世界保健機関)からの撤退や米国国際開発局(USAID)の閉鎖などである。加えて、グリーンランドの領有やパナマ運河の国有化、そしてガザの住民を追い出して米国の所有地とする、メキシコ湾をアメリカ湾と呼ぶことにするなど、国際秩序を全く無視する傍若無人の構想を進めており、世界の顰蹙(ひんしゅく)を買っている。
国連を軽視し国際的な協調を乱し、大国のエゴイズムをむき出しにする米国大統領のこうした姿勢は、世界の平和をこれまで以上に危うくするものである。これまで米国との友好関係を重視して来た世界の諸国は、それを維持することに困難を感じ、異なる国際政治の方向性を探り始めている。
米国は元来数多くの移民を受け入れ、移民たちとの協力によって大きく発展した国である。そのことを忘れ、「不法」入国者を重罪犯扱いで強制送還に乗り出し、周辺国に高い輸入関税をかけるという脅迫によって厳重な取り締まりを要求している。ガザ侵攻に批判的な考えを示した留学生を国外退去させる政策は、思想・信条・良心の自由といった米国の民主主義の根幹にある価値観を脅かすものである。
日本は国連重視という立場も堅持してきた。ガザ侵攻の停戦を求める国連総会の決議は、米国などごく少数の国々を除く大多数が支持したが、日本もこれに賛成した。平和憲法を尊んできた日本も、自らの外交の基軸となる理念が何であるかを明示し、米国を重視することに重きを置いてきた姿勢をあらためて見直すべきことは当然である。国連重視は堅持しつつ多元的な国際関係を重視し、大きな変化が求められていることを認めていくべき時である。
初出:「リベラル21」2025.02.18より許可を得て転載
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