日本共産党の得票と議席の後退の最大の原因は、自力の不足ではなく政党イメージの悪化と政党支持率の低下にある、田村委員長就任1年を顧みて、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その48)

著者: 広原盛明 : 都市計画・まちづくり研究者
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日本共産党の田村智子委員長が女性初の党首に就任してから、今年1月18日で1年を迎えた。朝日新聞(1月19日)の大型記事は、「ソフト路線 タムトモ共産党は再興なるか」との見出しで、田村委員長の就任1年を振り返っている。小見出しは「志位氏と差別化」「衆院選で苦戦 野党共闘は曲がり角」「深刻な組織弱体」というもの。田村委員長は「タムトモ・カラー」を打ち出そうとして、情報発信でも「脱志位」とも言える取り組みに着手し、党のイメージ刷新に力を注いでいるが、衆院選では苦戦し、しかも組織の弱体は深刻で、もがく日々が続いているというものだ。ここでは、田村委員長が共産党のイメージチエンジを試みようとしているものの、志位体制から脱却できず、党組織と党活動が依然として後退を続けている状態が、以下のように指摘されている。

(1)党首として臨んだ初めての衆院選は、「共闘」の相手だった立憲民主党と政策上の違いから213選挙区で候補者を擁立したが、結果は公示前から2減の8議席、比例票は前回衆院選から2割減の約336万票にとどまった。そんな共産に取って代わり、存在感を示したのが3倍の9議席になったれいわ新選組だ。共産とれいわは、政府・与党と強く対峙する姿勢や消費税の廃止・減税など政策の共通点も多く、支持層が重なる。党関係者からは「れいわに票が流れた」と落胆の声が漏れた。

(2)志位氏が打ち立てた「野党共闘」の路線も曲がり角にきている。立憲は昨年9月に「穏健保守」を標榜する野田佳彦氏が代表に就き、政策や選挙協力のあり方で温度差が広がった。維新や国民民主党はもともと政策面で距離があり、時には批判し合う関係でもあるため、共産は選挙で孤独な戦いを強いられている。

(3)組織の弱体化は深刻だ。党員は昨年1月時点25万人で、機関紙赤旗読者は85万人。2010年からそれぞれ15万6千人、60万4千人の大幅減だ。赤旗の赤字は年間10億円を超すとされ、募金による穴埋めを探る事態に陥っている。

毎日新聞も、昨年12月に2回にわたって共産党の大型記事を掲載している。12月9日夕刊「特集ワイド」は、23年ぶりに党首交代した志位議長へのインタビュー記事。12月18日夕刊「特集ワイド」は、「赤旗は絶好調なのに共産党が伸びない理由」「異論許さぬ閉鎖性」に関する解説記事である。だが、この2つの大型記事の間には大きな落差がある。私の推測によれば、毎日新聞の編集意図は、第1回目は志位議長に好きなことを喋らせ、第2回目はその発言とはウラハラの共産党の旧態依然とした実態を明らかにすることにあったのではないか、というものである。

【第1回目】
――先の衆院選で共産党は、10議席から8議席に減りましたよね?
「国民が自公政治を終わりにする意思を示したのは明らかですが、まだそれに代わる政治のイメージが浮かんでいない。今は新しい政治のプロセスがスタートした、いわばはじまりの一断面です。確かに共産党が伸びなかったのは残念。でも、政党間の力関係が固定化したわけではありません」。

――ここ30年の衆院選で共産党は2度躍進した。最初は1996年、15議席から26議席へ激増させた。2度目は2014年、8議席から21議席へ勢いを増した。ところが、今回の選挙では、共産党に取って代わるように国民民主党、れいわ新選組が躍進。共産党の飛躍は、政界迷走による一時的な「雨宿り」現象に過ぎないのでは?
「今度の選挙で議席を増やした政党も、投票した有権者が必ずしも政策の全てを支持したわけではない。やはり、雨宿りの性格がある。今は新しい政治が始まる第一歩。自民党に近づくのか、新しい政治を進めるのか。各党の真価が問われる局面です。もちろん共産党もですが」。

――先の衆院選では、有権者の雨宿りの軒先が共産党から他の政党へ移った感があるが、志位さんは最後まで気炎万丈といった様子。2時間近い取材の終わりに、こう言い切った。
「私たちの戦いは資本主義との戦いです。それが人類最後に到達した理想の体制だとは思っていないのです。その時々の資本主義の歪みと戦ってきたからこそ共産党は102年続いている。搾取のない自由な社会が我々理想。資本主義が行き過ぎた今、我々の出番です」。

【第2回目】
――今回の衆議院議員選挙で、共産党は公示前の10議席から8議席に後退した。派閥の裏金問題など、自民党が大幅に議席を減らす大きな要因を党機関紙赤旗が報じて存在感を示したが、比例得票数も減らした。なぜか。専門家や元党職員は「党の閉鎖性に問題がある」と口をそろえる。

――「日本共産党―『革命』を夢見た100年」の著書もある中北浩爾中央大学教授(政治学)は、党員の高齢化による組織の弱体化など複数の要因があると前置きしつつ、「注目すべきは、れいわ新選組が躍進し、共産党の議席を追い抜いたことです。両党には政策面の類似性があり、いずれも急進左派と位置付けられますが、組織のあり方は対照的です」と分析する。「欧州の急進左派の主流は、現在、民主的社会主義政党となっています。ポピュリズムの政治手法をとって反緊縮を訴え、移民をはじめ多様な人々を動員しました。れいわ新選組も同じく反緊縮をスローガンとしつつ、障害者を候補者に立てて演説会に幅広い層が集まり、対話する。これに対して、共産党は民主集中制を原則とし、画一的で閉鎖的な組織になっています」。

――元共産党職員の松竹伸幸氏は、党首公選制などの党改革を主張した著書を刊行して「規約違反」で除名された。松竹氏の処分見直しを求めた神谷貴行氏も続いて除籍された。松竹氏は今回の選挙結果を「共産党は今回の結果をふまえ、組織のあり方を考え直すべきだ」と言い、神谷氏は「忌避される要素があって選挙で審判が下った。だが、原因については誰も言及せず、タブー視している印象を受ける」と述べている。

――中北教授は共産党の体制にも問題があるとして、副委員長の浜野忠夫氏が90歳を越え、志位氏が23年にわたり党委員長を務めたことを「同じく人物が長期間にわたって重要ポストにいれば、変革を起こすことは難しい。執行部の改革を進めなければ、党勢はさらに縮小の一途をたどる」と指摘する。

この2つの記事を読めば、今回の選挙結果に対する2つの対照的な見解が示されていることがわかる。1つは党内の「革命的楽天主義」ともいえる従来からの見解であり、志位議長が今回の選挙結果を有権者がその時々の気分で各政党に投票する「雨宿り」現象にすぎないと見ていること、資本主義と戦う共産党にはいずれ支持者が戻ってくると確信していることが披露されている。

もう1つは党外からの見方で、共産党の指導部ポストが長期間にわたって同一人物によって占められていること、党内外での自由な議論を禁止する「民主集中制」の規約によって党活動の勢いがなくなり、有権者の目には「画一的で閉鎖的な組織」だと映っていることが指摘されている。田村委員長は、多少なりとも党外からの目を意識して、共産党のイメージを刷新しなければならないと思っているのであろうが、志位議長が盤石の重みで従来からの体制を堅持しているので、それが結果として現れないジレンマに直面しているということだろう。

選挙結果に対する党の見解は、4中総の選挙総括にも典型的にあらわれている。それは選挙ごとに繰り返される「日本共産党の得票と議席の後退の最大の原因は、自力の不足にある」という総活である。「自力の不足」が最大の原因なので、選挙に勝利するには「強く大きな党づくり」を実現しなければならないことになり、党勢拡大が最大の目標になる。かくして実力以上の拡大目標が設定され、期限ごとにその進捗状況が点検され、絶えずハッパがかけられることになる。

だが、私がここで言いたいことは、共産党が選挙で後退を繰り返しているのは、「自力の不足」が最大の原因ではなくて、有権者の目に映っている共産党のイメージが決定的に悪化していること、その結果、党支持率が底辺まで低下していることが「最大の原因」だということである。一連の党員の除名騒動によって共産党のイメージは「閉鎖的で抑圧的」との印象が一挙に強まり、それが政党支持率の低下にも大きな影響を与えているのである。

加えて、23年の長期間にわたって委員長ポストにあった志位氏が、委員長交代後もなお議長ポストに居座り続け、党を代表して数々の見解を表明するとか、外国訪問を繰り返すとか、党首交代の刷新感がいっこうに感じられないことも大きな原因になっている。不破前議長が90歳を越えるまで党指導部の地位にあったこと、浜野副委員長が90歳を越えてもまだ現役であることなども、共産党が新陳代謝できない硬直的組織であるとの印象を強めている。

直近の各社世論調査によれば、共産党の支持率は、朝日新聞3%、毎日新聞2%、読売新聞2%、時事通信社1.4%などと極めて低い水準で推移している。朝日新聞は参院選比例区の投票政党についても尋ねているが、これも支持率と同じ3%となっている。共産党の参院選比例得票数目標は「650万票、10%以上」だが、世論調査からするとその半分(5%)も危ういと言わなければならない。

志位氏は、委員長当時から選挙に負けても「政策は正しかった」との理屈で政治責任を取らず、現在まで指導部に居座り続けてきた。しかし、政策の是非にかかわらず共産党が選挙で後退し続けていることは、選挙の勝敗は「政党イメージ」に大きく左右されることを示している。政党イメージが党首のイメージで決まることを思えば、志位議長の存在そのものが選挙で負ける大きな原因になっているのである。今からでも遅くない。参院選前に民主集中制の規約を廃棄し、党首公選制を実施することが、共産党の「未來」を切り開く第一歩になると思うがどうだろうか。(つづく)

初出:「リベラル21」2025.01.25より許可を得て転載
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