本間宗究「ちきゅうブッタ斬り」(26)

著者: 本間宗究 ほんまそうきゅう : ポスト資本主義研究会会員
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サラリーマン化した日本人

  今回の「シャープの苦境」を見ていると、「日本人」が、かつて持っていた「職人魂」を忘れ、「サラリーマン化した状況」が浮かび上がってくるようだが、このような状況下でも「円高」や「低金利」という「力のある国の特権」が存在することが、一種の「奇跡」とも言えるようである。つまり、「国民や企業が、良い製品を作り、海外から評価され、買ってもらう」ということが、戦後の日本が、奇跡的な高度成長を遂げた理由だと考えているが、現在では、「利益の低下」や「原油価格の上昇」などにより、以前のような競争力がなくなっているからだ。
  そして、現在、日本が世界に誇れることは、歴史的な「円高」や「超低金利」だけとも言える状況になっているようだが、実際には、このような「異常事態」が長続きするはずもなく、今後は、日本人が、大きな変化の時代を経験することが考えられるようだ。具体的には、想像以上の「円安」や「金利の上昇」に見舞われた時に、日本人の意識が大きく変化する可能性のことだが、今までは、このような「危機的な状況」が生まれていなかったために、現在の日本人が「水茹での蛙」の状態に陥った可能性もあるようだ。
  つまり、「サラリー(給料)」という「お金」を貰うことが、「人生の目的」となってしまい、本来の「使命」とでも言うべき「自分が会社や社会の中で、どのような事をすべきなのか?」という点が軽視されているからだ。別の言葉では、「顧客がどのように考え、何を求めているのか?」ということよりも、「会社の中で、どのようにして、自分の地位を上げるのか?」ということに力を注ぎすぎ、結果として、「会社そのものが、世界的に、競争力を失った」という状態が「現在の日本人」とも思われるのである。
  しかし、このような状況は、実は、「30年前のアメリカ」でも起きていたことだったのである。具体的には、「目先の利益」だけを求め、「長期的な問題」である「商品やサービスの革新や改良」という点を忘れたために、世界的な競争力が失われたのだが、そのような状況下で成功したのが、「アップル」や「マイクロソフト」、あるいは、「グーグル」や「インテル」などの企業だったのである。
  そのために、「20年から30年前のアメリカ」とよく似た状況にある「現在の日本」も、再び、「職人魂」という「顧客にベストの仕事をして、心から喜んでいただく」という「精神」が復活することを願っているのだが、この時の必要条件としては、「お金は、仕事の結果として、付いてくるものだ」という考えを持つことでもあるようだ。(9月4日)

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赤字国債と財政の崖

  「赤字国債発行法案の可決」が遅れることは、ほぼ決定的な状況となり、間もなく、「予算の抑制案」が財務省から発表される予定となっているが、結果としては、このことが、「日本人の意識」を変えるとともに、今後の大変化の「キッカケ」になる可能性があるようだ。つまり、現時点で予定されている「地方交付金の配分を先送りする」という手段が、「地方財政にまで、大きな影響を与え始める」という状況が考えられるとともに、「財政の崖」という、現在、アメリカで問題視されている点が、今後、世界的な動きになる可能性が存在するからだ。
  具体的には、今回の「法案の未可決状態」により、「約38兆円もの赤字国債」が発行できない状況になっているのだが、この点を詳しく分析すると、たいへん興味深い点が浮かび上がってくるのである。つまり、「約68兆円の基礎的財政収支」と「約22兆円の国債費」との関係のことだが、この時に考えなければいけない点は、「国債費は、決して、先送りできない費用として計上される」ということである。別の言葉では、「金利が支払えなくなり、また、元本の償還ができなくなれば、現在のギリシャと同じ状況である」ということだが、このような状況こそが「国家の破綻」を意味するのである。
  そのために、今回は、早いうちに、この法案を可決する必要性があるのだが、より重大な問題は、「約1000兆円も存在する日本の国家債務」に関して、「今後、どれほどの利払いが必要とされるのか?」という点である。つまり、現在の「超低金利」の状況下でも「約22兆円の国債費」が必要とされているのだが、今後、金利の上昇局面に遭遇すると、この費用が急増することが考えられるのである。そして、その時には、「基礎的財政収支」の部分が、大幅に削減されるという状況も想定されるようだが、かりに、日本の金利がイタリアやスペインのようなレベルにまで急騰すると、「ほとんどの予算が、国債費に消えてしまう」ということが考えられるのである。
  そのために、今までは、先進国の金利を低く抑え、また、国債価格の下落を防ぐ手段が取られてきたようだが、さすがに、「GDPの2倍以上もの国家債務」というのは、さまざまな「歪み」をもたらすとともに、時間が経てば経つほど、「先送り」が難しくなっているようだ。そして、最後には、「中央銀行」という「最後の貸し手」により、「大量の紙幣が増刷され、全ての借金が返済される」という伝統的な手法が取られることが予想されるのだが、今回の「政治の混迷」は、この事実を、国民に広く知らせるための「最も手っ取り早い手段」だった可能性もあるようだ。(9月4日)

本間宗究のコラムhttp://www.tender-am.com/ja/column.html  を許可を得て転載。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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