公有水面埋立法における埋立承認基準(環境要件など)の解釈を厳格なものに変更して埋立工事前の状態を復元することは、職権による「取消 」という知事の行政行為です。これに対し国は「取消」の取消を求めて提訴し、環境保全や災害防止に十分配慮した適正な埋立であることを法廷で論証しなければなりません。ただしこの取消訴訟は、地裁から始めなければならないため、いきなり高裁に持込める職務執行命令訴訟が選択されるはずです。
職務執行命令訴訟は、法定受託事務 の代執行等を定めた地方自治法第245条の8に基づくものです。政府(主務大臣)は県の「取消」が「著しく公益を害する」と判断し是正を勧告・指示しますが、県が従わない場合、職務執行(つまり再承認)を命令する判決を求めて高裁に提訴するわけです。これに対し高裁が「各大臣の請求に理由があると認めるときは」、知事に対し「当該事項を行うべきことを命ずる旨の裁判(=判決)をしなければならない」 。これは政府判断の優越性を前提とし、しかも司法の独立を侵す“悪法”です。
新知事は、辺野古・大浦湾の埋立が自然生態系や生物多様性を損ない、県民固有の文化享有権が侵害されるなど「著しく公益を害する」ことを示し、「公益」のためにこそ「取消」が必要と主張することになります。県が生活と環境を最優先の「公益」とするのに対し、国は新たな軍事基地が日米両国だけでなく、東アジアや世界の平和のための「公益」というでしょう。
そこで新知事は、県民はもとより世界中の人々がイデオロギーを超えて納得できるように、損なわれる「公益」の実態と憲法や国連憲章をはじめとする諸法規を、普遍性をもった根拠として活用することになります。しかし、“悪法”のカベを法廷で打破することは容易でなく、「オール沖縄」をも超える叡智の大結集が必要といわなければなりません。(文責:河野道夫―読谷村)
国際法市民研究会
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埋立承認の効力否認のように“過去”に遡って効力を失わせ、当初状態を復元する場合は「取消」。法令違反を理由とした業者の営業許可の効力否認のように “将来”に向かって効力を失わせる場合は「撤回」。一般社会では、厳密に区別されていません。
いわゆる地方分権改革としての1999年地方自治法改正によるもので、旧機関委任事務。
地方自治法第245条の8第6項。さすがに最高裁判例は、「裁判所が国の指揮命令の内容の適否を実質的に審査する」との立場(1960年6月17日砂川事件職務執行命令訴訟)。
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