(2021年3月31日)
悪名高い「10・23通達」発出が、2003年10月23日のこと。時代は、これも悪名高い石原慎太郎都政第2期。この極右政治家の暴走によって、「都立の自由」が蹂躙され、都内公立校の学校行事で「日の丸・君が代」強制が導入された。あれから、17年余にもなる。
この17年余にわたって、都内公立校の卒業式・入学式では、全教職員一人ひとりに、「国旗に向かって起立し、国歌を斉唱すること」という職務命令が発令される。これだけで異様な事態というほかはない。そして、不起立には懲戒処分が課せられる。
国旗・国歌(日の丸・君が代)強制に違和感をもつ教員は、数多くいる。多数派と言ってもよいだろう。その理由はさまざまだが、何よりも、この旗と歌は、天皇制下の軍国主義や侵略主義、植民地支配、偏狭な思想統制などの負の歴史とあまりに強く結びついたイメージを払拭し得ていない。
かつての枢軸3国の内、ナチス・ドイツとファシズム・イタリアは、敗戦後旧体制との決別の意味を込めて、国旗も国歌も変えている。当然のことだろう。しかし、日本だけが、大日本帝国憲法時代の象徴を今も使っている。これに抵抗感を持つ人々が存在することは、健全で当然というべきではないか。
また、国旗も国歌も、国家の象徴として個人に対峙する。起立して斉唱せよという強制を是とすることは、個人の尊厳を凌駕する国家の憲法価値を是認することにほかならない。これは、日本国憲法における主権原理にも人権理念にも悖るものといわなければならない。この処分の違憲性を認めない司法は、その役割を果たしていないのだ。
これは、現代の踏み絵である。起立したくはないが良心を詐って立たざるを得ないと考えるか、種々の不利益を甘受して不起立を貫くべきと考えるか、全教員が踏み絵を命じられるキリシタンと同様の葛藤を味わうことになっている。
この都教委の仕打ちを容認できないとした、教員たちが原告になって、いくつもの訴訟を提起してきた。憲法の根幹に関わる重大な憲法訴訟である。最初の提訴が、起立斉唱の差し止めを求める「予防訴訟」、次いで処分取消を求める提訴が、1次~4次まで。それに次いだ第5次訴訟が本日の提訴。原告数15名、取消を求める処分の数が26件である。
本日は、10時に訴状を提出し、11時から記者会見、午後には77人のリアル参加での報告集会のスケジュールだった。200ページの訴状は、気迫に充ちたものとなっている。
以下は、取消5次訴訟原告団・弁護団の声明である。これまでの経緯や本日提起の訴訟の概要をご理解いただけるだろう。
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東京「日の丸・君が代」処分取消五次訴訟提訴にあたっての声明
1 私たち東京「日の丸・君が代」処分取消訴訟原告団(東京「君が代」裁判原告団)15名は、本日、東京都教育委員会を被告として、原告らに対する懲戒処分26件の取消を求めて、東京地方裁判所に提訴しました。
原告ら(都立学校の教員・元教員)は、2003年10月23日に出された通達(「10・23通達」)に基づく職務命令に違反したとして処分を受けました。この通達は、学校長に対する職務命令として、校長が、教職員にあてに卒業式等において「国旗に向かって起立し、国歌を斉唱すること」を命じる職務命令を出させることをその内容としています。これまでにも起立斉唱命令違反を理由とする懲戒処分の取消訴訟を提起してきましたが、今回の提訴は、東京「日の丸・君が代」処分取消訴訟としては第5回目の提訴となります(第1次訴訟2007年2月提訴:原告173名、第2次訴訟2007年9月提訴:原告67名、第3次訴訟2010年3月提訴:原告50名、第4次訴訟2014年3月提訴:原告14名)。
2 10・23通達をめぐっては、2011年5月30日以降、最高裁において、起立斉唱に関しては、「国旗及び国歌に対する敬意の表明の要素を含む行為」であるとして個人の思想良心の自由に対する間接的な制約となるとの判断が示されました。起立斉唱命令に違反したことを理由とする懲戒処分についても、第1次訴訟の最高裁2012年1月16日判決で「減給以上の処分を選択することの相当性を基礎づける具体的な事情」が必要であるとされ、過去の不起立を理由とする処分歴が相当性を基礎づける具体的な事情に当たらないとして、都教委が行ってきた「累積加重処分」を断罪し、減給以上の処分がすべて取り消されました。減給以上の処分が取り消される判断は、第2次訴訟の最高裁2013年9月6日判決でも確認され、第3次・第4次提訴でも踏襲されています。なお、戒告については取り消されることはありませんでしたが、第1次訴訟最高裁判決では、都教委に対して強権的に処分を繰り返すのではなく謙抑的な対応によって教育現場の状況の改善を求める補足意見が出されています。
3 原告ら起立斉唱命令違反を理由として懲戒処分を受けた教職員は、自身の思想、信条から起立斉唱できないにもかかわらず、そのことを理由として繰り返し懲戒処分を科され、再発防止研修の受講を義務付けられるなど自身の思想信条に対する不利益を受けながら、また、処分されたことを理由として勤務評定をさげられる等教員としての尊厳を傷つけられながらも、粘り強く裁判を闘ってきました。
しかし、都教委は、最高裁判決が求める謙抑的な対応による解決ではなく、強権的に処分を繰り返す対応に終始してきました。原告らが求める話し合いには一切応ぜず、処分を取り消された者への謝罪・名誉回復は全く行わない、断罪された「累積加重処分」の根本的な見直しすら行わない、さらにはあろうことか再処分を強行する、再発防止研修を異常なまでに強化する一方、現場では、批判を許さない体制を作り上げ、最後には再任用を打ち切って教育現場からの排除に繋げる等々、反省のかけらも見られません。
4 原告らの中には、一度は減給以上の処分を取り消された後、再び同じ卒業式等での不起立を理由として今回取り消しを求める戒告処分を受けた者が含まれています。都教委の違法な懲戒処分が取り消されたにもかかわらず、なぜ原告らは、精神的苦痛も十分に慰謝されぬまま、再度の懲戒処分によってかつての減給処分以上の経済的損失を被らなければならないのでしょうか。とりわけこの間に、都職員の昇給と勤勉手当に関する規則が2度にわたって改訂され、懲戒処分による経済的損失が大幅に増大されています。再処分を受けた者は、都教委が違法な減給処分をしなければ受けなくて済んだはずの経済的損失を被ることを余儀なくされています。
また、都教委は、現在のコロナ禍においても感染防止のため卒業式等の簡略化を求めつつ、「国歌斉唱」のみは必ず実施するよう指示し、職務命令を出し続けています。「国歌斉唱」の「職務命令」に執着し、実質的な二重処罰となる再処分をも厭わない都教委の姿勢はもはや異常というほかありません。
本日までに「10・23通達」に基づく起立斉唱命令に違反することを理由とする懲戒処分は485件という膨大な数にのぼっています。この数字も、東京の教育行政の異常さを物語っています。
そして、2019年、国際機関(ILO/UNESCO)から、式典で明らかな混乱をもたらさない場合にまで国歌の起立斉唱行為のような愛国的な行為を「強制」することは、個人の価値観や意見を侵害するとの勧告がだされたことによって、東京の教育行政の異常さは国際社会にも認識されるに至っています。
5 「10・23通達」発出からすでに17年余がたちました。10・23通達以来の職務命令によって教職員を従わせようとする都教委の、学校の命である自由闊達な教育実践を大きく阻害しています。その最大の被害者は生徒たちです。これ以上、可能性に満ちた生徒たちを都教委による管理統制の下に置くことはできません。
私たちは、本日、「人権の最後の砦」である裁判所に懲戒処分の取消を求めて第5次訴訟を提訴しました。今こそ裁判所は、都教委の暴走から国民の権利・自由を守るため、問題解決に向けてその役割を果たすべきときです。
教職員や生徒らの「思想・良心・信仰の自由」が守られる自由で民主的な教育をよみがえらせるため、教職員・生徒・保護者・市民と手を携えて、国旗・国歌(日の丸・君が代)強制に反対し、すべての処分を撤回させるまで闘い抜く決意です。
皆様のご理解とご支援を心よりお願い申し上げます。
2021年3月31日
東京「君が代」裁判5次訴訟原告団
同 弁護団
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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