現代版の徳政令
3月に発生した「米国銀行の連続破綻」と「クレディ・スイスの救済合併」については、「BIS(国際決済銀行)」や「先進各国の中央銀行」に対して、大きな決断を迫る事件だったものと考えている。つまり、それまでは、いわゆる「QT(量的縮小)」の実施により、「徐々に、中央銀行の健全性を取り戻す努力」がなされていたものが、「3月の事件」をキッカケにして、一挙に、「QE(量的緩和)」という「中央銀行のバランスシートを再膨張させる政策」へ転換せざるを得なくなった可能性のことである。
ただし、今回は、今までとは違い、「民間金融機関からの借り入れによるバランスシートの膨張が不可能な状態」となっているために、残された手段としては、旧来の方法である「紙幣の増刷」か、それとも、新たな手段である「CBDC(中央銀行デジタル通貨)の発行」が想定される状況とも言えるようである。そして、この時の問題点としては、「紙幣の増刷」が、「金融の白血病」、すなわち、「紙幣がコンピューターネットワークの中を流れることができない状態」を引き起こす展開も指摘できるのである。
そのために、現在では、「CBDCの発行」という可能性が、最も高くなっているようにも思われるが、この手法の問題点としては、「現代版の徳政令」とも思われるために、「国民の信頼感を、一挙に失わせる可能性」が指摘できるものと考えている。つまり、この方法は、現在の懸案である「目に見えない金融ツインタワー」、すなわち、「約600兆ドルのOTCデリバティブ」と「約330兆ドルの世界債務」の両方を、徐々に、あるいは、一挙に、「CBDC」に置き換える効果を持つものと思われるからである。
より具体的には、「民間に存在する借金や不良債権を、国家が、すべて肩代わりする方法」であり、その結果として、この方法が採用された場合には、「通貨への信用」が、完全に喪失する可能性も考えられるのである。別の言葉では、「80億人の換物運動」が、一挙に始まる可能性のことでもあるが、実際には、「食料を始めとした生活必需品」に対して、「大津波のような需要が発生する可能性」のことである。
そして、このことが、「論語」が指摘する「信なくば立たず」という状況を表わしており、「過去の歴史」では、頻繁に発生していたことも見て取れるのである。ただし、今回は、「1600年に一度」とも呼ぶべき「マネーの大膨張」や「世界的な大都市の発生」により、「人々の理解や認識」が遅れている状態とも考えられるために、今後は、未曽有の規模での大混乱が想定されるものと感じている。(2023.4.11)
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日本の超低金利政策
日銀総裁が「黒田氏」から「植田氏」に引き継がれたことにより、現在の「市場の関心事」は、「いつ、日本の超低金利政策が終了するのか?」に移行しつつある状況とも思われるが、この時に必要なことは、「1999年に、なぜ、ゼロ金利政策が実施され、その後、20年以上も、実質的に継続されたのか?」を考えることである。つまり、「金利上昇の条件が、日本で整ったのか?」を判断することでもあるが、この点を理解するためには、「1999年当時の金融情勢」を振り返る必要性があるものと感じている。
具体的には、「1997年から始まった世界的な信用収縮」のことでもあるが、この時の「日本の金融情勢」としては、「民間金融機関の負債である巨額な預金」、そして、「日本政府の負債である日本国債」に対して、「3%程度の金利を払うと、日本の金融システムや日本の国家財政が破たんする危機に見舞われていた状況」だったのである。そして、この時の救世主となったのが、「デリバティブの大膨張」であり、実際には、現在の「G―SIBs(グローバルな金融システム上重要な銀行)」を中心にして、「オフバランス(簿外)の勘定で、デリバティブの大膨張」が始まった状況のことである。
別の言葉では、「デリバティブの大膨張」により、「中央銀行のバランスシート大膨張が避けられた」という状況だったが、実際には、「中央銀行のバランスシート大膨張」が意味する「従来のリフレーション政策」から「紙幣の大増刷」へという道筋のことである。しかも、「約8000兆円から約8京円」という「デリバティブ残高の大膨張」により、「世界的な超低金利状態の発生」のみならず、その後の「デジタル通貨を活用したGAFAMなどの企業群の成長」へと繋がったことも見て取れるのである。
ただし、その後の注目点としては、「デリバティブバブルの崩壊」を象徴する「2008年のリーマンショック」と「その前後のGFC(世界的な金融大混乱)」であり、この結果として発生した変化が、その後の、「世界的な量的緩和(QE)」だったことも理解できるのである。別の言葉では、「デリバティブのバブル崩壊」を隠蔽するために、「もう一つの世界的な債務バブル」を発生させた状況のことでもあるが、現在は、これらの「目に見えない金融ツインタワー」そのものが、崩壊を始めていることも見て取れるのである。
そのために、現在、世界各国の中央銀行が模索しているのが、「CBDCの発行」とも思われるが、この点については、実現可能性が極めて低く、反対に、世界的な「ハイパーインフレ」の発生原因になるものと考えている。(2023.4.13)
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覚醒を始めたアメリカ国民
3月に発生した「米国の連続的な銀行破たん」をキッカケにして、「金融面におけるアメリカ国民の覚醒」が始まったと言われているが、具体的には、「自分の預金は、本当に安全なのか?」、あるいは、「自分のお金は、どの商品に投資すべきなのか?」などを考えながら、「金や銀のコイン」に対する需要が増加している状況のことである。別の言葉では、「お金とは、いったい、何だろう?」という疑問を、多くの人が持ち始めた状況のようにも感じられるが、この点については、私自身も、「1987年のブラックマンデー」の時に、同様の感情を、強く抱いたことを記憶している。
そして、その時から、「お金の歴史」を調べるとともに、「お金の謎」を考え始めたことも思い出されるが、このことは、「日本橋」から「中尊寺の金堂」へ向かい、「奥の細道を歩き始めたような状況」だったようにも感じている。つまり、私自身は、「お金の謎」を考え始めたものの、一方で、ほとんどの人々は、「日本橋」から「金閣寺」へ向かい、「東海道を歩き始めたような状況」、すなわち、「どのようにしてお金を儲けるのか?」という一点に、興味と関心が向かったことも見て取れるのである。
より具体的には、「カール・ポランニー」が指摘する「悪魔の引き臼」などに惑わされることにより、「お金儲けのためなら、どのようなことでも行う人々」が増えた展開であり、この結果として発生した現象が、「人類史上、未曽有の規模でのマネー大膨張」だったのである。つまり、「日本のバブル崩壊」以降、「大量の不良債権が発生し、日本のみならず、世界的な金融システムが崩壊寸前の状況」だった時に、米国の金融機関を中心にして、「デリバティブのバブル」が発生した展開のことである。
そして、この点については、「約600兆ドルのOTCデリバティブ」と「約330兆ドルの世界債務」という「目に見えない金融ツインタワー」に象徴されている状況ではあるものの、現在では、「2022年11月9日のFTX破たん」、そして、「2023年3月のシリコンバレー銀行の破たん」などをキッカケにして、「世界的な金融システムの崩壊」が本格的に始まったものと考えられるのである。
その結果として、最近では、多くのアメリカ国民が、37年前の私と同様に、「お金の歴史を調べることにより、お金の謎の解明に向かった状況」のようにも思われるが、現状は、まだ、「お金の根本が信用である」という点を理解した段階にすぎず、そのために、今後は、更なる金融混乱とともに、より深い理解へと進展するものと考えている。(2023.4.15)
本間宗究のコラムhttp://www.tender-am.com/column.html より許可を得て転載。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion13014:230512〕