昨今の原発関連の雑誌情報から(原発と暴力団,翻弄される東海村,トリチウム汚染水)

著者: 田中一郎 たなかいちろう : 原子力資料情報室会員
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<別添PDFファイル>

(1)日本のサンクチュアリ:暴力団を甦らせた「フクシマ」(『選択 2013.

6』)

(2)福島第1原発のトリチウム汚染水(上澤千尋(原子力資料情報室スタッフ)

『科学 2013.5』)

(3)翻弄され続ける東海村・こんな組織必要なのか(『アエラ 2013.6.10』)

昨今の原発・原子力・放射能汚染関連の雑誌情報から必読と思われるものを3つご

紹介いたします。

1.日本のサンクチュアリ:暴力団を甦らせた「フクシマ」(『選択 2013.

6』)

原発と暴力団との関係については,1冊の本になるくらい,以前から何度も何度も

話題になり,問題視されてきました。この記事は,昨今の国や自治体などの暴力団対

策で経済的に厳しい状況に追い込まれてきた広域暴力団が,東日本大震災に伴う東北

の震災復興や,福島第1原発事故に伴う事故後処理(除染・廃棄物処分・原発内作業

等)で,投入される巨額の金額の国費を吸い上げることによって大きく潤っているこ

とを伝えています。

真偽のほどは確認できていませんが,記事の内容はまことにショッキングであり,

書かれていることが本当なら,国や東京電力などの対応や施策,あるいは多くの事業

を元請けしている大手ゼネコンなどの仕事の仕方を含め,災害復旧・復興や原発事故

処理のあり方が大いに問題であることを意味しています。

<ほんの一部を抜粋しますと>

「福島県内の産廃事業は震災発生以降、がれき処理とともに増大している。さらに放

射能汚染された地域を中心として不法投棄が増大していることも確認されている。こ

れは暴力団の「十八番」とするところであるが、「警察は忙しくて監視できていな

い」(福島の地元紙記者)のが実情だ。また、「需要の多いダンプカーのレンタルも収

入源」(前出関係者)となっている。」

「環境省が行っている除染は今年度予算だけで六千九十五億円、これまでの分も合わ

せて一兆五千億円を超えるカネが投入される巨大公共事業。各自治体が事業者を選定

するが、ほぼすべてが大手ゼネコンから下請けに回されており、監視の目は届かな

い。」

「除染事業の三次下請けに一日三十人を手配している山形の三次団体関係者は「一人

当たり一万六千円のうち三割を抜いている」と打ち明ける。違法派遣は特に営業活動

も必要なく、捕まった場合の罰則も緩い。「何もしなくても月に五百万近くが転がり

込むおいしい副業」(同関係者)とほくそ笑む。」

「こうした暴力団介入の最大の原因は、原発の現場で歴史的に行われてきた多重下請

けにある。政府は原発事故処理や除染について、二次以上の下請けを禁止しているが

有名無実化している。」

「しかし、除染事業の根本的な必要性と効果は不明だ。また原発収束作業について

も、野放図に汚染水を増やす現在の方式に、原発専門家から疑問符がついていること

はあまり知られていない。無駄な事業を「公金」で行い、それで暴力団が肥え太るの

は許されない。」

2.福島第1原発のトリチウム汚染水(上澤千尋(原子力資料情報室スタッフ)『科

学 2013.5』)

ご承知のように,東京電力は福島第1原発敷地内で毎日大量に発生する放射能汚染

水に手を焼いており,敷地内にそれをためておくタンクの増設もそろそろ限界にきて

いる様相を呈し始めている。事態を打開すると称して,その猛烈な放射能汚染水を,

アルプスという浄化装置を使って,放射性物質のかなりの部分を取り除いた上で,海

に投げ捨てようとしている。しかし,そのアルプスとかいう装置については,そもそ

もその浄化能力がどこまでかが疑わしいことに加え,トリチウム(三重水素)と言

う,水の形で存在するベータ線を出す放射性物質を取除くことはできず,危険な放射

能を環境にばら撒いてしまうことになるのである。

ネットやマスコミ情報では,トリチウムの出すベータ線のエネルギーが,他の核種

の放射線に比べて小さいこと(最大18.6keV,平均5.7keV:細胞など人間の体

をつくる分子の結合エネルギーはその1/50~1/100以下だから,これでも決して小

さなエネルギーの値とは言えない)だけを理由に,トリチウムは弱い放射線を出す放

射性物質で心配いらない,などといった軽率極まる解説が氾濫している。しかし,ほ

んとうのところはどうなのか。そもそもトリチウムを含め,ベータ核種の生物や人間

の体内での挙動の詳細は,その健康への悪影響については,はっきりとしたところは

わかっていないのではないか。

このレポートはそのへんのところを平易に解説したもので,カナダの重水を用いる

原子炉=CANDU炉のトリチウム排出と,その結果の周辺地域に住む子ども達の健

康被害増大のレポート(ダウン症,新生児死亡率,小児白血病の各増加)などを紹介

しつつ,その危険性にアラームを鳴らしている。詳細・完璧な教科書的レポートでは

ないが,トリチウム軽視の危険性だけは読み取れる。

トリチウムの排出規制基準値は,水であれば1cm3あたり60ベクレルとされてい

る。有機物の形態なら,その半分の30ベクレル/cm3,水以外の化合物なら40ベク

レル/cm3だという。いずれもcm3当たりの数字であるのが「みそ」で,これをm

3単位に換算する時は,100cm×100cm×100cm=1百万倍する必要が出てくる。

60ベクレル/cm3ならば,60,000,000ベクレル/m3であり,これに従えば,猛烈な

量のトリチウムが海や河川などへ排出されてもよいとされている。私は直感的に,こ

の規制値の数字は「大き過ぎる」=「甘すぎる」と感じており,もしこの規制値でい

いというのであれば,その経験科学的な実証エビデンスを詳細に示してほしいと思っ

ている。

ベータ線は,外部被曝の場合はほとんど問題にならないが,ひとたび放射性物質が

体内に入って内部被曝をもたらす場合には,γ線のように体を突き抜けて出て行って

しまうことはなく,体の中でそのエネルギーを全部使ってしまうというところに危険

性の高さがある。現在の政府やICRP勧告のように,放射線の相対的な危険性を示

す「放射線荷重係数」が,γ線もベータ線も,ともに「1」で同じ程度であるという

のは,その実態から推測しても理不尽・不合理な話のように聞こえる。実際はもっと

もっと(健康への悪影響が)大きいに違いない。

大量の汚染水を軽々に海に垂れ流して平然としている原子力ムラ・東京電力・政府

を前にしてだが,今後は,トリチウムを含む,ストロンチウムその他のベータ核種に

よる内部被曝の危険性を強く意識していく必要があるものと思われる(加えて,プル

トニウムやウランなどのα核種にも要警戒)。そして,海を汚すことなく,慎重にも

慎重を重ねて,人間重視・自然環境重視の汚染水対策が望まれている。

このレポートは,著者の上澤氏の所属する原子力資料情報室らしい,タイムリーで

平易に書かれた,よりよき解説レポートですので,是非ご一読を。

*毎日新聞 福島原発の汚染水 東電、海へ放出検討 新浄化装置導入機に トリチ

ウム除去できず 2013年3月6日朝刊  トリチウム  内部被ばくを考える市民研究会

http://www.radiationexposuresociety.com/archives/2611

3.翻弄され続ける東海村・こんな組織必要なのか(『アエラ 2013.6.10』)

このたび事故を起こして放射能を施設の外へ軽率極まりない形で放出してしまった

茨城県東海村の原子核素粒子実験施設「J-PARC」,実はこれを直接管理・運営

しているのは,(独)日本原子力研究開発機構ではなく,高エネルギー加速器研究機

構(高エネ研)だった。

このアエラ掲載の記事は,今回の事故の実相レポートから始まって,原子力推進の

政治力に包囲され,しかも,その原子力推進の絶えることなき出鱈目の連続に翻弄さ

れ続ける東海村について書かれた興味深いものである。現在の原子力「寄生」委員会

委員長・田中俊一氏にも連なっていく人脈の下で,東海村は現在の原発推進に代わる

原子力推進の柱に,=村振興の中心施設の一つに,この「J-PARC」を位置づけ

ていた。それが今回,内容的にも非常にタチの悪い事故を起こしてしまった。

高速増殖炉「もんじゅ」や核融合など,およそ原子力が進めるプロジェクトにまと

もなものはない。今回事故を起こした「J-PARC」をはじめ,いわゆる加速器と

言われるものは全国に散在しており,何も東海村だけに特有の特殊施設ではない。そ

れがこうした事故を起こしたことに,関係者のショックは尽きせぬものがある。

<以下,記事のほんの一部の抜粋>

「今回事故を起こしたのは原研ではなく、高エネ研の施設だ。幅広く原子力を扱う原

研に比べ、高エネ研は事故を起こした加速器のみを扱う。」

「J-PARC」関係者は言う。「原研に比べ高エネ研は放射性物質の漏洩などにつ

いて考えが甘く、文化が違うと言われている。なのに事故の通報は、原研の原子力科

学研究所がすることになっている。今回、双方の意思疎通がうまくいっていないこと

が露呈した格好です」」

「J-PARCでは、火災や放射性物質漏れなどが起きた際、ただちに自治体などに

通報する取り決めである「安全協定」は原研とのみ結ばれている。原研と高エネ研の

共同運営施設であるにもかかわらず、である。」

「そもそもこの施設は、放射性物質の漏洩の可能性すら考慮されていなかった。その

ため排気ファンにも漏出を抑えるフィルターはついていなかった。原子力規制委員会

は許認可の過程を検証する方針を明らかにしている」

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上記を少し読んだだけでも,そのおかしさは十分に伝わってくる。事故当時,「村

内の六つの小学校は、翌々日の運動会に向けた練習をしているところだった」とのこ

とだから,こういう場所で放射能を施設外に何の配慮も心配も懸念もせずに放出して

しまう職員達の神経が信じられない。これは,単純な再発防止対策などでは許されな

いことである。

この高エネ研を含む不祥事続きの(独)日本原子力研究開発機構の実態を,この

際,第三者を通じて徹底的に監査し,地域住民や国民に明らかにしていく必要がある

のではないか。そして,将来性に乏しい,危険だけがバカでかくて得るものの乏し

い,嘘八百と利権と隠蔽にまみれて,巨額の「金食い虫」である原子力=核利用に関

する研究はもうやめたらどうだろうか。明日がある,明日があると言い続けてきて,

やってきた「明日」が,かようなお粗末極まりない放射能汚染を地域にもたらすもの

にすぎなかったというのは,あまりに情けない話である。

原子力=核エネルギー利用に明日はない。これは21世紀の常識となりつつある。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion1319:130606〕