本間宗究(本間裕)の「ちきゅうブッタ斬り」(467)

著者: 本間宗究(本間裕) ほんまそうきゅう:ほんまゆたか : ポスト資本主研究会会員
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1%の長期金利

5月22日の「日本の債券市場」では、「10年国債の金利が、11年ぶりに1%に乗せた」というニュースが、大きな話題となったが、この点については、「今までの債券市場が、どれほど異常な状態に陥っていたのか?」を表している状況のようにも感じている。別の言葉では、「今後、債券市場が、きわめて大きな価格変動に見舞われる可能性」も表しているものと思われるが、その理由としては、従来の「長期金利は、政府や金融当局者が操作できない性質のものである」という認識が失われていることが見て取れるからである。

より詳しく申し上げると、現在の「金融市場の常識」としては、「短期金利のみならず、長期金利も、金融当局者の思いのままに操作可能である」という理解のようにも思われるが、実際には、「1990年代の後半から始まったデリバティブの大膨張」が、前述の「金利に関する意識変化」の根本的な原因とも思われるのである。つまり、「1971年のニクソンショック」から始まった「信用本位制と呼ぶべき通貨制度」においては、「政府や一部のメガバンクが、創造された大量のデジタル通貨を使うことにより、金融市場をコントロールした状況」だったものの、今後は、この点に関するきわめて大きな反動が発生する展開も想定されるのである。

具体的には、価格操作されてきた「債券」のみならず、「株式」や「為替」、そして、「商品」などの価格が、すべて大きな変動に見舞われる可能性であり、この点については、今後の相場により、実態が明らかになるものと想定している。つまり、今回の「11年ぶりにつけた1%の長期金利」は、「異次元の金融緩和」と呼ばれた「黒田前日銀総裁の金融政策」が、「どれほど異常なものだったのか?」を意味しているものと思われるのである。

そのために、これから必要とされることは、「約760兆円」にまで大膨張した「日銀のバランスシート」に関して、「今後、どのような変化が発生するのか?」を考えることであり、実際には、「1945年の日本」と同様に、「さらなる残高膨張により、国家の債務残高を実質的に減らす方法」が取られるものと考えている。つまり、「ハイパーインフレを発生させ、国家の借金を棒引きにする方法」のことでもあるが、今回の問題点は、やはり、「世界全体が、同様の問題に悩まされている状況」とも言えるのである。

別の言葉では、「文明法則史学」が教える「800年ごとの東西文明の交代」が発生している状況とも思われるために、今後の対応策としては、「歴史の全体像」を考えながら、丁寧な「未来予測の実行」が挙げられるものと感じている。(2024.5.23)
 
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レイ・ダリオの歴史観

5月26日の日経新聞に「レイ・ダリオ氏の特集記事」が掲載されていたが、内容としては、「過去500年間の歴史を見ることにより、現在の世界的な金融混乱が理解できる」というような「従来からの彼の意見」の紹介だった。つまり、「オランダのチューリップバブル」や「時は金なり」という思想が誕生した「西暦1600年前後」からの歴史を見ることにより、「現在の世界的な金融混乱が説明可能である」との認識とも思われるが、実際には、はるかに多くの難しい問題が存在する状況のようにも感じられるのである。

より詳しく申し上げると、私自身は、「1987年のブラックマンデー」に大きな衝撃を受け、その後、「金融の歴史」をさかのぼり始めたものの、この過程で突き当たった問題点が、「西暦1600年以前の世界的な金融情勢は、どのような状況だったのか?」ということだったのである。別の言葉では、「西暦400年前後にピークを付けたものの、その後、崩壊を迎えた西ローマ帝国」が、現在の世界的な情勢と酷似している点は、西洋でも、多くの人々が、指摘し始めている状況でありながら、「西暦400年から1600年までの展開については、ほとんどの人が無視している状況」のことである。

そのために、私自身も、さまざまな試行錯誤を繰り返した結果、ようやく到達したのが、「村山節の文明法則史学」であり、その後、「約30年間の検証」を経た後の現在では、「歴史の全体像」が見え始めるとともに、「共同体の規模がマネーの残高を決定するのではないか?」という仮説が出来上がった状況ともいえるのである。つまり、「マネー(お金)の根本」である「信用」が醸成され、現在のような「グローバル共同体」が形成されるためには、「1000年以上の永い時間」が必要だった可能性のことである。

そして、このような観点から、「今後、どのような世界や社会が展開するのか?」を考えると、実際には、「1600年前の世界情勢が、最も参考になるのではないか?」とも感じている次第である。つまり、現在の「世界的な信用消滅」が意味することは、「約800年間も継続した西洋の唯物論的文明」の終焉を意味するとともに、今後は、「約800年間の東洋的な精神文明の時代」が幕を開ける状況のようにも感じられるのである。

別の言葉では、「マネー(お金)の追求」という「画一的な価値観」によって形成された「グローバル共同体」が、「数多くの小さな共同体(コミュニティー)」に分裂することにより、「多様な価値観」が生まれ始めている状況のことでもあるが、実際には、「歴史は繰り返す」という言葉のとおりに、「1600年前と似たような状態」とも思われるのである。(2024.5.26)
 
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皇帝主義の崩壊

100年ほど前に著された「シュペングラーの西洋の没落」という書では、「西暦2000年前後に皇帝主義が完成する可能性」が指摘されていたが、その後の展開を考えると、まさに、この通りの状況だったようにも感じている。別の言葉では、「権力のバブル化」とでも呼ぶべき状況が発生したものと思われるが、一方で、現在の注目点としては、すでに、「皇帝主義の崩壊」が始まった可能性が挙げられるものと考えている。

より詳しく申し上げると、「村山節の文明法則史学」が指摘するとおりに、「20世紀の後半には、民族大移動の前半部分である大都市への人口集中が発生した状況」だったが、この理由としては、シュペングラーの「大都市の貨幣と知性」が指摘できるようにも思われるのである。具体的には、100年前には、多くの人が予想できなかった「2000万人や3000万人もの大都市」が、世界各地に誕生した事実であり、また、この過程で大膨張した「世界のマネー」が、「金融面のグローバル共同体」を形成した状況のことである。

つまり、「共同体の規模拡大に伴い、人々の態度が隷従化に向かった可能性」であり、実際には、「全体と個人との関係性」がもたらした、「寄らば大樹の陰」や「長い物には巻かれろ」というような心理状態のことである。また、その結果として発生したのが、前述の「権力のバブル化」であり、実際には、「中国やロシアなどの独裁政治」であり、また、「西洋諸国における、政治権力の増大化がもたらした大衆迎合主義」とも思われるのである。

そして、このような「権力の暴走」に関しては、「国民の不満」が、大きなカギを握っているものと思われるが、実際の状況としては、「国民の反発が強くなるまで、このような状態が継続する可能性」も想定されるのである。具体的には、「ロシアや中国における独裁者への不満が表面化する可能性」であり、また、「西洋諸国において、国家財政状態の持続が難しくなる可能性」などのことである。

つまり、現在では、「権力者への不信感」が、世界的に高まっている状況であり、その結果として、「国外へ避難する人々」や「金融システムに影響されない資産への投資」などが急増していることも見て取れるのである。別の言葉では、「民族大移動の後半部分」が、すでに始まっている可能性も想定されるが、この時に参考になるのは、やはり、「1600年前の世界では、どのようなことが起こったのか?」の理解であり、実際には、「西ローマ帝国の崩壊」や「東洋の精神文明の勃興」のことであり、より具体的には、「中国の南北朝時代における仏教の隆盛」などが指摘できるものと感じている。(2024.5.28)
 
本間宗究のコラムhttp://www.tender-am.com/column.html より許可を得て転載。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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