インフレ大津波の第三波
現在、マスコミでは、「インフレが終了し、金利が再低下する」というような意見が頻出しているが、実際の状況としては、「インフレ大津波の二波から三波への移行状態」にあるものと考えている。つまり、「2008年前後のGFC(世界的な金融大混乱)」が「金融大地震」、であり、その時に発生した「インフレの大津波」が、その後の「量的緩和(QE)」の期間に、「金融のメルトダウン」により「国債や不動産などの市場で、さまざまなバブルを引き起こしてきた状況」のことである。
別の言葉では、「金融界のブラックホール」の中で、「インフレ指数に影響のない資産価格を上昇させた」という状況により、「2020年のコロナショック」までは、ほとんどの人々が、「インフレの大津波」に気づかなかったものと考えられるのである。つまり、「マネーの大膨張が、インフレ(通貨価値の下落)の真因である」という観点からは、数十年前から、本当の意味での「インフレ」が始まっていたものと想定されるのである。
そして、この事実に、世界中の人々が気づかされたのが、「インフレ大津波の第一波」である「コロナショック」であり、この時には、「需要の急減」がもたらす「実物商品価格の下落」が、その後、一挙に、「価格上昇を引き起こした」という展開だったものと想定されるのである。また、「インフレの第二波」としては、「ロシアによるウクライナへの軍事侵攻」が揚げられるが、この時には、「供給の急減」がもたらす「実物資産の価格上昇」が、その後、「価格低下により、インフレの終焉を想起させた」という状況だったのである。
つまり、「インフレの第一波と第二波」に関しては、「実物資産の需給関係によるインフレ」に過ぎなかったものの、今後は、「金融システムの崩壊がもたらすハイパーインフレ」への移行が想定されるのである。別の言葉では、「中央銀行のバランスシート」に関して、今までは、「リフレーション政策」という「民間からの資金借り入れによる残高膨張」が可能だったものの、現在では、「財政ファイナンス」という「中央銀行による国債の直接引き受け」でしか、国家の資金繰りが賄えなくなったものと理解できるのである。
より具体的には、「中央銀行のバランスシート縮小」は、「世界的な大恐慌」が引き起こされる可能性があるために、現在、先進各国の政府や中央銀行が執れる手段は、再度の、「中央銀行のバランスシート大膨張」ともいえるのである。そして、実施方法としては、「紙幣の増刷」か「CBDC(中央銀行デジタル通貨)の発行」が考えられるものの、どちらの場合も、「通貨への信用」を一挙に失わせる効果が想定されるようである。(2023.7.15)
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デリバティブとCBDC
現在、多くの国々で採用が予定されている「CBDC(中央銀行デジタル通貨)」については、20年ほど前に大膨張した「デリバティブ」との正確な比較が必要な状況のようにも感じている。つまり、2000年前後に「約8000兆円」の規模だったデリバティブ(金融派生商品)は、その後、2008年前後に「約8京円」の規模にまで大膨張し、結果として、「世界的な低金利状態」や「債務の大膨張」をもたらしたのである。
別の言葉では、「1997年の世界的な信用収縮」を受けて、「人類史上、きわめて異例な金融政策」が実施されたわけだが、具体的には、「G-SIBs(グローバルなシステム上重要な銀行)を中心にして、オフバランス(簿外取引)、かつ、OTC(相対取引)によるデリバティブの大膨張」のことである。つまり、「民間銀行のバランスシートにおいて、デリバティブという金融商品とデジタル通貨が同時に大膨張した」という展開だったために、結果としては、「大量に創られたデジタル通貨が、民間金融機関の不良債権のみならず、国家の財務状況の改善に貢献した」という状況だったことも理解できるのである。
また、その後の「量的緩和(QE)」に関しては、「リフレーション政策」という「中央銀行のバランスシートを膨張させる方法」だったものの、「民間からの資金借り入れ」と「国債の買い付け」を実施することにより、「デフレ」や「超低金利状態」を維持することが可能だったものと考えられるのである。そして、今回も、「CBDCの導入」により「デリバティブの時と同様に、問題の先送りに関する成功体験」を再現しようとしているものと思われるが、今回の重要なポイントは、「CBDCで創り出される通貨が、紙幣の増刷と同様に、実物資産へ急激に流れ込む可能性」とも言えるのである。
より詳しく申し上げると、「デリバティブの大膨張」の場合には、「資金の受け皿となる金融商品」が存在したために、「インフレ指数に含まれる商品への資金流入」が少なかったものの、これから発行される「世界的なCBDC」に関しては、「既存の通貨や通貨制度、そして、発行する政府や中央銀行への信頼感」を、一挙に、失わせる効果が存在するものと想定されるのである。つまり、「お金(マネー)」は、「人々の信用」を形にしたものであるために、多くの人々が、「発行されたCBDC」に関して、「誰のために、また、なぜ、必要なのか?」という疑問を抱くものと考えられるのである。そして、結果としては、「貨幣の流通速度」が高まる可能性、すなわち、「受け取ったCBDCを使い、市場で食料品などへと交換する動き」が発生するものと考えられるために、今後は、世界的な「ハイパーインフレ」が急激に発生する可能性が危惧される状況のようにも感じている。(2023.7.20)
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貨幣の歴史
今から36年前の「1987年の10月」、「ブラックマンデー」に大きな衝撃を受けた私は、「1929年の大恐慌」や「1923年のドイツのハイパーインフレ」などについて、詳しく調べ始めたが、この時に驚かされたのが、「ハイパーインフレの凄まじさ」であり、その時から、「次のハイパーインフレを、どのようにして乗り切るのか?」を考え続けてきたという状況でもあった。
より具体的には、「約2000年に及ぶ貨幣の歴史」を調べながら、「貨幣の量と質の変化」を研究してきたが、この点で特筆すべきは、やはり、「1971年のニクソンショック以降、きわめて大きな変化が世界の金融市場で発生した事実」だと感じている。つまり、それまでの「金本位制」が廃止されるとともに、「デジタル通貨の全盛期」を迎える展開となったことが理解できるのである。
しかも、現在では、かつて日本が経験した「約2500兆円の土地バブル」、すなわち、「日本を売れば、日本以外の全世界の土地が買える」と言われたバブルを、はるかに凌駕する「約8京円ものデリバティブバブル」までもが発生しているのである。つまり、「人類が『貨幣』を発明してから、約五千年から六千年の歴史がある」と言われているが、今回の「デジタル通貨のバブル」に関しては、「1600年ほど前の西ローマ帝国にまで遡らなければ、比較できるようなマネーの大膨張が存在しない状況」とも言えるのである。
別の言葉では、「西暦400年から西暦1900年前後までの約1500年間」は、ほとんどが「金貨が通貨として使用されていた」という状況であり、「マネーの残高」は、「金や銀の産出量」によって制限されていたことも見て取れるのである。より具体的には、「今から90年ほど前、1933年までのアメリカでは、金貨や銀貨が通常の通貨として使われていた」という状況だったのである。
しかし、現在では、ご存じのとおりに、「紙幣」だけではなく、「デジタル通貨」が主流となるような時代が訪れたわけだが、今後の問題点としては、やはり、「お金(マネー)の根本である信用」に関して、「通貨に対する信用が、一瞬にして崩壊する可能性」とも想定されるのである。つまり、「デジタル通貨が、現代版の『裸の王様』である事実に、世界中の人々が気付かされる可能性」が想定されるわけであり、このキッカケとなるのが、現在、世界的に注目を浴び始めている「CBDC(中央銀行デジタル通貨)の発行」のようにも感じている次第である。(2023.7.21)
本間宗究のコラムhttp://www.tender-am.com/column.html より許可を得て転載。
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〔opinion13187:230818〕