日曜日の2月3日、東京の明治大学駿河台キャンパスの教室の席を埋めた50 人ほどの集会があった。昨年10月1日から3日までスペインのビルバオ市で開かれた、GSEF(グローバル社会的連帯経済フォーラム)主催のビルバオ大会に日本から参加した人たちによる報告会だった。大会は「社会的連帯経済」を世界的に推進しようという狙いで開かれたものだが、「社会的連帯経済」という言葉は日本ではまだなじみが薄い。関係者によれば、それには、今や世界的に行き詰まった資本主義経済を変革しようという壮大な狙いが込められているという。
報告会を主催したのは、社会的連帯経済の意義を広く伝えようと活動している「ソウル宣言の会」。その代表の若森資朗氏(元パルシステム生活協同組合連合会理事長)は同会が編集した冊子『「社会的経済」って何?』(社会評論社)の中で、こう述べている。
「1991年ソ連の崩壊により米ソ2大国を盟主とする東西冷戦が終焉し、その結果世界の警察権力を自認するに至った米国の経済力と軍事力を背景とした力の政治による他国をまきこんだ、暴力をも厭わない地域紛争への介入が常態化しています。そしてそのことと一体化した新自由主義を標榜するグローバル企業が、なりふり構わず利潤追求に血眼になり、倫理感を欠いた振る舞いで世界を闊歩していることに、現状批判の原因を求めることができます。その結果、世界中の至る所で貧富の差が拡大し、一握りの富裕層が富を独占し、貧困層が増加し、中間層にあってはいつ下層に転落するがわからない不安にかられ、そのことが排外主義や差別(ヘイトスピーチやレイシズム)の増加につながっているともいえます」
「一方、資本のグルーバル化に対抗する、市民側からのグローバルな連携・連帯の実践も動き出しました。2013年ソウル市において、世界から8つの地方自治体、10の団体、そして個人の参加による『グローバル社会的連帯経済フォーラム』が開催されました。そこにおいて社会的連帯経済の定着と発展に取り組む『ソウル宣言』が採択されました。それは市民の参画と決定による、利潤追求を目的としない生活者ニーズを満たす財やサービスの提供、それはコミュニティーを大切にし、金銭価値に置き換えられない価値を大切にする提案です」
社会的連帯経済の定着と発展を目指す運動が起こってきたことは理解できる。が、社会的連帯経済とは何なのか、具体的なイメージがわき上がってこない。そう感じて、さらに冊子を読み進むと、ソウル宣言の会事務局員の牧梶郎氏の記述に出合った。そこには、こうあった。
「営利を目的とせずに、相互扶助や協働をベースとし、人間の関係性や自然との共生を大事にして行われる経済活動一般です。各種の協同組合や共済組合および信用組合、社会的企業、障がい者やその他少数弱者の支援事業を行うNPO/NGOなどがこれら活動の担い手ですが、フェアトレード、リサイクル・ショップ、食品の安全や地産地消などの活動も含まれます」
2013年に韓国のソウル市で創設された「グローバル社会的連帯経済フォーラム」は、いわば国際会議体だ。それ以降、2014年にソウル市、2016年にカナダのモントリオールでそれぞれ大会を開いてきた。ビルバオ大会は第4回にあたる。ソウル宣言の会の丸山茂樹氏によれば、次回は2020年にメキシコシティで開かれるという。
ソウル宣言の会が事前に発表した「報告会のご案内」によると、ビルバオ大会には84カ国から1700人が参加した。世界のGSEF会員の他、ILO(国際労働機関)や国連社会的経済研究所(ジュネーブ)などの国連機関、RIPESS(社会的連帯経済促進のための大陸間ネットワーク)などの国際NGO、ソウル市、ニーヨーク市など自治体からの参加があったという。日本からは44人。生協、ワーカーズコープ(労働者協同組合)、労組の関係者、学者・研究者らだった。「ご案内」は、同大会について「(社会的連帯経済が)世界では着実に広がり、関心が寄せられていることを実感しました」としている。
報告会では、ビルバオ大会日本実行委員会団長を務めた柳澤敏勝・明治大学商学部教授が基調報告をしたが、そのなかで、「ビルバオ大会の特徴は、GSEFがSDGSとの連携を始めたということだ」と述べたことが印象に残った。
SDGSとは、2015年の国連総会で採択された「私たちの世界を変える持続可能な開発のための2030アジェンダ」と題する決議である。それによれば、国連として、2030年までに「貧困の撲滅」「食料の安全保障」「健康的な生活の確保」「ジェンダー平等」「持続可能な近代的エネルギー」「持続可能な経済成長・人間らしい労働」「不平等の是正」「持続可能な生産消費」「気候変動対策」「平和で包摂的な社会の促進」など17の目標を達成しようという決議である。
柳沢教授によれば、このSDGSが目指す目標とGSEFが目指すものには重なるものが多いという。したがって、SDGSの運動とGSEFの活動が連動する可能性があるという。
基調報告の後、ビルバオ大会に参加した青竹豊・日本協同組合連携機構〈JCA〉常務理事、木村庸子・生活クラブ生活協同組合(千葉)理事長、相良孝雄・協同総合研究所事務局長、鈴木岳・生協総合研究所研究員の4氏によるパネルディスカッションがあった。
日本の社会的連帯経済運動の課題と方向性や、日本の運動で足りない点などが話し合われたが、まず、日本では、社会的連帯経済に対する認知度が低い点が指摘された。どうすればその意義を一般に広めてゆくことができるか。パネリストからは「まず、社会的連帯経済の実践例を示すことだ」との発言があったほか、青竹氏からは「昨年4月に発足したJCAには、我が国のほとんどの協同組合連合会が加盟しているので、これらの組織を通じて社会的連帯経済の意義を広め、関心を高めたい」との発言があった。
日本で足りない点として指摘されたことの一つは、社会的連帯経済運動に自治体からの参加が極めて乏しいこと。ビルバオ大会でも、日本の自治体からの参加はなかった。
モントリオール大会で採択された宣言も「人類が直面している課題は、一国のみで解決できるものではない。都市、町および地域自治体の寄与もまた欠かすことができないと」、社会的連帯経済運動と自治体との連携の必要性を強調している。それだけに、若森氏も報告会で配布された資料の中で「(ビルバオ大会に日本の自治体から参加がなかったことは)今後の取り組みに大きな課題を残した」と述べている。自治体にどう働きかけてゆくかが問われそうだ。
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