私自身が被告とされたDHCスラップ訴訟。吉田嘉明とDHCは、私のブログ記事を名誉毀損として、勝ち目のないスラップ訴訟を提起した。一審(東京地裁)、二審(東京高裁)と敗訴を重ねて常識的にはこれで終わりのはずが、いやがらせの上告受理申立におよんだ。ラクダが針の穴を通るほどに困難だということを知りながらのこと。
10月4日(一昨日)付で、最高裁第三小法廷は、DHCと吉田嘉明両名による上告受理申立に対する不受理を決定し、その旨を通知した。所詮ラクダが針の穴を通ることはできなかったということだ。
決定書は、以下のとおりの無味乾燥な定型文書。これが全文である。不受理の理由は、「三くだり半」にもおよばない、わずかに42字。
吉田嘉明は「名誉毀損の裁判を起こすのは驚くほどの金銭を要し、普通の人はお金のことを考えただけで身を引いてしまいます」と述べている。「普通の人」には到底できない、「驚くほどの金銭」として、41万2000円の印紙を貼り、「山田昭ほか」の弁護士に弁護士費用を支払って、最高裁に勝ち目のない上告受理の申立をしたのだ。その「驚くほどの金銭」をかけた結果として、彼が手にしたものがこの一枚の不受理決定である。
**************************************************************************
事件の表示 平成28年(受)第834号
決定日平成28年10月4日
裁判所最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 山崎敏充
裁判官 岡部喜代子
裁判官 大谷剛彦
裁判官 大橋正春
裁判官 木内道祥
当事者目録
申立人 吉田嘉明
申立人 株式会社ディーエイチシー
同代表者代表取締役 吉田嘉明
上記両名訴訟代理人弁護士 山田昭ほか
相手方 澤藤統一郎
同訴訟代理人弁護士 光前幸一ほか
原判決の表示 東京高等裁判所平成27年(ネ)第5147号(平成28年1月28日判決)
裁判官全員一致の意見で,次のとおり決定。
第1 主文
1 本件を上告審として受理しない。
2 申立費用は申立人らの負担とする。
第2 理由
本件申立ての理由によれば,本件は,民訴法318条1項により受理すべきものとは認められない。
平成28年10月4日
最高裁判所第三小法廷
裁判所書記官 千石靖之㊞
**************************************************************************
☆この不受理決定で、吉田嘉明とDHCの敗訴が確定し、私(澤藤)の勝訴が確定した。光前幸一弁護士を筆頭とする136名の弁護団の皆さま、一審以来法廷に駆けつけていただきご支援をいただいた多くの皆さまに感謝いたします。
とりわけ、法廷後の集会で、貴重な講演や報告をいただいた、右崎正博、田島泰彦、内藤光博の各教授。北健一、三宅勝久、烏賀陽弘道の各ジャーナリストの皆さま。そして、労働組合ネットワークユニオン東京DHC分会の皆さま。さらに、山口広、茨木茂、今瞭美、新里宏二さんら、スラップ訴訟体験先輩弁護士の皆さまの具体的なご支援とご協力に厚く御礼申しあげます。
☆10月4日は、私にとっての「勝訴記念日」となりましたが、「勝利」したのは私ばかりではありません。この社会に不可欠な表現の自由にとっての勝利の日でもあります。
私の言論は、その内容において政治とカネをテーマとする典型的な政治的言論であり、強者の横暴を批判する言論であり、消費者の利益を擁護する言論であり、社会的規制を無用とする乱暴な行政規制緩和論を批判する言論であり、かつ民事訴訟を強者の横暴のために濫用してはならないとする言論にほかなりません。憲法21条は、まさしく私の言論を擁護しなければなりません。
私の5本のブログの中に、原告(DHC・吉田)は16個所の「名誉毀損」個所があると指摘しました。一審判決はこう言っています。「原告指摘の16個所の内の15個所の記事は、確かに原告の社会的評価を低下せしめ名誉を毀損している」「しかし、その記事のすべては、真実とされる事実を前提とし、その前提とする事実との論理的関連性があると認められる意見ないし論評である」「しかも、その意見ないし論評は、公共の利害に関する事実にかかるもので、もっぱら公益を目的としたものである」「したがって、原告の名誉を毀損するが違法性を棄却する」と。
表現の自由とは、誰をも傷つけない言論の保障ではありません。無害な言論なら保障の意味はない。私のブログの表現は、DHC・吉田を攻撃して、打撃を与えているが、そのような言論は論法21条が保障するところだということなのです。公権力を持つもの、公権力に関わろうとする者、社会的な影響力を持つ強者が民の側からの批判の言論を甘受すべきは当然のことなのです。
とりわけ吉田嘉明は、厚生行政・消費者行政の規制に服する大企業経営者としての立場にありながら、国の規制への不服を述べつつ、規制緩和推進派の政治家に8億円もの裏金を提供していたのです。そのことに対する批判が封じ込められよいはずはありません。
☆以下に経過の概要を振り返ってみたい。
なお、詳細は下記URLを開いてご覧いただきたい。「DHCスラップ訴訟」を許さないシリーズ、第1弾~第80弾+関連のいくつかをお読みいただける。
http://article9.jp/wordpress/?cat=12
**************************************************************************
☆DHCスラップ訴訟の概要
株式会社DHCと吉田嘉明(DHC会長)の両名が、当ブログでの私の吉田嘉明批判の記事を気に入らぬとして、私(澤藤)を被告とする2000万円の損害賠償請求の裁判を起こした。不当な提訴に怒った私が、この提訴を許されざる「スラップ訴訟」として、提訴自体が違法・不当とブログでの弾劾を開始した。要するに、「黙れ」と言われた私が「黙るものか」と反撃したのだ。
そうしたら、2000万円の請求額が、3倍の6000万円に増額された。「『黙るものか』とは怪しからん」というわけだ。なんという無茶苦茶な輩。なんという無茶苦茶な提訴。
強者の恫喝に萎縮して黙ることは、言論の自由を放棄し、消費者の利益を損なうこと。まして私は弁護士である。市民の権利を擁護する任務を持つ私が、DHC・吉田の恫喝に屈することはできない。
☆DHCスラップ訴訟の経過
2014年3月31日 違法とされたブログ(1)
「DHC・渡辺喜美」事件の本質的批判
2014年4月2日 違法とされたブログ(2)
「DHC8億円事件」大旦那と幇間 蜜月と破綻
2014年4月8日 違法とされたブログ(3)
政治資金の動きはガラス張りでなければならない
同年4月16日 原告ら東京地裁に提訴
(DHCは同時期に10件の同種提訴、請求額最低2000万、最高額2億)
5月16日 訴状送達(2000万円の損害賠償請求+謝罪要求)
6月11日 第1回期日(被告欠席・答弁書擬制陳述)
7月11日 進行協議(第1回期日の持ち方について協議)
7月13日 ブログに、「『DHCスラップ訴訟』を許さない」シリーズ開始
第1弾「いけません 口封じ目的の濫訴」
14日 第2弾「万国のブロガー団結せよ」
15日 第3弾「言っちゃった カネで政治を買ってると」
16日 第4弾「弁護士が被告になって」
以下2016年9月14日の第79弾まで(予定は100弾)
8月29日 原告 請求の拡張(200万→6000万円に増額)
新たに下記の2ブログ記事が名誉毀損だとされる。
7月13日の「第1弾」ー違法とされたブログ(4)
「いけません 口封じ目的の濫訴」
8月8日「第15弾」ー違法とされたブログ(5)
「政治とカネ」その監視と批判は主権者の任務
2015年7月1日 第8回(実質第7回)弁論 結審
2015年9月2日 請求棄却判決言い渡し 被告(澤藤)全面勝訴
2015年12月24日 控訴審第1回口頭弁論 同日結審
2016年 1月28日 控訴審判決言い渡し 控訴棄却(澤藤)全面勝訴
2016年 2月10日 上告受理申立
2016年 4月 5日 上告受理申立書提出
2016年 4月28日 上告受理申立事件第三小法廷に係属
2016年10月 4日 上告受理申立に不受理決定 確定
この間、「『DHCスラップ訴訟』を許さない」シリーズを書き続けて、
本日が第80弾。もちろん、この先も続けます。ご期待ください。
☆DHCスラップ訴訟が持つ意味
1 私の言論の自由に対する、DHC・吉田の不当な攻撃である。(憲法21条論)
2 攻撃された私の言論が「政治とカネ」という政治的言論である。
3 攻撃された私の言論が、消費者目線の規制緩和批判である。(消費者問題の側面)
4 言論萎縮を狙っての、訴権濫用による典型的な「スラップ訴訟」である。
以上
(2016年10月6日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2016.10.06より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=7524
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔eye3690:161007〕