1998年と2008年の金融混乱
今回の「農中の巨額損失」に関しては、「国内と国外で、大きな認識格差が存在する状況」とも思われるが、具体的には、「国内では、それほど心配する必要がないと考える人が多い状態」でありながら、「国外では、私と同様に、この事件をキッカケにして、世界的な金融システムが崩壊する可能性を危惧する人が増えている状態」とも言えるからである。別の言葉では、「1998年と2008年の金融混乱」を正確に理解するかどうかで、現状認識における格差が発生している状況のようにも感じられるのである。
より詳しく申し上げると、「1998年の金融混乱」については、基本的に、「日本の土地と株式のバブル崩壊」が主な原因であり、この時には、「日本を中心として、民間金融機関のバランスシート大膨張が発生した状況」だったことも見て取れるのである。つまり、「資産と負債が同時に大膨張したものの、バブル崩壊後は、資産価格だけが急減したために、大量の不良資産が発生し、金融システムが崩壊寸前に陥った状況」のことである。
そして、この危機を救ったのが、「欧米の金融機関で大膨張したデリバティブのバブル」であり、実際には、「オフバランス(簿外)でデリバティブの残高を大膨張させながら、デジタル通貨を大膨張させた展開」のことである。また、「2008年の金融大混乱」に関しては、「日本の土地バブルと比較して約30倍規模のデリバティブ大膨張」が限界点に達した結果として、いわゆる「QE(量的緩和)」という名目で、「中央銀行のバランスシート大膨張」が実施された状況だったことも理解できるのである。
つまり、「リフレーション政策」という「中央銀行が民間部門の資金を利用して国債などを買い付ける手法」が取られたものの、現在では、この手法が限界点に達したことも見て取れるのである。そして、現在では、「デリバティブのバブル崩壊がもたらした金融システムの崩壊危機」と「中央銀行が取れる手段の枯渇」というように、「世界全体で、通貨制度と金融システムが崩壊する可能性」が危惧されるほどの、きわめて危機的な状態とも言えるのである。
そのために、これから中央銀行が取れる手段としては、「CBDC(中央銀行デジタル通貨」の大量発行)か、あるいは、「古典的な紙幣の大増刷」しか残されていない状況とも想定されるが、問題は、この点の理解に関して、「日本」と「海外」とで、大きな開きが存在する状況であり、実際には、今回の「農中の巨額損失事件」からもわかるように、日本で、ほとんど危機感が存在しない状況のことである。(2024.6.24)
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カーブの先に見える世界
アメリカでは、最近、「behind of the curve(時代からの乗り遅れ)」や「ahead of the curve(時代の先取り )」などの表現が、以前よりも頻繁に使われ始めているようだが、このことは、「社会科学や言語の次元上昇」を表しているものと感じている。つまり、「三次元の曲線や曲り道」などの意味をもっていた「curve」という言葉が、現在では、「四次元の時代」の意味を持つ言葉として使われ始めているからである。
換言すると、「人々の興味と感心」が、「現実の理解」だけではなく、「未来予測」へと移行を始めた事実を表しているものと思われるが、この時の重要なポイントとしては、「直線的な思考法」の排除であり、実際には、「経済は成長すべきものである」というような短絡的な考え方から逃れることだと感じている。つまり、「過去100年間」を見ただけでも、「どのような商品が作り出され、また、その時に、どのような資金手当てが行われたのか?」に関して、きわめて劇的な変化が発生したことが見て取れるからである。
具体的には、現在の「デリバティブなどの金融商品」と「大量に存在するデジタル通貨」の例からも明らかなように、「100年前の金貨や自動車」などとは雲泥の差が存在することも理解できるのである。そして、このような「時代の変化」に関しては、現在、「800年に一度の東西文明の交代」が発生しているものと考えており、そのために、現在では、以前よりも、より一層、「未来予測」が難しくなっている状況とも想定されるのである。
より詳しく申し上げると、「シュペングラーの西洋の没落」や「村山節(みさお)の文明法則史学」を理解しない限り、「カーブの先の世界」が見えない状況とも思われるが、この点については、今後、「時代を先取りした人が常に成功者になる事実」が参考になるものと考えている。つまり、「時代の先駆者」と「一般大衆」の関係性のことでもあるが、今後の注目点としては、「これから想定される世界的な金融大混乱」に対して、「人々が、どのような対応を取るのか?」ということであり、また、「現時点では、誰が、時代の先取りをしているのか?」ということである。
別の言葉では、「社会科学の次元上昇」に関して、「すでに次元上昇した自然科学を、どのようにして社会科学に応用するのか?」ということでもあるが、この時に役立つのが、現在の「生成AI」であり、実際には、「時代遅れの意見を排除しながら、時代を先取りした意見を選出すること」である。そして、このような行為の積み重ねにより、将来的には、現在と全く違った社会が産み出されるものと考えている。(2024.6.25)
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米国銀行の生前遺言
6月22日のブルムバーグに掲載されたニュースに、「米金融当局は21日、経営破綻後の事業整理の道筋を示す『生前遺言』の審査結果を発表し、米銀大手4行が提出した計画書について改善を命じた」というものがあった。より具体的には、「米連邦準備制度理事会(FRB)と米連邦預金保険公社(FDIC)は共同声明で、JPモルガン・チェースとバンク・オブ・アメリカ、ゴールドマン・サックス・グループ、シティグループの計画書はいずれも『不備(shortcoming)』があると指摘した」というものであり、特に、「当局は4行それぞれのデリバティブ(金融派生商品)への対処方法に問題があると判断した」とも説明されているのである。
そして、この点については、私が以前から指摘していた通りの展開とも思われるが、実際には、「農中の巨額損失をキッカケにして、デリバティブのバブルが完全崩壊を始めた可能性」のことである。別の言葉では、「1980年代初頭に誕生し、その後、2010年前後にピークを付けたデリバティブ」が、「2020年代初頭までの約40年間、世界の金利を低下させ続けたものの、金利上昇によりバブルが崩壊し始めた状況」のことである。
より詳しく申し上げると、現在の「金融界の目に見えないツインタワー」である「約600兆ドルのOTCデリバティブ」と「約300兆ドルの世界債務残高」に関しては、「1971年のニクソンショック以降に誕生した信用本位制と呼ぶべき通貨制度」において、「本位通貨となったデジタル貨幣」が、大量の資産と負債を産み出したことが主な原因だったものと考えられるのである。別の言葉では、「通貨の歴史」を遡ると、今回の「マネーの大膨張」については、「西ローマ帝国にまでさかのぼる必要性」があるものと感じているが、実際には、「共同体の規模拡大に伴う社会的な信用の増加が、結果として、信用を形にするマネーの創造につながった展開」のことである。
そして、現在では、最後の砦とも言える「デリバティブ」が完全崩壊を始めた状況とも思われるために、今後の展開としては、「西洋諸国の金融当局者が、デリバティブの処理を図り始めた可能性」が指摘できるものと思われるのである。つまり、「CBDC(中央銀行デジタル通貨)の大量発行により、デリバティブに関する不良債権を処理する可能性」のことでもあるが、この時の問題点としては、「現在の通貨制度ができるまでに、1600年もの時間が必要だった事実」が指摘できるとともに、「バランスシート」という言葉が象徴するように、「負債」を消滅させたときに、その裏側に存在する「資産」も、同時に消滅する可能性のようにも感じている。(2024.6.27)
本間宗究のコラムhttp://www.tender-am.com/column.html より許可を得て転載。
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〔opinion13827:240802〕