失われた30年の功罪
日本の「失われた30年」も、間もなく、大きな転換期を迎えるものと考えているが、この理由としては、今までのような「金融抑圧政策」が実施不能となる可能性が指摘できるものと考えている。つまり、1999年から始まった「日本の実質的なゼロ金利政策」については、基本的に、「中央銀行が、国民の資金を利用して、政府や民間銀行を救済した状況」だったことも見て取れるのである。
より具体的には、「個人が保有する大量の預金などを利用して、国債を買い付け、超低金利状態を作り出した状況」のことだが、現在の変化としては、「日銀の国債買い付けが限界点に達し、反対に、売却を始めた展開」が指摘できるのである。別の言葉では、「日銀のバランスシート残高」が700兆円を上回り、その結果として、「当座預金」ではなく、「日銀券」の増加により、資金繰りを賄わなければいけなくなり始めた状況のことである。
つまり、現在の「日本」は、「1945年当時の敗戦時」と似たような状況となっているために、今後は、「何らかの金融面における大事件」が発生するとともに、「人々が、一斉に、預金を実物資産に交換する」という、いわゆる「換物運動」が始まるものと想定されるのである。しかも、今回は、「日本」のみならず、世界的な「金融敗戦」が、広く認識され始める展開とも想定されるが、このような状況下で考えなければいけない点は、「これから、どのような変化が発生するのか?」ということである。
より詳しく申し上げると、過去数十年間は、「お金が神様となった時代」であり、実際には、「大量のデジタル通貨が、人々の心を変化させた時代」だったが、このことは、「カール・ポランニー」が指摘する「悪魔のひき臼で、心を壊された状況」のようにも感じられるのである。つまり、現在では、「お金のためなら、どのようなことでも行う」という意識が、世界全体に広がったものと思われるが、今後の注意点は、「神から紙への大転換」、すなわち、「大量に増刷された紙幣が、コンピューターネットワークの中を流れることができない」という事実に、世界中の人々が気付かされる可能性である。
別の言葉では、今後、「DX革命」の悪影響が大きく出始めるものと思われるが、この時の注意点は、「今後の2、3年間に、どのような形で、インフレが進展するのか?」である。つまり、最初は、「金利の上昇」という「預金保有者にとってのメリット」が挙げられ、この時に恩恵を受けるのは、「失われた30年間に、預金を保有していた人々」であるものの、有効期限は、その後の「ハイパーインフレ」までとも予想されるのである。(2022.1.7)
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中央銀行のバランスシート
現在、「世界的な金融政策」において、人々が注目しているポイントは、「テーパリングの開始時期」であり、また、「中央銀行のバランスシートが、どのようにして縮小していくのか?」という方法論とも思われるが、実際には、「全く違った展開」を想定する必要性があるものと考えている。つまり、「日米欧の中央銀行」については、すでに、「各国のGDPと比較して、未曽有の規模にまで大膨張した状況」となっているために、「今後のバランスシート縮小」については、きわめて実施が難しい状況とも言えるのである。
そのために、これから予想される展開は、「1945年の日本」などと同様に、「バランスシートの再拡大により、国家の借金を減らす方法」が選択されるものと考えているが、この時の問題点としては、やはり、「人々の意識と行動が、どのように変化するのか?」が指摘できるものと感じている。つまり、「通貨」の基本は、「国家に対する人々の信用」にあるために、今後は、すでに始まった「預金価値の実質的な目減り状態」から「預金を実物資産へ移行させる展開」も想定されるのである。
より詳しく申し上げると、「パウエルFRB議長」が指摘する「FRBのバランスシート縮小」については、「保有している国債などの売却」を意味しているために、「大恐慌を引き起こす可能性が危惧され、実施不能な状況」とも考えられるのである。そして、実際の展開としては、「1991年のソ連」と同様に、「国債の買い手が消滅した結果として、一挙に、紙幣の大増刷に移行する事態」も予想されるのである。
ただし、このような状況下で発生する事態は、以前から指摘しているとおりに、「紙幣は、コンピューターネットワークの中を流れることができない」という「金融面の白血病」とも言えるのである。つまり、どのような状況下でも必要なことは、「最悪の事態を想定して、前もって準備する態度」だと感じているが、現在は、この点が完全に無視された状況のようにも感じられるのである。
別の言葉では、2年ほど前から始まった「コロナショック」と同様に、「実際の危機的状況に遭遇して、初めて、事態の深刻さを憂い始める状態」のことでもあるが、実際のところ、現在の「金融危機」については、「長い期間に蓄積された慢性病」のような状態とも言えるのである。そして、後は、「ハイパーインフレ」により、すべてをご破算にして、その後、「新たな通貨制度」が創り出される展開を想定しているが、今後の注目点は、「この意見に賛同する人々が、どれほど増えていくのか?」だと感じている。(2022.1.12)
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いつまでもあると思うな親とカネ
今年のキーワードは、「いつまでもあると思うな親とカネ」という諺だと考えているが、この理由としては、現在の「世界的な金利上昇」に関して、「歴史的な考察」が不足しているだけではなく、「根拠なき楽観論」が支配している状況だと思われるからである。別の言葉では、現状が、「1923年のドイツ」や「1991年のソ連」を彷彿とさせるような状況でありながら、実際には、過去のパターンと同様に、「本格的なハイパーインフレが始まるまで、ほとんどの人が、きわめて呑気に暮らしていた状態」のことである。
より詳しく申し上げると、「どれほど国家の借金が増えていても、決して、国家の破綻状態は訪れない」というように、「アウシュビッツの恩赦妄想」とでも呼ぶべき状態、すなわち、「自分自身がガス室に入るまで、多くの人々が、恩赦の期待を抱いていた状況」のようにも感じられるのである。しかし、実際には、すでに始まった「世界的なインフレや金利上昇」については、「デジタル通貨の枯渇」と「増刷され始めた紙幣が実物商品へ流れる動き」を意味しているために、「数か月以内に、ギャロッピング・インフレからハイパーインフレへの移行が予想される状態」も想定されるのである。
別の言葉では、「1923年のドイツで発生した約6ヶ月間のハイパーインフレ」については、その準備段階として、「約一年間のギャロッピング・インフレ」が存在したわけだが、現在の世界情勢は、まさに、このような状況とも思われるのである。つまり、今まで抑え込まれていた「金利」が反転することにより、「先進各国の国家財政、あるいは、中央銀行の資金繰りが、今後、急速に悪化する展開」のことである。
そして、この事実を、「通貨の歴史」の観点から考察すると、「1600年前の西ローマ帝国時代の末期」に酷似した状況であり、また、「その後の800年間は、純金に近い通貨が使用されていた状態」だったことも見て取れるのである。しかも、この時期は、それまでの「地動説」が「天動説」にすり替えられるとともに、「経済の成長」や「アリストテレスなどの学問」などが忘れ去られた時代だったのである。
このように、「西暦1200年頃から始まったルネッサンス(古代物質文明の復活)」以降、「経済の成長」と「マネーの膨張」が始まったわけだが、この時に特筆すべき点は、「1971年から始まった信用本位制とでも呼ぶべき通貨制度」である。具体的には、この「新たな通貨制度」が、「マネーの狂宴」、そして、「地球環境の悪化」を引き起こした主因だったものの、間もなく、おおきな大転換を迎えようとしている状況のことである。(2022.1.13)
本間宗究のコラムhttp://www.tender-am.com/column.html より許可を得て転載。
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〔opinion11732:220205〕