本間宗究の「ちきゅうブッタ斬り」(46)

著者: 本間宗究 ほんまそうきゅう : ポスト資本主義研究会会員
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借金まみれの経済成長

  6月23日に、「BIS」という「中央銀行を統括する銀行」が衝撃的なレポートを発表したが、その題名は「先送りされた時間の有効活用」というものであり、内容としては、9ページにわたり、「2007年以降の金融政策」を詳しく述べたものだった。そして、結論としては、「2007年の金融混乱以降、世界の中央銀行は、前代未聞の金融政策を行ってきたが、この政策が実施されていなかったら、世界の金融システムは、簡単に崩壊していたはずだった」とコメントしながら、同時に、「先送りされた時間を有効活用すべきである」というものだった。

  しかし、一方では、「歴史的観点からは、国債価格の暴落は、突如として発生する」とも述べており、現在、すでに始まったものと思われる「世界的な国債価格の下落」に対して、警告を発しているのである。また、「中央銀行のバランスシート」は、「過去6年間で、10兆ドルから20兆ドルへと倍増している」ともコメントし、結局は、過去数年間の世界経済が、「借金まみれの経済成長」だったことを示唆しているのである。

  そして、実際に起きたことは、「労働生産性の低下」であるとともに、「巨大な規模での資産配分の歪み」であると結論付けているのだが、このことは、「世界経済」を脆い体質にするとともに、「市場の突然の変化」に対して、大きなリスクを内蔵しているともコメントしているのである。また、「中央銀行の限界」についてコメントしながら、「過剰な債務に対する危機感」も述べているのだが、今回の注目点は、「なぜ、今になって、このようなレポートが出てきたのか?」ということでもあるようだ。

  つまり、数年前から、私が警告してきたことが、ようやく、公式に認められたものと考えているが、現在では、「時すでに遅し」という言葉のとおりに、「全くの手遅れ状態」とも言えるのである。別の言葉では、過去6年間の「リフレーション政策」により、「世界の債務残高」が限界点にまで膨らんでおり、今後は、この反動が気にかかる状況でもあるのだが、これから想定されることは、過去のパターンのとおりに、「マネタイゼーション」という「国債の現金化」しか存在しないものと考えている。

  そして、結果としては、世界中の人々が、「通貨」や「国家」に対する「信頼感」を失い、慌てて、「換物運動」に走り出すことが考えられるようだが、今回のレポートは、そのことを「後押し」するようなものであり、今後の「ハイパーインフレ」に対して、「お墨付き」を与えたようなものだと考えている。(2013.6.26)

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マネーの暴走

  現在、世界の金融市場は「鉄火場」とも言える様相を呈しているが、このことは、「日本株」のみならず、「国債」や「貴金属」の価格、そして、「為替」までもが、大きな乱高下の状態となっていることである。そして、このような状況下で起きることは、「Cash Is King(現金が王様)」という言葉のとおりに、「預金や現金を持つことが、最も安全だ」という「考え」が広まることだが、ご存じのとおりに、今回も、同様のパターンが繰り返されたようである。

  つまり、過去のバブルの時にも、このような動きを、何度か経験したのだが、その後に起きることは、「本当に安全な資産へ、資金が殺到する」という動きだった。具体的には、「10年以上前のITバブル」や「20年ほど前の日本株バブル」の時にも、多くの人が、訳が分からなくなった結果として、「一時的に、現金や預金へ資産が避難する」という状況が起きたのである。しかし、私の記憶では、「このような状態は、ほんの数日しか継続せず、すぐに、本命の商品へと資金が流れ始めた」という状況でもあったのだが、今回も、同様の動きが想定されるようだ。

  つまり、現在の状況下では、「預金」や「現金」は、決して、安全な資産とは言えず、間もなく、「本当に安全だと思われる資産に対して、世界中の資金が殺到する」という状況が予想されるのである。また、「なぜ、今回のような、金融市場の乱高下が起きたのか?」を考えると、結局のところは、「権力の暴走」が行き詰まりを見せたために「市場のコントロールが効かなくなった」という状況が考えられるようである。

  別の言葉では、「世界的な金融大戦争」が、大きな分岐点に差し掛かった結果として、転換点に特有の「波が高くなる状態」が起きた可能性のことである。そして、今後の展開として考えられることは、膨大に膨れ上がりながらも、コントロールが効かなくなった「世界のマネー」に関して、「暴走」が起きることだが、実際には、「ボトルネック・インフレ」という言葉のとおりに、「大量の資金が、小さな実物資産市場へ、大量に流れ込む」という状況が考えられるようである。

  つまり、すでに始まった「世界的な国債価格の下落」が、より一層、進行し、結果として、先進国の「通貨制度」や「金融システム」に関して、大きな不安感が出始めることが予想されるのだが、このような状況下で起きることは、本当の「お金」である「金(ゴールド)」が、改めて見直されることでもあるようだ。(2013.6.25)

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錦の御旗

  6月13日に発表された「川崎重工業の社長交代」については、たいへん驚かされたが、実際には、マスコミの報道のとおりに、典型的な「クーデター」でもあったようだ。つまり、「権力者」である「社長」の暴走に対して、「会社のため」という「大義名分」を掲げて、役員が反乱を起こしたようだが、このことは「現代社会の縮図」とも考えられるようである。つまり、今後は、いろいろな「組織」や「システム」で、同様のことが起きるものと考えているが、具体的には、「北朝鮮」などであり、現在では、「権力の暴走」から「民衆の抵抗」が起きる可能性のことである。

  また、このような「クーデター」については、過去の歴史において、頻繁に見られたことでもあったのだが、「明治維新」の時の「官軍から賊軍へ」という大転換も、一種の「クーデター」だった可能性があるようだ。つまり、「黒船の到来」以降、「幕藩体制の行き詰り」が明らかになっていながらも、依然として、「徳川幕府」は、「旧来の体制を維持すること」に奔走していたのである。

  そのために、「新興勢力」である「薩長土肥の連合軍」の企みにより、「鳥羽伏見の乱」が起きたものと考えているが、この時に力を発揮したのが「錦の御旗」だった。そして、結果としては、「その年が明治元年となり、新政府が創られた」という状況でもあったのだが、このことを、現在に置き換えると、いろいろな点が見えてくるようである。

  つまり、現在の「資本主義」についても、「約250年」という期間にわたり継続してきたのだが、実際には、「行き過ぎたマネーの大膨張」により、ほとんど「制度疲労の状態」になっているからである。また、このような状況下で起きていることは、「国債を守る陣営」と「金を信用する陣営」との間での、激烈な「金融大戦争」だと考えているが、残念ながら、日本では、ほとんど理解されていないようである。

  そのために、今後は、何らかの「錦の御旗」が出現することが想定されるようだが、このことは、「民衆の不満」ではないかと考えている。つまり、「自分の生活」に不安感を抱いた民衆が、「雪崩を打ったように、一挙に、新たな勢力に加わる」というような事態のことだが、このことは、すでに、ヨーロッパから始まったようである。具体的には、「キプロスの財産税」をキッカケにして「ヨーロッパの人々が、慌てて、金や銀を買い始めた」という状況のことであり、間もなく、「日米でも、同様の事態が発生する可能性」が高くなっているものと考えている。(2013.6.17)

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アベノミクスの落とし穴

  先日、民放の「時事放談」という番組で、「藤井裕久元財務大臣」が、たいへん興味深い意見を述べていたが、それは、「アベノミクスの落とし穴」であり、具体的には、「インフレのリスク」のことだった。そして、現在のような状況下では、世界の資金は「国際商品」に流れていく可能性があるとも指摘していたのだが、このことは、たいへん「的を射た意見」であり、藤井氏の「見識の深さ」を垣間見たようにも感じた次第である。

  このように、現在では、いろいろな識者が「アベノミクス」に対して、さまざまなコメントを述べ始めており、この過程で、多くの国民が「本当の金融危機」を認識し始めているようである。しかし、ほとんどの場合において、まだ「表面的な意見」が多いようにも思われ、結果として、「なぜ、現在の金融混乱が起きたのか?」、あるいは、「今後、どのような事が起きるのか?」が、ほとんど理解されていないようにも感じられるのである。

  また、多くの人々は、「急増する日本の国家債務が、今後、どのようにして解決されるのか?」という点に対して、ますます、大きな不安を抱きつつあるようだが、この時に起きることが「資金の逃避」であり、実際には、藤井氏が指摘するように、「大量の資金が、国際商品に流れる」ということが、過去の歴史から見て取れるのである。ただし、藤井氏が想定している「国際商品」は、「原油」や「食料品」などのようだが、この点については、大きな異論が存在するものと考えている。

  具体的には、今までの推移を考えると、これから「世界の資金」が集中するのは、「金」や「銀」などの「貴金属」、そして、「食料品」であり、「原油」については、「シェールガス」の存在により、「以前のような値上がりは避けられるのではないか?」とも考えられるからである。このように、これから想定されることは、本当の意味での「インフレ」であり、このことは、「世界中の人々が、現代の通貨に対する信頼感を失う」ということが、根本的な原因とも言えるのである。

  そして、アベノミクスの問題点としては、「実体経済の成長」を考慮しながらも、「マネー経済」の根本である「通貨の信用」については、「先送りの姿勢」を取っていることが指摘できるようだ。つまり、現在では、「黒田日銀総裁」と協調して、「国家の借金を、一挙に棒引きにする政策」を画策しているようだが、この時の問題点が「金利上昇」であり、その時には、「経済成長」にとって必要不可欠な「資金」について、大きな問題が発生する可能性が存在するのである。(2013.6.17)

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量的緩和の縮小

  現在では、「量的緩和の縮小」が懸念され始めているが、この時のコメントを見ると、まさに、「理屈の罠」とも言える状態に陥っているようだ。具体的には、「景気の悪化」を示す指標が出ると、「量的緩和」が継続する期待が出るために、「株価が上がった」と考えられているのである。つまり、「景気が悪いから、株価が上昇した」と言わんばかりの状況でもあるようだが、このことは、極めて短絡的な意見であり、実際には、まったく違ったことが起きているものと考えている。

  具体的には、「量的緩和の縮小」が意味することは、今まで行われてきた「中央銀行のバランスシートを大膨張させて、国債を買い支える」という、いわゆる「リフレーション政策」が、すでに「行き詰りの状態」になっているということである。そのために、「出口戦略」や「秩序ある撤退」が模索され始めているようだが、この時の問題点が、「どのようにして、長期金利をコントロールするのか?」ということである。

  つまり、「黒田日銀総裁」も認めているように、「短期金利とは違い、長期金利はコントロールが難しい」ということであり、実際には、「国債の買い支え」が終了した時には、「長期金利が、一挙に、急騰する(国債価格は下落)」という状況が想定されるのである。そのために、「徐々に、金利を上昇させる」という「秩序ある出口戦略」が考えられているようだが、「5月23日」以降の金融市場を見ると、「思惑とは、まったく違った動きになっている」とも言えるのである。

  具体的には、「日銀のバランスシート」において、「5月20日」から「5月31日」までの期間に、「総額」と「国債保有残高」、そして、「当座預金残高」が「7兆円」以上もの増加となっているのである。つまり、月間ベースでは「約20兆円」という計算になるほどのスピードで、「日銀が、大量に国債残高を増やしている」ということが見て取れるのだが、一方で、「国債価格」については、「今までとは違い、上昇のスピードが遅くなっている」ということも理解できるのである。

  別の言葉では、「金利の上昇に慌てた黒田総裁が、慌てて、国債の残高を増やしている」という状況が考えられるようだが、この結果として、再度、「プログラム売買」が誘発されたようである。つまり、「円高、株安、そして、国債価格の上昇」ということだが、この点については、現在、「大きな歪み」が発生しており、実際には、「力任せの円高や株安」に関して、間もなく、大きな反動が来るものと考えている。(2013.6.7)

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短期借りと長期貸し

  現在、先進国では「超低金利の状態」が当然の事として考えられているようだが、これから想定される「出口戦略」や「量的緩和の縮小」の時に憂慮すべき点は、「短期借り」と「長期貸し」の問題点だと考えている。具体的には、バランスシートにおける「資金調達」と「投資」との関係のことだが、多くの場合において、「資金面の行き詰り」の要因となるのが、「短期資金を調達して、長期の投資に固定する」ということだからである。

  例えば、「0.1%の資金を3ヶ月間調達して、0.8%の10年国債に投資する」という運用を考えると、現時点では、「0.7%の利ザヤ」が存在するわけであり、今までのように、「歴史的な超低金利状態」が継続していた時には、たいへん有効な運用方法でもあったのである。しかし、これから想定される「金利の上昇期」においては、「調達金利の上昇」が、当然の事として発生するわけであり、具体的には、「3ヶ月金利が1%にまで上昇する」という変化が起きた時には、「0.2%の逆ザヤ」になってしまうのである。

  つまり、「10年国債に投資する」ということは、「ある一定の金利で、資金を10年間、国に貸し出す」ということを意味しており、実際には、「資金の固定化」という状態になってしまうのである。そのために、「短期で資金を調達して、長期投資に固定する」ということは、極力避けるべきこととも言えるのだが、現在のように、「歴史的な超低金利が、長い期間持続した」という状況下では、「いろいろな投資家が、このような状況になっている」ということが考えられるようである。

  別の言葉では、「金利の上昇は有り得ないことだ」という考えが広まった結果として、「金利の上昇」に対して、きわめて敏感な社会が形成されたものと考えているが、このことが、現在の「量的緩和の縮小」がもたらすリスクとも言えるのである。特に、現在の日本のように、「10年国債の金利が0.8%前後に位置している」というように、「歴史上、どの国も経験したことが無いほどの超低金利状態」に慣れきった国民にとっては、これからの変化は、衝撃的なものになる可能性があるようだ。

  ところが、一方で、「失われた20年間」を乗り切ってきた民間企業においては、「実質上、無借金の会社が、全上場企業の半数にも達する」というほどに、会社内容が改善しているのだが、これからの注目点は、「国家の財政危機」を象徴する「国債」と「民間企業」を代表する「株式」との、「どちらが安心して保有できる資産なのか?」に関する国民の判断でもあるようだ。(2013.6.7)

本間宗究のコラムhttp://www.tender-am.com/ja/column.html  を許可を得て転載。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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