封切りの「プラハの春」には「不屈のラジオ報道」との副題がついているが、原題は英語で言えば「Waves」とずいぶんとあっさりしたものだが、むしろ深いものが感じられる。洋画の邦題は、概して、力が入り過ぎたり、あまりにも情緒的であったりする場合が多い。それはともかく。

映画「プラハの春」は、チェコとスロバキアの合作の2024年の新作である。ソ連の共産主義支配下で市民の自由は多くを奪われる中、学生運動から始まる反体制運動は国中に広まり、大統領はノヴォトニーからドウプチェクに替わり、改革路線が進み、言論の自由、報道の自由も認められるようになった。市民たちは、いわゆる「プラハの春」の訪れを喜んでいた。
しかし、国営ラジオ局へのモスクワからの圧力は強まり、虚偽のニュースの放送を迫られるが、國際情報部のスタッフたちは、部長ヴァイナーのもと、真実を伝えるべく、日夜奮闘し、抵抗をする。中央通信局のどちらかといえばノンポリの技術者だった主人公は、人事異動と称して、國際情報部に転任させられ、学生運動をしている弟を人質のようにして、情報提供、スパイを命じられる。ベテランの女性スタッフ、ヴェラと仕事をする中で、ソ連の統制の強化されるにつれて報道という仕事に目覚めるが、スパイであることに良心の呵責を感じ、その葛藤に悩む。
1968年8月20日、ソ連軍はワルシャワ機構軍と共に、突如、チェコスロバキアに侵攻、プラハの街は戦車と銃の脅威に包まれ、各所で抵抗する市民たちの犠牲も出た。そしてラジオ局もソ連軍に破壊され、真実の報道は断たれたかに思われたが、国際報道部のスタッフは、散り散りになりながら、各所をつなぎながら、主人公もその通信技術を発揮して、軍事秘密基地などからの放送を続ける。しかし、ソ連軍の武力には勝てず、鎮圧され、隣国に亡命する人々が多い中、主人公と隣国に亡命をしていたはずの弟もプラハにとどまることを決意するところで終わる。
主人公と弟はフィクションながら、登場人物の多くは、実在の人物を配し、事実に基づくストーリーである。国際情報部のヴァイナーは、1969年、病に倒れる。ヴェラは、1949年、国営ラジオに入社、ヨーロッパ、アフリカなどに赴任、アルジェリアから帰国後「プラハの春」に立ち会い、反ソ、不屈の報道に参加しているが、その後は放送に携わることなく、夫と共に翻訳者となり、2015年に亡くなっている。

チラシの一部
どんな時代にあっても、言論統制が強まる中、さまざまな選択を迫られることは多い。そんな中で、ごく普通の市民たちの微妙な葛藤を想起させ、どうあるべきかを問う映画であったと思う。そして、さらに報道機関に働く人々への問いかけは重い。NHKの職員に、ぜひ見てもらいたいものである。
初出:「内野光子のブログ」2025.12.15より許可を得て転載
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2025/12/post-1aa3f1.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion14569:251216〕











