本間宗究「ちきゅうブッタ斬り」(6)

著者: 本間宗究 ほんまそうきゅう : ポスト資本主義研究会会員
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米国債の格下げ  

  8月5日に、S&P社が米国債の格下げを行った。そして、米国債は、歴史上初めて、「AAA」という最上級のランクを失ったが、この後に起きたことは、きわめて奇妙なことだった。つまり、「格下げされた国債の価格が上昇し、戦後において、最低の金利状態になった」ということだが、この点については、どのような理論を持ってしても、説明が付かないことだと考えている。そして、今までに申し上げてきた、「プログラム売買による国債の買い支え」でしか、理由が見つからないような状況でもあるのだが、このことが意味することは、反対に、「これから、本格的な金融混乱が始まる」ということだと考えている。 

  具体的には、「誰が、先進国の国債を買っているのか?」という点を理解すると、全てのことが納得できるのだが、実際には、「政府を中心にして、国債価格の暴落を防ごう」という思惑が、世界的に存在するのである。つまり、「ありとあらゆる手段を行使しながら、時間稼ぎを行っている」というような状況が推察されるのだが、このことが意味することは、「借金爆弾の規模が、日に日に、大きくなっている」ということである。 

また、「国債価格の上昇」ということは、「単価×数量」の面から考えると、「国債の時価総額が急増している」ということを意味し、今後は、「買い支えに関して、より膨大な資金が必要とされる」ということも理解できるのである。そして、最も大きな問題は、このような「無謀な動き」を見た国民が、「今後、どのような行動を取るのか?」ということだが、このことは、最近の「中国高速鉄道事故」において、「いったん埋めた車両を、再度、掘り返した」という出来事を思い出させるのである。 

つまり、「国民が、政府の暴走に気付いた時に、どのような事が起きるのか?」ということだが、実際には、「ネット社会の発展により、問題が隠しきれなくなった」というような状況が起きたのである。そして、今後は、「先進国の国債」に関して、「同様の事態が起きるのではないか?」とも考えられるのだが、このことが意味することは、「買い支えが継続できなくなり、本来の姿に戻る」ということだと考えている。 

具体的には、「国債価格の急落」ということだが、現時点では、この対処法として、「先進国の政府が、慌てて、紙幣の増刷を実行する」という方法しか残されていないのである。また、現在の「金価格の急騰」については、「このことを察知した人々が、急速に、資金を移動させている」という段階のようであり、今後は、この動きが、世界的に加速していくものと考えている。(8月9日)

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覚醒を始めた日本人  

  「3・11の大震災」は、たいへん悲惨な出来事であり、結果としては、日本人のみならず、世界中の人々に、大きな衝撃を与えた事件だった。また、東北地方については、一刻も早い復興を願っているが、約5ヶ月後の現時点において、「この事件は、日本人に対して、どのような意味を持っていたのか?」を考えてみると、やはり、「天の警告」だった可能性が高いようにも感じられるのである。つまり、「原発の危険性」や「政官業の癒着」などに対して、まったく、危機意識を抱いていなかった日本人が、今回の大震災と大津波により、「認識が、180度、転換した」という状況になったからである。 

  具体的には、「原発が、どれほど危険なのか?」、そして、「地震国である日本で、何故、これほどまでに原発が推進されてきたのか?」という点について、全ての日本人が、問題意識を持ち始め、自己防衛を図り始めているのである。あるいは、戦後の日本が、どれほどの高度成長を経験し、現在の「当たり前の生活」が、どれほど「有難い」ものだったのかを、十分にかみしめ始めているのだが、このことが意味することは、「日本人の覚醒」であり、戦後の歴史的な高度成長の後に、史上最大規模の堕落をした民族が、大きな転換を始めたものと考えている。 

  また、この時に大切な事は、「原発」が「実体経済の象徴」であり、かつ、「国債」が「マネー経済の象徴」だということである。つまり、「実体経済」については、すでに、「日本人の覚醒」が始まったものと思われるのだが、一方で、「マネー経済」については、「まだ、十分な状態ではない」ようにも感じられるのである。具体的には、「なぜ、ゼロ金利政策が継続し、また、円高が起きているのか?」ということや、あるいは、「世界で最大規模の国家債務を抱えながら、なぜ、金利が上昇しないのか?」ということなどである。 

  別の言葉では、「大きな事件が起きない限り、問題の本質に気付かない」ということが、「人間の性(さが)」とも言え、今回も、「マネー経済に関する大事件」が起きた時に、「3・11後の混乱状態」が繰り返されるものと考えている。そして、今回、予想される出来事は、やはり、「国債価格の暴落」であり、しかも、「世界的に、起きる可能性が高い」ということである。ただし、一方で、一部の「覚醒を始めた日本人」は、的確に、このような状況をとらえ始め、積極的に「金(ゴールド)」を買い始めているのだが、問題は、「絶対的な金額において、まだまだ不足している」ということである。つまり、「約1500兆円」と言われる「個人の金融資産」に比較すると、「金の保有額は、微々たる金額にすぎない」ということであり、今後は、この点が、大きな関心事になるものと考えている。(8月17日) 

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不換紙幣と兌換紙幣 

  紙幣には大別して二種類が存在するものと考えているが、それは、「不換紙幣」と「兌換紙幣」のことである。そして、「兌換紙幣」というのは、「金貨や銀貨、あるいは、地金と交換可能な紙幣」のことであり、一方、「不換紙幣」というのは、現在の「一万円札」のように、「政府」や「日銀」が、金や銀などへの交換を保証していない「単なる紙切れ」ということだが、現在の世の中では、「一万円札を持っていけば、喜んで、一般的な商品のみならず、金や銀も売ってくれる状況」にもなっているのである。

  つまり、現在の社会では、誰も、不換紙幣や兌換紙幣の区別をせずに、「千円札や五千円札、あるいは、一万円札などの紙幣が、本当のお金だ」と考えているようだが、少しだけ歴史を遡ると、全く違った状況が見えてくるのである。具体的には、「今から100年前の日本」においては、兌換紙幣が発行されていたのだが、当時の人々は、「金や銀に交換できない紙幣には、価値が無い」と考えていたのである。あるいは、「不換紙幣」に対する不信感が存在していたために、「兌換紙幣」しか通用しない社会情勢でもあったようだ。

  このように、「貨幣の歴史」を眺めると、さまざまなことが見えてくるのだが、現時点で、最も重要なポイントは、兌換紙幣と不換紙幣との分岐点が「発行主体への信用」に存在するということである。つまり、「紙幣を発行する中央銀行」に対する「絶対的な信頼感」が存在することにより、「不換紙幣は、初めて、発行が可能だ」ということだが、現在では、このような基本も忘れ去られているのである。

  そして、「なぜ、このような状態になったのか?」が、今回の金融混乱を理解するうえで、極めて重要なポイントだと考えているのだが、この理由としては、「戦後の高度経済成長」により、長い期間にわたり、「経済」や「政府」に対する信頼感が蓄積されたという事実が存在するのである。つまり、どのような異常な出来事といえども、長い期間にわたり、その事実が継続すると、「異常な状態が、当たり前と錯覚される」ということである。

  別の言葉では、このような状況こそが、私が考える「信用本位制の金融システム」ということだが、現在の金融混乱が意味することは、「通貨への信頼感」が失われ始めているということである。そして、結果として、「知らないうちに、多くの人が、兌換紙幣の基本である、金や銀を求め始めた」という状況にもなっているようだが、過去の歴史が教える教訓は、ほとんどの場合において、「ハイパーインフレにより、不換紙幣は紙くずになる」という事実になるが、今回も、同様の歴史が繰り返されることになるようだ。(8月26日)

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0610 :110909〕