本間宗究「ちきゅうブッタ斬り」(3)

著者: 本間宗究 ほんまそうきゅう : ポスト資本主義研究会会員
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QE3の可能性 
  現在、世界の金融界で、最も注目を浴びているのが、「欧米の金融危機」であり、具体的には、「アメリカのデフォルト(債務不履行)の可能性」や「PIIGSの金融危機」である。そして、この点に関して、「アメリカが、QE3を実施するのか?」が、大きな議論になっているのだが、「大きな流れ」から考えると、「QE3」というのは、「本質的な議論」ではなく、「枝葉末節のこと」とも言えるようである。つまり、今回の金融危機に関しては、「1971年のニクソンショック以降、どれほどの金融資産が生み出され、また、どのような方法で、その資金が手当てされたのか?」ということが、最も重要な点だと考えるからである。
  そして、基本的には、「世界的に膨れ上がった借金爆弾」や「金融界の大量兵器と呼ばれるデリバティブ」に関して、「抜本的な対策」が必要とされているのだが、実際に起きていることは、「対症療法的な政策」である「税金を増やしたり、国債の上限を引き上げたりすることにより、より一層、借金の残高を増やす」という方策しか考えられていないのである。そのために、現在の欧米では、「このままではいけない」という思いが、政治家の間でも強くなっており、結果として、「上限引き上げ法案が、なかなか、決着が付かない」という状況になっているのである。
  より詳しく申し上げると、「QE1」や「QE2」というのは、基本的に、「国債を大量に発行し、その国債を、中央銀行が主に買い付ける」という政策だったようだが、かりに、「国債の上限が引き上げられ、QE3が実施された」としても、「根本的な構図」に変化がなく、「金融危機に関しては、より一層の悪化が予想される」という状況が考えられるのである。そのために、これらのことに気付いた人々が、積極的に、「金などの実物資産」を買っているのだが、残念ながら、「日本人だけが、世界で、最も呑気な状態である」とも言えるようである。
  つまり、「GDPと国債残高の関係」を考えると、「日本が、最も、危機的な状態にある」ということだが、不思議な事に、「マスコミ」や「経済学者」は、ほとんど、この点を危惧せず、単に、「国民の資産があるから大丈夫だ」というような意見に終始しているのである。そして、このような呑気な認識が、今回の「原発事故」を引き起こしたようだが、問題は、やはり、「多くの人は、事件が起きてから、本当の問題に気付く」ということである。しかし、「日本人の特性」としては、「焼け野原に立たされた時に、本当の底力を発揮する」という点も指摘でき、今後は、この点に期待するしか方法が残されていないものと考えている。(7月19日)

老子の三宝 
  老子に次の言葉があるが、このことは、現代人にとって、たいへん参考になるものと考えている。それは、「私には、三つの宝物があり、一つは慈、二つ目が倹、そして、三番目が、敢えて、天下の先頭にならないことだ」というものである。つまり、「慈愛」を持つことにより、「人々がお互いに助け合い、結果として、組織や社会が、効率よく機能する」ということであり、また、「自分が倹約することにより、他人に対して、いろいろな出費ができる」というものである。また、「三番目の、敢えて、天下の先頭に立たない」という点は、「自分が表に立つことよりも、日陰で苦労している人たちに、注意や関心を払う」ということだと考えている。
  しかし、このような行いは、現代人が最も嫌うことであり、多くの場合に、「そのような事をしていたら、自分が損をするだけではないか?」という反論が聞かれることになるようだが、少しだけ、歴史をさかのぼると、戦後に起きた「奇跡的な日本の繁栄」については、この「三宝」が活かされたからとも考えられるのである。つまり、「戦後の焼け野原に臨んだ日本人」が行ったことは、「自分のことよりも他人を案じ、わずかな食糧や資源を倹約して使いながら、運命共同体という言葉のとおりに、自分の出世よりも、会社や国家のことを考えた」という状況だったのである。
  そして、結果としては、「世界でも有数の資産を持つ国家」へと変貌を遂げたのだが、残念ながら、現在では、本当の宝物である「老子の三宝」は、完全に消え去った状態になったのである。つまり、「自分さえよければ他人の事には無関心であり、また、自分の贅沢を許しても、他人に対しては厳しい態度で臨み、結局は、自分の地位や富だけを、真っ先に考える人」が増えてしまったからである。
  このような結果として、現在の「金融混乱」が起き、また、「人々の心」が歪んだために、「天変地異」が起きているものと考えているが、今回の「3・11の大震災」については、「本当の宝物とは、一体、どのようなものか?」を考える、絶好の機会にもなったようである。具体的には、数多くのボランティアの人々が、「自分のことを忘れ、被災者の救助に当たり、しかも、自費で被災地を訪れ、黙々と、目立たない裏側の仕事を行った」ということは、まさに、「老子の三宝」を実践するような行為にも思えたのである。そして、このことが、本当の意味での「日本の強さ」であり、「史上最大の堕落をした日本人が、史上最大の覚醒を始めている状態」だと考えているが、後は、「金融市場で、どのような事が起きているのか?」についての覚醒だけが残されているようである。(7月19日)

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0585 :110809〕