(2022年1月16日)
2020年は「沖縄の年」である。本土復帰50周年を機に「沖縄返還」とは何であったのか、安保とは、対米従属とは、地位協定とは、基地とは。そして憲法9条とは何かが問われざるを得ない。その問への回答が、沖縄知事選や参院選の結果ともなるのだ。その成果を期待したい。
「沖縄の年」幕開けの闘いが本日告示の名護市長選である。辺野古新基地建設問題が争点化した1998年市長選以来、7回目の選挙だという。今回は自公が擁立する現職の渡具知武豊候補に、新基地建設に反対する「オール沖縄」勢力から新人岸本ようへい候補が立候補して、一騎打ちとなった。
争点は紛れもなく、辺野古新基地建設への賛否である。岸本候補が反対を明言し、渡具知候補が意見を言わないという構図。渡具知は前回同様「国と県による係争が決着を見るまではこれを見守る」としか言わない。
これは、「一寸の虫にも五分の魂」派と、「長いものには巻かれろ」派との対決である。一揆における「立百姓」と「寝百姓」の対峙の関係でもあり、資本と闘う「第一組合」と御用の「第二組合」との関係でもある。原発建設の賛否をめぐっても、カジノ誘致をめぐっても同様の構図を見ることができる。
権力が地元に犠牲を押し付けるときに、「一寸の虫にも五分の魂」派は敢然と闘う。しかし、「長いものには巻かれた」方が目先の利益にはなる。それは当然のこと、押し付けられた犠牲を懐柔するためには「アメ」が必要なのだ。「長いものに巻かれ」れば、いっときアメをしゃぶることはできる。しかし、それは掛け替えのない「魂」を売り渡すことにほかならない。取り返しのつかないことになる。
2019年の県民投票では、名護市民の73%が新基地建設反対の民意を示しているという。しかも今、改良工事が不可能なマヨネーズ状の軟弱地盤によって新基地の完成が見通せない問題も出てきている。オスプレイの事故も頻発している。民意が辺野古基地建設反対にあることは明らかだ。
だから、権力の手先である渡久地陣営としては、権力が配るアメで民意を誘導するしかない。そのアメの最たるものが、「米軍再編交付金」である。これあればこそ、名護市内の子どもたちの『給食費』、『保育料』、『子ども医療費』の無償化がある。渡久地派は、「新基地建設反対では、この施策を継続できない」ともっぱら利益誘導の選挙である。
辺野古新基地の耐用年数は200年とされている。名護市民は、半永久的な基地被害を甘受しようというのだろうか。4年前の選挙の際に、小泉進次郎という無責任な保守政治家が名護高校の生徒に、渡久地陣営への支持を語りかけて話題となった。結局は、「長いものには巻かれる」方が利口だというのだ。プライドを売れ、魂を売れ、故郷を売れ。自治を売れ。その見返りに補助金・交付金をもらって潤った方が賢いやり方じゃないかというわけだ。
岸本陣営は、再編交付金に頼らず、行財政改革などで三つの子育て無償化策の継続を訴えるほか、進学や子育てなどを支援する「子ども太陽基金」創設、名護市ネット販売課新設による生産品販売・起業支援、名桜大薬学部新設などを掲げるという。具体的には、三つの無償化にかかる費用7・1億円のうち、稲嶺前市政が再編交付金に頼らず、一部無償化を前進させた2・7億円の土台があると説明。残りの約4・5億円については「基金をつくり、再生可能エネルギーなどの導入による光熱費の削減とともに、新たな税収を期待できる市有地の活用で必ず無償化の継続はできます」と政策を掲げている。
名護市長選の闘いの構図は、《自公勢力》対《立憲野党+市民》の対峙構造とよく似ている。岸本陣営には、共産、立民、社民、社大、にぬふぁぶし、れいわの諸政党の結集がある。
沖縄県内で新型コロナウイルスの感染が急拡大しているさなか、両陣営がどう支持拡大を訴えるのかも注目される市長選。今月23日の投開票で決着する。ぜひとも、「五分の魂」を守り抜こうというオール沖縄派の勝利を期待したい。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2022.1.16より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=18363
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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