岸田政権が12月16日に「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」など安保関連3文書を閣議決定したことに対し、直後から平和団体、労働団体、消費者団体、法曹界、学会などから、抗議・反対声明や閣議決定撤回要求声明が相次いだが、そうした動きは新年になっても続いている。
学会では、日本パグウォッシュ会議が1月4日、「日本パグウォッシュ会議は『安保関連3文書』を憂慮し、平和をめぐる科学者・市民の積極的論議を呼びかけます」と題する声明を発表した。
日本パグウォッシュ会議は、1954年に太平洋で行われた、米国による水爆実験で静岡県の漁船・第五福竜丸の船員やマーシャル諸島の住民らが被ばくした事件を機に、1957年にカナダのパグウォッシュで発足した、核兵器廃絶を目指す世界の科学者の集まりの日本グループ。
科学者・研究者と学生を戦争協力へと動員する態勢へ
声明は、「今回の(政府の)方針は『防衛力の抜本的強化』を正面から掲げ、国際紛争に軍事的に対応しようとする姿勢を鮮明にしていますが、このような姿勢はむしろ緊張を高め、アジアにおける軍拡競争、戦争の危機を招き寄せることにつながりかねません。
国際紛争はあくまで平和的・非軍事的な手法で、対話と外交的手段を尽くすことで解決されるべきです」とし、「他国の領域内を直接攻撃できる『反撃能力『の保持は、日本国憲法に明らかに反しており、従来日本政府が掲げてきた専守防衛の立場からも逸脱しています。
政府は『反撃能力』を持つことで敵の武力攻撃を『抑止』できると説明していますが、常に相手を上回る軍事的能力を手にすることをめざす『抑止論』では、能力が均衡に達することはなく、究極の兵器としての核兵器を正当化する姿勢にもつながる危険性があります」としている。
また、「今回の方針では防衛関係の『研究開発』、『技術力向上』の必要性が強調され、安全保障を支えるために強化すべき国内基盤として『知的基盤の強化』(=「学術界との実践的な連携強化」)が謳われていますが、これは科学者・研究者と学生を戦争協力へと動員する態勢づくりをめざすものと言えます」と述べ、さらに「平和と民主主義を守り、日本とアジアにおける戦争の危険を真に回避するためには、政府の判断のみで拙速な政策決定を行なうのではなく、冷静・客観的な議論を社会全体で行ない、慎重な検討を重ねていく必要があります。『安保関連3文書』に憂慮を表明すると共に、今こそ平和の問題をめぐり、科学者・市民が積極的に議論し、行動していくことを呼びかけます」としている。
今こそ日本国憲法の前文の精神に立って国際平和を訴える時
宗教界では、1月10日、日本YWCAなど28団体が、「安保3文書」閣議決定への抗議文を岸田首相あてに発信した。
これは、日本YWCAが呼びかけ、アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」、定非営利活動法人日本国際ボランティアセンター、平和を実現するキリスト者ネット、日本山妙法寺、平和をつくり出す宗教者ネット、基地のない沖縄をめざす宗教者の集い、認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウなどの他、札幌、横浜、名古屋、京都、大阪、福岡、熊本、長崎など全国各地のYWCAなど27団体が賛同したものだ。
抗議文は次のように述べている
「国としての大きな方向性に関わる重要な意思決定を国会での審議を経ることなく閣議で行うことは、民主主義を根本から否定するものです。権力は一人ひとりの有権者から委託されたものであり、適正な手続きを無視して行使することは許されません」
「軍事力によって平和を実現することは不可能です。今回の閣議決定に盛り込まれている『反撃能力』の明記や防衛費の増大をはじめとした軍事への偏重と軍備の拡大は、国際情勢の不安定化を止めるものではなく、さらに悪化させるものです」
「(強大な暴力を持つ側がそれを行使して恣意的に状況を変えようとしている)状況の中にあってこそ、『平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。…われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。…いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる』(前文)という憲法を持つ日本が率先して、すべての人の命が尊重される世界と国際平和の未来像を訴え、示すことが役割であると考えます」
「今回の閣議決定を撤回し、すべての国会議員・公務員が順守義務を負う憲法に基づいて、国際社会に対する責任を果たすことを求めます」
宗教界では、この他、暮れの20日に、カトリック正義と平和協議会が、「安保3文書の閣議決定に抗議し撤回を求める声明を発表している。
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