みんなで渡った赤信号
「新NISAへの資金流入額が、半年間で7.5兆円を超えた」と報道されているが、この点については、「みんなで渡った赤信号」というような状況のようにも感じている。つまり、バブルの絶頂期に言われた「赤信号、みんなで渡れば怖くない」というような心理状態に、今回も、多くの日本人が陥った可能性のことである。
別の言葉では、「みんなが渡るから怖くない」というように、「赤信号を渡るときの恐怖心が、群集心理によって喪失した状況」とも思われるが、今回の問題点は、以前と同様に、「信号と投資との違い」のようにも感じている。つまり、「投資」に関しては、「購入時の恐怖心」が存在しなくとも、その後に、「保有銘柄の価格変動に対する恐怖心」が存在することも見て取れるからである。
より詳しく申し上げると、私自身の経験則からは、「過去50年弱の期間、多くの日本人が、『株が上がると買い、下がると売る』という投資行動を繰り返してきた状況」だったことも見て取れるのである。つまり、「人の往く裏に道あり花の山」という相場の格言のとおりに、投資の基本は、「人と反対の行動を取ること」にあるものと考えているが、実際には、ほとんどの人が、「順張りの投資」をしてきた状況だったのである。
そのために、私自身としては、口を酸っぱくして、「月足を見ながら、10年単位での割安株に投資する方法」を推奨してきたものの、実際には、「まったく効果が無く、無力感を覚えざるを得ない状況」ともいえるのである。つまり、「日本人に、投資は向かないのではないか?」と何度も自問自答させられたわけだが、この点については、やはり、「専門家と言われる人々の勉強不足」が、主な原因として挙げられるようにも感じている。
より具体的に申し上げると、海外では、「多くの投資専門家」が、きわめてプロフェッショナルな状態のために、「一般投資家が、専門家に頼ることができる状況」とも言えるのである。しかし、一方で、「日本では、証券会社や銀行などによる投信の販売が、国民の主な投資方法となっている状況」のために、「専門家によるアドバイスが受けにくくなっている状態」ともいえるのである。
そして、このことが、「国民の資金が、預金から投資へ移動しなかった原因の一つ」のようにも感じているが、今後は、「政府や通貨への信頼感」が激減することにより、一挙に、「実物資産への資金移動が始まる展開」を想定している。(2024.7.31)
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天井知らずのインフレ
7月31日に発表された「日銀の利上げと量的引き締めの開始」は、「植田日銀総裁の覚悟」が現れている状況とも思われたが、実際には、以前に申し上げたように、「植田日銀総裁の思惑」が「できるだけ時間稼ぎを行いながら、最後の段階で、天井知らずのインフレ(runaway inflation)に訴える可能性」とも推測されたからである。つまり、「膨張し続ける日本国家の財政赤字」に対処する方法としては、「戦後の日本と同様に、ハイパーインフレしか残されていない事実」を、植田総裁が理解しているものと思われるのである。
そのために、今回、「0.25%の利上げ」と「国債買い付け金額の減額」を発表したものと考えられるが、今後の注目点としては、「天井知らずのインフレ(runaway inflation)」という言葉のとおりに、「きわめて短期間のうちに、ハイパーインフレが発生し、収束する可能性」だと考えている。つまり、「1923年のドイツ」などのように、「約6ヶ月」という期間で、「パンなどの商品価格が、天文的な価格にまで急騰する可能性」であり、しかも、実際の状況としては、「ほとんどの人が、始まる直前まで、まったくハイパーインフレを想定していなかった」とも報告されているのである。
そして、この点については、「1991年のソ連」なども、ほとんど同じような展開を見せた状況だったが、実際には、「国債価格の暴落」、すなわち、「金利の急騰」が始まった時から、「紙幣の大増刷」が実施され、最後の段階では、「インクが無くなる事態」にまで追い込まれた状況だったのである。別の言葉では、「政府や通貨に対する信用が完全に失われた状態」に陥ると、ほとんどの人は、「換物運動」、すなわち、「受け取った紙幣を、すぐに市場で実物資産に交換する動き」に訴え始めることが見て取れるのである。
しかも、このような「ハイパーインフレの発生」については、「1980年代以降の中南米」や「1990年代の東欧」、そして、「2000年代のアフリカ諸国」などで発生していることも理解できるのである。別の言葉では、「先進諸国以外では、頻繁にハイパーインフレが発生している状況」でありながら、ほとんどの人は、「先進国で、ハイパーインフレが発生するわけがない」と認識している状態のことである。
つまり、「1923年のドイツ」や「1945年の日本」で、「実際に、ハイパーインフレが発生した事実」を、現在、ほとんどの人々が無視している状況のことだが、今後の注目点は、「国債の買い手が、世界的に消滅した場合に、一挙に、CBDC(中央銀行デジタル通貨)が発行され、その資金が、急激に実物資産に向かう可能性」だと考えている。(2024.8.1)
本間宗究のコラムhttp://www.tender-am.com/column.html より許可を得て転載。
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〔opinion13878:240913〕