(2023年3月19日)
昨日(3月18日)は奇妙な日だった。早朝のニュースで「プーチンに逮捕状」と聞き、深夜就寝前のニュースが「来週火曜日にトランプ逮捕」と言った。いずれも寝床でのラジオが語ったこと。東と西のゴロツキが法の名において断罪されようということなのだから、これが実現すればこの上ない慶事だが、さてどうなるか事態は混沌としたままである。
トランプは18日、自ら立ち上げた独自のSNS「トゥルース・ソーシャル」に「共和党の最有力候補でありアメリカ合衆国の元大統領が来週の火曜日に逮捕される」などと投稿した。トランプ自らによる、トランプ逮捕予告の記事である。真偽のほどは不明だが、「検察からの違法な情報漏洩」があったことを根拠にしてのことだという。逮捕を免れようと、「抗議しろ、私たちの国を取り戻せ」と自身の支持者に呼びかけている。理性に欠けた狂信的支持層の反応が懸念される。とうてい、民主主義を標榜する社会のあり方でない。
朝に「プーチンの戦争犯罪」を断罪し、夕べに「トランプの破廉恥と、民主主義への敵対姿勢」を確認した日となった。
トランプの投稿は、逮捕の被疑事実や捜査の進展など詳しい経緯には触れていない。それでいて、「抗議しろ、私たちの国を取り戻せ」なのだ。いったい何をどう抗議せよというのか。おそらくは、そんなことはどうでもよいのだ。ともかくも、愚かな自分の支持者を煽動して抗議の声を上げさせさえすれば、逮捕の実行はなくなるだろうという傲り、あるいは願望が透けて見える。こんな人物が、アメリカの大統領だった。そして再選を狙う候補者なのだ。
伝えられているところでは、最も可能性の高いトランプの逮捕理由は、2016年に不倫関係にあったとされるポルノ女優ストーミー・ダニエルズに「口止め料」を支払った問題で、以来今日まで、ニューヨークのマンハッタン地区検察官が捜査を続けてきた。この件について、米メディアは「捜査が大詰めを迎えている」と報じていたという。
問題となっている元ポルノ女優は、かつてトランプと不倫関係にあったとされる。トランプはその関係が明らかになることで大統領選に影響が出ることを懸念し、弁護士を通じて13万ドル(約1700万円)を支払った疑いがかけられている。ニューヨーク州法では、選挙に影響を与える一定額以上の寄付が禁じられており、この口止め料が抵触する可能性が指摘されてきた。トランプを起訴するかどうかは、地区検察官が招集した大陪審が決める。
起訴された場合は、トランプはいったん出頭して逮捕される手続きとなるという。米メディアによると、地区検察官はトランプに対し、大陪審の前で証言する機会を提示したが、トランプは拒んだ。ニューヨーク・タイムズはこうした経過を根拠に「起訴が近いことを示している」と報じた。
トランプを巡っては、脱税疑惑もあり、20年大統領選の結果を覆そうとした疑惑や公文書を私邸に持ち出した疑惑など、複数の案件で捜査が進められている。さすがに「容疑者が大統領」ではシャレにもならない。こんな人物を大統領候補にしているのが、アメリカの一断面なのだ。
思い出す。トランプの顧問弁護士だったマイケル・コーエンのことを。彼は、トランプの代理人として、2016年の米大統領選期間中にトランプとの不倫関係を公表しようとしていたポルノ女優と米男性誌「プレイボーイ(Playboy)」元モデルに口止め料を支払い、これで選挙資金法に違反したとして有罪となった。禁錮3年である。
ポルノ女優のストーミー・ダニエルズと、米男性誌「プレイボーイ」元モデルのカレン・マクドゥーガル両名への不正口止め料の支払いの金額は計28万ドル(約3200万円)と供述していた。コーエンは、この金額はトランプと調整し、最終的にトランプの指示で支払ったもので、当然にトランプも違法を認識していたと述べている。しかし、いまだにトランプは「違法行為を指示したことはない」と否認し続けている。
このコーエン弁護士。安倍晋三・昭恵の夫婦に乗せられながら、途中で切って捨てられて今は下獄している籠池夫妻に似ていなくもない。
ここまで来れば、トランプも退くに退けない。司法当局と争わざるを得ない立場となった。当面は、大陪審の面々に圧力をかけ、徹底して脅すしかない。ということは、ニューヨークの一般市民を敵にまわすということでもある。結局は、偉大なアメリカの実現のために「法の支配」「民主主義」と果敢に闘う大統領候補になるということなのだ。プーチンとトランプ、なんとまあ、よく似ていることか。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2023.3.19より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=21078
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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