本間宗究(本間裕)の「ちきゅうブッタ斬り」(406)

著者: 本間宗究(本間裕) ほんまそうきゅう:ほんまゆたか : ポスト資本主研究会会員
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世界的なクラウディングアウト

現在の「世界的な金融混乱」に関しては、「三次元の経済学による理屈のこね合い」ではなく、「四次元の経済学による歴史的な推移の分析」、そして、「金融システムに関する正確な理解」が必要だと感じている。つまり、「実体経済の約10倍の規模にまで膨らんだマネーの残高」について、「民間企業と個人」や「民間金融機関」、そして、「中央銀行」の「それぞれの部門が、現在、どのような状態なのか?」を歴史的に理解することである。

別の言葉では、「2008年前後のGFC(世界的な金融大混乱)」の時期まで急成長した「デリバティブ(金融派生商品)」が、実際には、「民間金融機関の簿外(オフバランス)取引の拡大」によるものであり、また、その後の「量的緩和(QE)」が、「中央銀行のバランスシート拡大」によるものだった点などを、正確に理解することである。つまり、「デリバティブの大膨張」に関しては、「金融商品」と「デジタル通貨」が、ほぼ同時期に拡大したことにより、「世界の資金が、実物資産に流れず、従来のインフレが発生しなかった状況」だったことも見て取れるのである。

ただし、「2022年の変化」としては、「量的緩和(QE)の行き詰まり」、すなわち、「中央銀行のバランスシートにおいて、民間部門からの借り入れが難しくなった状況」を表すとともに、反対に、「量的縮小(QT)」、すなわち、「中央銀行のバランスシート残高の縮小」までもが実施されたことも理解できるのである。つまり、今までの「量的緩和」の期間には、「超低金利状態を作り出すことにより、中央銀行のみならず、民間部門にまで国債の保有を増やした展開」だったものが、現在の「量的縮小」では、「金利やインフレ率の上昇が、国債価格の下落を引き起こした状況」となっているのである。

より具体的には、最も避けるべき手法である「短期借り、長期貸し」が、多くの金融機関で採用されたために、現在では、「巨額の含み損や不良債権が、民間部門でクラウディングアウトを引き起こしている状況」のことである。つまり、現在では、「民間企業や個人」、そして、「民間金融機関」のみならず、「中央銀行」までもが、「バランスシートの非対称性」が引き起こした「巨額の不良債権」に悩まされ始めているのである。

しかも、今後の注目点としては、現在でも、報道が限られている「デリバティブの実情」が挙げられるが、実際のところ、過去数か月間は、「量的縮小」と「デリバティブの再膨張」が同時進行していた状況だったものが、今後は、「世界的な金融混乱」の加速により、「デリバティブのパンケーキクラッシュ」が、一斉に始まる可能性も想定されるのである。(2023.3.22)
 
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中央銀行の限界点

「クレディ・スイスの永久劣後債(AT1債)」については、「中央銀行の限界点」を示すとともに、「Too Big To Fail(大きすぎてつぶせない)」という「思い上がりの意識」から、「Too Big To Save(大きすぎて救えない)」という「現実を認識した意識」への転換を表す典型例となったものと感じている。つまり、「市場の規模は、中央銀行よりも巨大である」という「厳然たる事実」に、多くの人々が気付かされるとともに、「金融混乱への対処法」として、「最後の手段」である「紙幣の増刷」に訴えざるを得なくなった可能性のことである。

より詳しく申し上げると、今までは、「デリバティブのバブル崩壊」を隠蔽するために、「中央銀行のバランスシート膨張」という、いわゆる「リフレーション政策」に頼ってきたのだが、今回の「クレディ・スイスの救済買収」については、「中央銀行の見通しの甘さ」が露呈した大事件だったものと考えられるのである。つまり、「米国」を中心にして実施され始めた「量的縮小(QT)」については、「デリバティブの残高を再膨張させながら、金利の上昇により、中央銀行の残高を減らそうとする無謀な政策」だったものと理解できるのである。

別の言葉では、「根源的な問題」である「デリバティブのバブル解消」には目を向けずに、「金利上昇により、国債の表面的な魅力を増やそうとした可能性」のことでもあるが、実際には、「短期借り、長期貸し」の問題が、米国で表面化したことにより、裏に隠されていた「デリバティブのバブル」までもが、今回の「クレディ・スイスの破綻」により、あぶり出されてきたものと想定されるのである。

そして、このことが、私の想定していた「金融ツィンタワーの崩壊(パンケーキクラッシュ)」だと感じているが、この時の問題点は、「コンピューターネットワークの発展」により、「事件の発生が、瞬時に、世界に伝播する状況」でありながら、一方で、「紙幣がその中を流れることができない状況」とも想定されるのである。

つまり、「問題の発生と解決」に関して、「時間的な歪み」が発生するものと思われるが、実際には、「パニックに陥った人々が、慌てて、無謀な行動に走る可能性」である。そのために、今後の注意点としては、「決して、慌てずに、問題の本質を理解すること」が挙げられるともに、「過去の歴史を振り返りながら、以前の混乱期に、どのようにして問題の解決が図られたのか?」などを考える必要性が存在するものと感じている。(2023.3.27)
 
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金本位制と中央銀行

「2023年3月」から始まった「目に見えない金融ツィンタワーの崩壊」、すなわち、「約600兆ドルのOTCデリバティブ」と「約330兆ドルの世界債務」の「バブル崩壊」については、あまりにも規模が巨大すぎるために、「なぜ、このような異常なバブルが形成されたのか?」に関して、根本に遡って解明する必要性があるものと感じている。具体的には、「金本位制」と「中央銀行」の歴史を辿ることにより、「いつ、どのようなメカニズムで、マネーが大膨張したのか?」を理解することである。

そして、この点に関して、重要な役割を果たしたのが。「1816年にイギリスから始まった金本位制」であり、また、「19世紀の後半から始まった世界的な中央銀行の創設」とも考えている。つまり、「現物の金(ゴールド)を基にして、マネー(貨幣)の残高を増やす方法」としては、最初に、「兌換紙幣」という「金と交換可能な紙幣」の発行があったことが見て取れるのである。

また、その後の展開としては、「1933年のアメリカ」における「金貨本位制から金地金本位制への移行」が挙げられるが、このことは、「政府が金を没収することにより、より多くの兌換紙幣が発行可能になった状況」を表しているのである。つまり、「実体経済の成長に伴い、より巨額の資金が必要とされた状況」でもあったが、このような「商品と通貨の関係性」において、きわめて大きな意味を持ったのは、「1944年のブレトンウッズ体制」よりも、「1971年のニクソンショック」だったものと考えている。

具体的には、「通貨と実物資産との関連性」が断たれたことにより、「1971年以降、人類史上、未曽有の規模とスピードでマネーの大膨張が発生した展開」のことでもあるが、この時の注目点は、「商品と貨幣との関係性」とも言えるようである。つまり、「通貨の堕落」に関しては、「投資すべき商品」の喪失により、「民間銀行の成長」が止まり、「中央銀行のバランスシート膨張」が、根本的な原因のようにも感じられるからである。

より詳しく申し上げると、「2010年前後に成長が止まったデリバティブという金融商品」に関して、それまでは、「民間金融機関の簿外(オフバランス)取引」により、「民間部門におけるバランスシートの膨張」が可能だったのである。そして、結果としては、「中央銀行の紙幣増刷」を防ぐことができた状況だったが、今回の「世界的な金融混乱」については、「今までの努力が水泡に帰すような結果」をもたらすとともに、今後は、「ハイパーインフレ」が引き起こす「マネーの消滅」を考える段階に入ったものと感じている。(2023.3.28)
 
本間宗究のコラムhttp://www.tender-am.com/column.html より許可を得て転載。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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