菅直人に「普天間問題を見直せ」というのは、無意味
このサイトに「菅直人は普天間問題を見直せ」という題の記事が掲載された。この記事を書いた方は、もちろん菅氏には否定的な方だ。しかし、この見出しはやはり奇妙だな、と思っていたところ、The Journalに玉城デニー氏(沖縄選出議員)の「菅政権に普天間問題は1%も期待していない」が掲載された。
http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2010/09/post_653.html
そうだ、菅直人に期待すること自体が無意味なのだ。ジャーナリスト的な言葉のアヤを捨て、ことがらを正しく述べるのなら、「菅政権に…1%も期待していない」という以外、何が言えるだろう。
この判断を裏付けるように、改造内閣では外務大臣には前原が就任した。(岡田は米国には邪魔なのだろうか?)前原はアメリカに異論を唱えることなどありえない人間だ。これは菅内閣によるアメリカへの「恭順」と沖縄の「切り捨て」表明以外のなんだろうか。
菅直人を痛罵する田中秀征
菅自身は、「責任は鳩山にある」と思っているのかもしれない。しかし菅は副総理として、沖縄のために、(鳩山を助けて)どんな努力をしたのか。そして何より、いま総理大臣であるのは菅だ。一国の総理大臣が「自国民」である沖縄の人々の苦難を見て、見ぬふりをするのか。(菅の自分勝手な『希望』とは違い、沖縄はいまだ「日本」なのだ。)
こうした対応は菅直人の人間性に根ざしたものだろう。さいきん田中秀征は痛烈に菅直人を批判しているが、これはその「人となり」を見てしまったひとの発言だ。鳩山由紀夫や細川護煕も同様の想いを抱いていると田中はいう(注1)。じっさい正月には小沢邸の新年会に参じていた菅が、夏には「小沢はダーティ」といって選挙を戦うのだから、世人は――朝日新聞は違うらしいが――「空いた口がふさがらない」だろう。
『仙石・前原内閣』はだれを代表している?
しかし菅にたいする批判はこれで止めよう。この内閣はすでに『仙石・前原内閣』であると言われているのだから。この内閣の実権はすでに米国と官僚(そして米国市場を頼る「財界」)の正規の『代理人』たちに移っている。
この政権の本質は『代理人』であり、つまりは『本人』(米・官・財)の利害が――民主党という名にもかかわらず――絶対的に貫徹する政権ということだ。この点では――小泉以外の――自民党の首相たちはとても敵わないだろう。仮に世間受けを狙った政策が打たれるにしても、常に『本人』の利害が貫徹する。
草野氏が見た「為替介入の深層」
このことを象徴するのが今回の為替介入だ。これについては草野豊己氏の発言を引用しておこう。
<日本が為替介入に踏み切ったが、これは新たな円高トレンドの号砲であり、ヘッジファンドなど世界中のリスクマネーに招待状を送ったものだ。/介入をすれば短期的には円安に振れるが、円高の背景である欧米景気の2番底懸念が変わらない以上トレンドは変わりようがない。/日本政府の間違いは、単独介入であると認めてしまったことと、82円を防衛ラインと教えてしまったことだ。/今回、米国政府は日本の介入を黙認しているようだが、これは日本が介入で得たドルで米国債を買うのを予想しているからだ。/日本が米国債を買うならFRBが買う必要はなくなるかもしれない。ある意味、日本が米国の金融緩和を代替することになる。/日本は介入で円を安くしても、ドル債を買って米金利が低下するならこれは円高要因になる。/日本は介入資金を短期債の発行によって調達するが、この円債を買うのは中国ではないか。中国はすでに米国債の保有を減らしにかかっており、代わりに日本国債を買い始めている。/米国からみれば、中国からの資金流入の減少を日本が介入によって補うことになる。>
http://jp.reuters.com/article/forexNews/idJPnTK044025520100916
「ドル没落」を見据えるべきでは?
ドル下落のスピードについては、予想に幅があるだろうが、ドル体制が「没落」に向かっていること自体は、動かし難いだろう。そして仮にドルが『紙くず』になるのが少しは先であっても、米国は日本が抱え込んだ「米国債」の『償還』に応じるのか?(米国は、「グアム移転経費」に関しても日本に対して更なる『融資』を申し入れているが、そもそも返す気があるのか?)
「それでは、円高にたいしてどうすべきか」といわれるかもしれない。本来ならば(小沢氏が言っていたことと重なるが)、次のような対応が考えられるだろう。まずは円高を活かしての資源などの『実物資産』・『企業』の買いが考えられる。これは現に中国などがやっていることで、「ソヴリンファンド」なども考えられてしかるべきだと思う。さらに長期的にみれば、外需に過度に依存しない経済・(対米依存ではなく)アジアの需要を取り込む経済・内需でそこそこ回っていく経済にしなければならないだろう。
そして「内需でそこそこ回っていく経済」にするためには「平等な社会」の再興、さらに経済の相当に『革命的な』建て直しが必要だと思われる。(円高と同様、「財政赤字」も、経済構造に起因する「経済問題」だから、「消費税増税」などでは解決しない。)
しかしこうした日本経済の根本問題に手をつけることは仙石・前原そして菅たちにはまったく不可能であって、それは彼らが「国民」以外のものの『代理人』である以上、どうしようもないことだ。そして彼らが政権にある限りは、この国の没落も避けられない。
「ジャパン・ハンドラーズ」は前原たちをどうハンドルするか?
もう一つ注意しておくべきことは、――これは田中秀征氏も注意していた点――前原がどのような外交を展開するか、という点だ。特に対中関係は尖閣諸島での中国漁船拿捕問題で微妙となっているが、どう中国に臨むのか。もちろん日本政府として「拿捕は正当だ」ということは当然であろうが、実際に対中関係をどう処理していくのか?
この点は来日中のアーミテージがさっそく防衛予算の「増額」を唆したりしているが、前原などが「ジャパン・ハンドラーズ」の思惑通りの「日本外交?」を展開するようだと、大変な事態になる。(注2)
元外交官(国際情報局長など)の孫崎享氏は、(米国が日本核武装を容認したうえで)「米国による日本と中国(もしくは北朝鮮)との 核の相討ち戦略の危険性が高まっている。/ 米国は冷戦時代から欧州においても、 同盟国と敵国との核の相討ち戦略を秘密裏にとってきた。」(http://honnosense.cocolog-nifty.com/blog/2010/08/post-5750.html
という。少なくともこれが米国のシナリオの一つであり得ることは、忘れるわけにはいかない。
米国の対中姿勢はさいきん対決方向へと微妙に「シフト」しているが、こうしたシナリオに日中両国が乗せられれば、少なくとも日本のほうは滅ぶ。
「対外強硬論」はどの国でも世論の支持を得やすいが、両国が争って、誰が利を得るのか。「漁夫の利」の故事を思い出すべきときではないだろうか。
(注1) 本文で紹介した田中秀征氏の発言はすべてケーブルTV朝日ニュースター「ニュースの深層」(2010年9月18日)でのもの。
(注2) これについては、田中宇氏の日中対立の再燃 (2010年9月17日)も参照していただきたい。
http://tanakanews.com/100917senkaku.htm
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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