普天間移設問題に挑む沖縄の2紙に大賞 -第20回平和・協同ジャーナリスト基金賞決まる-

 反核・平和、協同・連帯、人権擁護等を推進するための報道に寄与したジャーナリストを顕彰する活動を続けている平和・協同ジャーナリスト基金(代表委員、慶應義塾大学名誉教授・白井厚、ジャーナリスト・田畑光永の各氏ら)は12月3日 、今年度の第20回平和・協同ジャーナリスト基金賞の受賞者・受賞作品を発表した。
 基金運営委員会によると、基金賞の選考は、金澤敏子(元北日本放送ディレクター)、鎌倉悦男(プロデューサー・ディレクター)、佐藤博昭(日本大学芸術学部映画学科講師)、清水浩之(映画祭コーディネーター)、高原孝生(明治学院大学教授)、前田哲男(軍事ジャーナリスト)、森田邦彦(翻訳家)の7氏によって行われ、候補作品106点(活字部門43点、映像部門63点)の中から次の8点を授賞作に選んだ。

◆基金賞=大賞(2点)

  ★沖縄タイムス社の「辺野古新基地建設強行をめぐる一連の報道」
 
  ★琉球新報社の連載「日米廻り舞台――検証フテンマ」   

◆奨励賞(5点)
 
 ★朝日新聞特別報道部の「原発利権を追う」(朝日新聞出版)
 
 ★明日の自由を守る若手弁護士の会の活動(「これでわかった! 超訳 特定秘密   保護法」<岩波書店>の出版と憲法カフェ)
 
 ★新聞うずみ火編集部(大阪市)の「新聞うずみ火」   
 
 ★株式会社大風が企画・制作した原子力に関する記録映画「無知の知」(石田朝也監督)
 
 ★毎日放送報道局の「見えない基地~京丹後・米軍レーダー計画を追う~」

◆荒井なみ子賞(1点)

 フリーライター、金井奈津子さん(長野県松本市)の「憲法をお茶の間に 中馬清福さんに聞く」(松本平タウン情報)

 候補作品は推薦・応募合わせて106点で、前年の74点を大きく上回り、過去最多となった。運営委員会によると、活字部門、映像部門とも、今日の政治・社会情勢を反映して憲法改定、集団的自衛権、特定秘密保護法、原発といった問題を論じたものが多く、しかも力作が目立った。が、これらの作品をすべて入賞とするわけにもゆかず、すでに他の顕彰制度で入賞された作品には授賞を見送った。
 それから、今年は集団で仕上げたという労作が目立ったという。

 ■大賞にあたる基金賞は、沖縄の2社(沖縄タイムス社、琉球新報社)のダブル受賞となった。複数の大賞贈呈は第1回、第10回、第11回に次いで4回目という。
 タイムスの『辺野古新基地建設強行をめぐる一連の報道』も新報の連載『日米廻り舞台――検証フテンマ』も、安倍政権が進めている、宜野湾市の米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に焦点をあてた記事。前者が辺野古における住民たちの反対運動に密着した記事であるのに対し、後者はこの移設をめぐる日米両政府のこれまでの動きを歴史的、総合的に検証したもの。選考委員会では、「どちらも、移設問題を理解する上で大いに役立つ」との声が多かった。
 両紙の紙面に関しては「沖縄の民意を反映していない」との声が一部にある。しかし、選考委では「これらの記事を読むと、両紙の報道が民意を反映したものであることがわかる」との意見があった。選考委では、どちらも力作で甲乙つけがたい、ということになり、結局、どちらも大賞に、となったという。それに、沖縄に「本土のマスメディアは沖縄に冷たい」との声があるところから、本土の市民団体としてこの際、ジャーナリズム精神を発揮している沖縄ジャーナリズムに敬意を表そうという声も出て、両社のダブル受賞が決まったという。

 ■奨励賞には5点が選ばれた。活字部門で3点、映像部門で2点という内訳だ。
 運営委員会によると、今年も活字部門、映像部門とも原発問題を扱った作品が多く、メディアの世界では、原発問題への関心がなお高いことがうかがわれた。その中で「これぞだんトツ」として選ばれたのが朝日新聞特別報道部の『原発利権を追う』だった。記者たちが、原発関連施設の立地に絡む裏資金や政官電の癒着構造を10年以上かけて追求してきた記録で、新聞連載に加筆したもので、選考委では「とくに関西電力の政治献金について元副社長の証言を引き出した点は高く評価されてよく、調査報道の威力をいかんなく発揮した傑作」と絶賛された。
「明日の自由を守る若手弁護士の会の活動」では、『これでわかった! 超訳 特定秘密保護法』の出版が、特定秘密保護法の危険な内容を広く伝える格好の手段となるのでは、と高く評価さた。選考委では「難解なこの法律の条文が極めてわかりやすく説明されている」「若い世代の人たちの活動である点に注目したい」との声があがったという。
 新聞うずみ火編集部の『新聞うずみ火』は、大阪で発行されている月刊のミニコミ紙。制作に携わっているのは故黒田清・元読売新聞大阪本社社会部長が設立した黒田ジャーナルの元記者ら。選考委では「地域に根ざしたニュースばかりでなく、特定秘密保護法、集団的自衛権、沖縄の基地問題、原発再稼働といった全国的、国家的な問題も積極的に取り上げている紙面は注目に値する」「もう10年近く続いている。その継続性を評価したい」とされたという。

 ■映像部門での奨励賞は2点で、株式会社大風が企画・制作した原子力に関する記録映画『無知の知』(石田朝也監督)と、毎日放送報道局制作の『見えない基地~京丹後・米軍レーダー計画を追う~』。
 選考委は、『無知の知』について「“原子力は果たして私たちの文明を照らし続けるのか?”と考えた作り手は、福島の人々の声に耳を傾け、次いで原発事故当時の首相や官僚、歴代首相、元原子力委員らにインタビューする。その姿は米国の映画監督マイケル・ムーアを想起させるが、こうした作り方はユーモアを含んでおり、多くの観客を集めることができるのではないか」と評価した。
 『見えない基地~京丹後・米軍レーダー計画を追う~』については「過疎の地方自治体がターゲットにされて原発が作られてきたが、米軍の基地作りも同じ構図で作られているという作り手の視点を評価したい。米軍が日本国民に知らせない情報が取材されていることも評価に値する」とした。

 ■フリーライター、金井奈津子さんの『憲法をお茶の間に 中馬清福さんに聞く』(松本平タウン情報掲載)が荒井なみ子賞に選ばれた。この賞は、平和・協同ジャーナリスト基金の発展に尽力された故荒井なみ子さんからの寄付金を基に創設された賞で、女性のライター、あるいは女性問題をテーマとした作品の筆者が対象という。金井さんは4年ぶり6人目の受賞だ。
 今回の選考委で最も審査員の目を引いたのがこの作品だったという。というのは、タウン紙、タウン誌といえば、地域の話題が中心というのが常識だが、この作品が連載された「松本平タウン情報」は長野県の中信地方に配布されているという無代紙であるにもかかわらず、ホットな政治問題である憲法問題を扱い、それも5年間、108回という長期連載だったからだった。
 しかも、子育てで忙しいお母さんたちや政治に関心が薄いとされる若者たちに、とかく敬遠されがちな憲法を読んでもらおうという狙いから、筆者が抱いた疑問を地元紙・信濃毎日新聞の中馬清福主筆(当時)にぶつけ、語らせるという斬新な手法。選考委では「タウン紙として新しい可能性を切り開いたといえるのではないか」と評価する声が多かったという。

 基金賞贈呈式は12月13日(土)午後1時から、東京都新宿区の日本青年館301会議室(JR中央・総武線千駄ヶ谷駅、地下鉄銀座線外苑前駅、都営地下鉄国立競技場駅下車)で行われる。だれでも参加でき、参加費は3000円。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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