インフレのダブルショック
8月19日付けのブルムバーグに「インフレのダブルショック」のコラムが掲載されたが、内容的には、「ベテラン投資運用者の経験的な勘は尊重できるものの、理論的には、いろいろな過ちが存在する可能性」が指摘できるものと感じられた次第である。具体的には、「ノルウエー中央銀行投資管理部門(NBIM)のニコライ・タンゲン最高経営責任者」が、「今後、インフレが高進したときには、株式と債券双方のリターンが打撃を付ける」という警告を発した状況のことである。
つまり、現在の最大の脅威は「インフレの高進」であり、「今回は、従来のインフレサイクルが繰り返されない可能性がある」と述べているわけだが、この時の問題点は、「1971年のニクソンショック」から始まった「現代の通貨制度」、すなわち、私が提唱する「信用や錯覚だけを本位とした信用本位制」が理解されていない事実である。別の言葉では、「なぜ、長期間にわたり、超低金利状態が継続し、また、さまざまな商品価格が高騰を継続しているのか?」という点に関する分析が不測している状況のことである。
より具体的には、「1980年代初頭から始まったデリバティブの大膨張」のことであり、また、「金融商品が産み出したデジタル通貨の実情」のことでもあるが、現在の状況としては、「デジタル通貨の枯渇」と「マネー経済から実体経済への資金の染み出し」が指摘できるものと考えられるのである。つまり、「超低金利の蓋」により覆われた「マネー経済」の内部で、「デジタル通貨の枯渇」が始まり、その結果として、「実体経済への資金移行」が始まったものと想定されるのである。
別の言葉では、「マネーやインフレの実情」が、徐々に理解され始めた結果として、「政府や通貨への信頼感」が激減し始めている状況のことでもあるが、この点に関して、最も注意すべき展開は、「国債価格の暴落が始まった時に、先進各国の中央銀行が、どのような手段を講じるのか?」ということである。つまり、「国債の大量買い付けが継続不能な状態となり、金利が急騰を始める展開」のことだが、このような状況下では、「1991年のソ連」」や「1923年のドイツ」と同様に、「無制限の紙幣大増刷」が始まるものと考えられるのである。
より具体的には、古典的な意味での「大インフレ」でもあるが、この点に関して、最近、海外で注目されている点は、「ニクソンは、一時的に、金(ゴールド)と通貨の交換を停止しただけだった」という事実である。(2021.8.19)
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5000年来の低金利
現在でも、人々の興味と関心は「デルタ株の爆発的な感染」に向かっているものと思われるが、この点に関して、私が感じることは、その裏側で進行している「日経新聞の金利に対する態度変化」である。具体的には、「8月9日」と「8月24日」に、「意図的な国債バブル」に関する記事が掲載された状況のことだが、実際には、「2015年に英国中央銀行のエコノミストが語ったコメント」が、現在になって取り上げられているのである。
より具体的に申し上げると、「我々は、意図的に、史上最大の国債バブルを膨らませてきた」というものだが、この事実に関する注目点は、「なぜ、今になって、このようなコメントを発信し始めたのか?」ということである。そして、この理由として挙げられることは、今まで詳しく説明してきたとおりに、「現在、デリバティブのバブル処理ができなくなり、連鎖的な破裂を待っている可能性」である。
より具体的には、「2008年前後のGFC(金融大混乱)」という「金融の大地震」で発生した「インフレの大津波」が、その後、「10年以上の時間をかけて、いよいよ、世界全体を襲い始めた状況」のことだが、現在では、どのような手段をもってしても、この事実が隠しきれなくなった段階とも思われるのである。つまり、「2015年から現在までは、意図的な国債バブルの発生により、デフレ状態の演出が可能だった」という状況でもあったが、現在では、「世界的な資金が、実物資産への移行を始めたことにより、インフレが隠しきれなくなった状態」とも考えられるのである。
そのために、現在、先進各国の政府や金融当局者が意図することは、「金利上昇に備えて、徐々に、警告的なコメントを発出すること」とも想定されるが、実際には、「5000年来の低金利」が象徴するとおりに、「これから想定される金融大混乱は、人類史上、未曽有の規模になる可能性」が存在するのである。つまり、「1971年のニクソンショック」から始まった「信用本位制と呼ぶべき通貨制度」は、現在、破綻の危機に瀕するとともに、「紙幣の大増刷」により、「金融界の白血病」に見舞われる恐れが存在するのである。
具体的には、「デジタル通貨の枯渇」により、「意図的な国債バブルが破裂する可能性」のことでもあるが、この時の注目点は、「国債バブルの裏側に存在するデリバティブのバブル」とも言えるのである。つまり、「1980年代の初頭から発生したデリバティブの大膨張」は、現在でも、「約6京円」もの規模が存在し、「国債や社債」などとともに、「目に見えない金融ツィンタワー」とでも呼ぶべき状態となっているのである。(2021.8.24)
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二種類の金融混乱
現在、「世界的な利上げ」が議論される状況となっているが、このことは、人々の興味と関心が「大インフレ的な金融混乱」へ移行した事実を表しているものと考えている。つまり、「金融混乱」には、「大恐慌型の金融混乱」と「大インフレ型の金融混乱」という二種類が存在するわけだが、実際には、「1929年のアメリカ」と「1970年代のスタグフレーション」が、典型的な「大恐慌型の金融混乱」とも言えるのである。
そして、「1923年のドイツ」や「1991年のソ連」が、いわゆる「大インフレ型の金融混乱」であり、両者の違いとしては、「実体経済の崩壊」と「マネー経済の崩壊」が指摘できるものと考えている。つまり、現在、人々が恐れているのは、「株価の暴落」という「大恐慌型の金融混乱」とも言えるが、このことは、「政府の財政や通貨制度が安定している状況下で、実体経済の悪化が金融を混乱に陥れた状況」のことである。
そして、「大インフレ型の金融混乱」は、「政府の債務が返済不能となり、紙幣の大増刷を実施した状況」が根本的な原因であり、この時には、「株価や商品価格の一時的な大暴騰」が発生することも見て取れるのである。つまり、「お金」には、「ストック(残高)であり、インフレ(通貨価値の下落)でしか消滅しない」という性質が存在するが、現在では、「未曽有の規模にまで膨らんだデジタル通貨の発行残高」に限界点が訪れるとともに、間もなく、「大量の高額紙幣発行」が予想される段階となっているのである。
別の言葉では、「株価の暴落」ではなく、「債券価格の暴落(金利の急騰)」を恐れるべきだということが、以前から申し上げてきたことだが、現在では、ようやく、世界的な金利上昇が始まろうとしているのである。そして、この時の注意点としては、「債権価格の急落は、ほぼ瞬時に発生する」という展開でもあるが、この理由としては、「株式と違い、債券は、金利だけを取引する商品である」という事実が指摘できるのである。
しかも、今回は、「1980年代初頭」から始まった「デリバティブの大膨張」と、それに伴う「世界的な金利低下」が大きな注目点であり、このことは、現在の「デジタル革命」と「恩恵を受けた業種」が、大きな転換点に遭遇する可能性を意味しているのである。つまり、今までは、「大量の資金」が存在したものの、今後は、「資金の実質的な枯渇状態」に見舞われるために、「どのような商品が、我々の生活にとって、本当に必要なのか?」が吟味される時代、すなわち、「購買力の不足により、新商品を作っても売れず、商品が、命がけの飛躍を迫られる時代」が到来する可能性のことである。(2021.8.27)
本間宗究のコラムhttp://www.tender-am.com/column.html より許可を得て転載。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion11323:210925〕